2019年10月22日

日本鳥学会ポスター賞を受賞して 

岡山理科大学 中原多聞

 この度2019年度大会でポスター賞をいただくことができ、大変嬉しく思っております。