2016年03月31日

新著紹介「鳥の行動生態学」(江口和洋編著.京都大学学術出版会)

2016年3月31日
江口和洋


鳥の研究というのは楽しいものです.その楽しいはずの研究がしんどいものと感じるようになるのが論文作成の時です.論文作成を前提とした研究を進めるためには,その研究の世界的な趨勢を知ることが必須な作業であるからです.インターネットを使って情報検索が格段に容易になった現代でも,各情報の内容を理解するには、その情報源の一つ一つに当たらなければならないのは,昔から何も変わってはいません.昔は情報取得の困難さのために参照する範囲が限られるという言い訳も通用しましたが,今では参照可能な情報が満ちあふれ,情報の取捨選択だけでも大変な作業です.
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このような時代にあってこそ望まれるのは,さまざまな研究テーマに関する総説です.総説を読んで,あらかじめ,研究テーマの意義や世界的趨勢を把握することにより,情報参照が格段に容易になり,しんどさも軽減されます.そのような総説を満載した本書ほど鳥類研究者にとって「おいしい」本はないと思います.本書の各章は,血縁認知,対称性のゆらぎ,配偶システムとつがい外父性,オスからメスへの給餌行動,条件的性比調節,子殺し,托卵鳥と宿主の軍拡競争,採餌行動における知能的行動,警戒声による情報伝達,さえずりにおける形質置換と種分化,ストレスホルモンという,行動生態学分野におけるホットな研究テーマをカバーしています.テーマにより内容に硬軟がありますが,11名の著者は,研究の世界的趨勢やこれらの行動の進化的意義などについて,いずれも,わかりやすく解説しています.それぞれのテーマに興味を持った読者は本書により方向付けをすることで,アルファベットに満ちあふれた,視界不良の情報の海に,怖れることなく入って行くことができるでしょう.

たった1冊で,鳥類といわず,脊椎動物の行動生態に関する主要なテーマのほとんどを網羅している,非常にお得な解説書であるといえます.各章の内容は高度ですが,学部学生のための生態学の教科書として,また,卒業研究や学位研究の研究テーマを考えるための手引きとして適当だと考えます.もちろん,鳥の行動についてもっと良く知りたいという鳥学会の会員にも,章ごとに多くの情報を提供します.
posted by 日本鳥学会 at 15:47| 本の紹介

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2016年3月31日
広報委員長 三上修


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鳥学会の情報の収集および拡散にお役に立てていただければ幸いです。
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2016年03月03日

骨を折って編集した「奄美群島の自然史学 亜熱帯島嶼の生物多様性」の紹介

2016年3月3日
環境省奄美野生生物保護センター 水田拓


私の職場である環境省奄美野生生物保護センターには多くの研究者が来訪します。さまざまな研究者にお会いし、そのお話を聞くにつけ、自然史研究の面白さ、奥深さを実感し、こんな話を内輪にとどめておくのはもったいない、広く一般の人々に、例えば本などにして紹介することができれば、と、以前から考えていました。

とはいえ、本など簡単にできるものではありません。気になりつつも、出版はなかば妄想のように頭の中にとどまっているだけでした。ところが。妄想が実現するきっかけとなる出来事が2年前に起こりました。2月のある雨の晩に、職場から自宅に歩いて帰る途中、水たまりで足を滑らせ転倒し、あろうことか左足を骨折してしまったのです。全治3か月。野外調査が始まろうという大切な時期に、山歩きはおろか日常生活もままならない事態に陥りました。

意に反して机の前から動けない時間が3か月できたとき、くだんの妄想が浮かび上がってきました。これを機に、出版に向けて動き始めよう。幸い東海大学出版部の編集者、稲英史氏を紹介してくださる方がいて、稲氏に出版を引き受けてもらえることになりました。またうれしいことに、原稿を依頼した全ての方から執筆承諾の返事をいただけました。こうして多くの方々の協力のもとにできあがったのが、この「奄美群島の自然史学 亜熱帯島嶼の生物多様性」です。骨折したのが2014年の2月19日、出版されたのが2016年2月20日ですから、まるまる2年をかけて、妄想が現実のものとなったことになります。
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まあそんな個人的な経験はさておき、この本では総勢23名におよぶ研究者が分担執筆して、奄美群島を舞台に自身が行っている自然史研究について紹介しています。研究対象や研究分野は幅広く、内容は単なる一地方の自然の紹介にとどまっていません。奄美群島という地方を軸としながらも「自然史研究とはなにか」を具体的に示した、教科書としても読める本になっているのではないかと自負しています。また、研究内容が面白いだけでなく、それぞれの著者の文章からは、野外調査の苦労や喜び、奄美群島の自然に対する熱い思いなども伝わってきます。そこはかとないユーモアさえ感じられる対象生物への愛情表現も見逃せません。生き物が好き、自然史研究が好きな人には、きっと面白く読んでいただけると思います。

ところで、著者は23名いるのに表紙に「水田拓編著」とだけ書かれているのは、なんとも面はゆい気がします。しかしこれは、内容に関する責任は全て水田が負う、ということの現れでもあります。誤りは、編集段階で何度見直しても次から次へと見つかりました。もしかしたらまだあるかもしれません。いやきっとあるでしょう。誤りの指摘は真摯に受け止め、批判は甘んじて受けたいと思っています。しかしそれ以上に、賞賛には手放しで喜びます。文字通り骨を折って編集したこの本、ぜひお読みいただき、感想などもらえればありがたく思います。
posted by 日本鳥学会 at 15:25| 本の紹介