2018年11月18日

鳥の学校(2018年)「鳥類研究のためのバイオロギング野外実習」の報告(3人目)

伊藤加奈(公益財団法人 日本野鳥の会)

 ジオロケーター、データロガー、衛星発信機。これまで何度か見聞きしたけど、自分で使ったことがないし、違いがどうもよく分からない。どの調査にどの手法が適しているのか?今回、実習付きの講習会に参加することで、色々学ぶことができました。
 今回の講習で良かった点は、2泊3日と時間が十分に確保されていたので、講義でバイオロギングとは何ぞやということから、それぞれの機器の仕組み、使用(研究)事例まで、一から解説してもらえたことでした。例えば、位置の記録というと一般的にGPSがよく知られていますが、照度や加速度、水深等の情報による記録方法があることや、データの取得方法は、ロガーに蓄積され、回収が必要なタイプとデータは発信されるので回収する必要がないタイプ(発信機)があること。また、ロガーの装着方法として、ハーネスと防水性テープがあり、それぞれの長所・短所など。今まで断片的だった情報がつながり、バイオロギングの全体像が見えてきました。このほか、機器の重さやバッテリーの持ち、価格等にも違いもあるので、実際にどの機器を使うかは、実施例や経験者に尋ねながら検討するのが良さそうでした。

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図1.今回使用したデータロガー。防水仕様になっているタイプ(消しゴムではない)

 もう一つ、良かった点は、実習で実際にロガーの装着ができたことでした。学ぶには、やっぱり実践が一番です。付け方としては、図2のように特別難しいわけではないのですが、実際にやってみると、私は羽の取りだしが不十分だったせいか、ロガーがぐらついていて、固定が甘いという結果に。もう1、2回練習すれば上手くできる気がしますが、それはこれまでの研究者の試行錯誤によって方法や資材が確立しているのであって、装着する鳥や機器が違うと、自分で別途工夫が必要だろうと思いました。ロガーの装着は参加者12人全員が経験することができました。オオミズナギドリの営巣地にも直接入り、巣穴を見たり、ヒナの計測をしたりできたこともなかなか出来ない経験で、講師陣の参加者に出来るだけ経験させてあげたいという思いを感じました。
 バイオロギングは、大型の海洋動物での研究が主流と思っていましたが、今ではそれに限らずに活用の場が広がっているようです。当会でも昨年よりアカコッコの利用地域を把握する調査で利用しています。今回、バイオロギングが調査手法の一つとして少し身近なものになったので、機会があれば積極的に使ってみたいと思います。

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図2.a)ロガーの装着方法:装着したい場所にガイドライン(ここでは枠を使用)をおく。その内側の羽毛をピンセットを使って取り出す。b)防水テープの粘着面を上にして羽毛の下に付ける。c)ロガーを羽の上において、テープを巻く d)完成。ロガーがしっかり装着されているか触って確認。

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図3. 計測のために巣穴からヒナを出す講師

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2018年11月14日

67巻2号の注目論文は白井さんの落葉広葉樹林再生過程における鳥相変化の論文に

和文誌編集委員長 植田睦之


2018年10月発行の日本鳥学会誌67巻2号の注目論文は白井さんの落葉広葉樹林再生過程における鳥相変化の論文になりました。

白井聡一 (2018) 針葉樹林ギャップ地を落葉広葉樹林に再生する過程における鳥相の変化. 日本鳥学会誌 67: 227-235

この論文は,人工林内に雪害で生じたギャップに広葉樹を植林し,その後の鳥相を10年にわたって追跡したものです。
現在,全国の森林は成熟が進み,鳥相が変わってきています。また,荒れた植林を再生する試みも行なわれており,その生物多様性への効果も注目されています。本研究はこうした今後の日本の鳥の変化を考える上での貴重な情報を提供しており,また,アマチュアによる長期の研究という日本鳥学会誌らしい論文でもあり,注目論文とし選定しました。

論文は以下のURLより,どなたでも読むことができます。
http://doi.org/10.3838/jjo.67.227

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posted by 日本鳥学会 at 15:31| 和文誌

2018年11月02日

鳥の研究を始めたい人によい本が出ました

国立科学博物館動物研究部 濱尾章二

「鳥の研究をしてみたいけど、どうすればいいの?」という若い方は多いことと思います。また、「そもそも鳥の『研究』ってなに?」という疑問を感じている方もあるのではないでしょうか。そんな方によい本が出たので、紹介したいと思います。
『はじめてのフィールドワークB日本の鳥類編』(武田・風間・森口・高橋・加藤・長谷川・安藤・山本・小林・岡久・武田・黒田・松井・堀江著、東海大学出版会)です。
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この本の著者は14人の若手研究者です。全員ほぼ30歳台、多くが博士号をとったばかりの人です。スズメ、ツバメといった普通種からコウノトリや海鳥までいろいろな鳥について、市街地・高山・離島などさまざまな場所で調査をした人たちが1章ずつを担当し、自分の調査経験と研究を紹介しています。

頭が切れる人、体力・ど根性の人、ふつうの人、いずれが書いた章も引き込まれるおもしろさですが、暗中模索の学生さんがフィールドに出、自分の観察から学問的テーマを見つけ出し、研究を発展させていく過程が手にとるようにわかる風間さんの章と堀江さんの章が、私には特におもしろく、読みごたえがありました。研究には、最初から課題を定めそれを解いていこうという仮説検証型のスタイルと、観察事実をつみあげて何がわかったかを考えるデータ先行型のスタイルがあります(前者は長谷川さんの章、後者は山本さんの章を読むとよくわかります)。この本の著者たちはどうやって自分の「研究」を作っていったのかが、私には最大の読みどころでした。「よい疑問(仮説)を立てよ」「データは料理次第」とは言われますが、それにはどうすればよいのか? その答えも、この本の中には複数含まれています。

アマチュア研究者であった私は、当時「個々の論文には書かれていない、ある人が博士号取得に至る研究の全貌」を思い描くことができずにいました(山岸哲さんの受け売りですが、私も本当にそう感じました)。この本は、そういう「全貌」を知りたい人にも歓迎されることと思います。

一方、この本の最大の特徴は、研究そのものにもまして、研究以前の段階から研究をなしとげるまでの若者の姿がたっぷりと描かれていることです。高校や学部学生時代の経験から研究を始めるに至る過程、そして本格的な調査から論文をまとめるまでが、飾らない生き生きとした文章で綴られています。進学先のさがし方、指導教員とのやり取り、フィールドでの苦労(トイレ、木登り、職務質問等々)、安全対策、研究上の悩みなど、笑ってしまうケッサクな話もなるほどと感心する話しも、正直に書かれているのがこの本の魅力であり、後に続く人の糧となることでしょう。

読んだ後には、「こうやれば自分もできるかも知れない」「いい研究をした人でも悩んだんだ」「やっぱり凄い人は最初からよく考えてるなー」といろいろな感想がありそうですが、これから研究を始めようとする人に役立ち、そういう人を励ます本であることは間違いありません。内容に比べて値段も安く、学会員ではない方を含め、広くお薦めします。

最後に、編者とはなっていませんがとりまとめの労をとられた北村亘さん、そして東海大学出版部に「グッジョブ!」の言葉を送ります。

(参考)鳥の研究をしてみようという方に、以下もお薦めします。
伊藤嘉昭 (1986) 大学院生・卒研生のための研究法雑稿.生物科学 38: 154–159.
上田恵介(編) (2016) 野外鳥類学を楽しむ.海游舎.
佐藤宏明・村上貴弘(編) (2013) パワー・エコロジー.海游舎.
上田恵介 (2016) 鳥の研究が出来る大学と大学院.鳥学通信.
上田恵介 (2016) 鳥の研究が出来る大学と大学院 (Part-2).鳥学通信.
調査ボランティア紹介(日本鳥学会企画委員会)
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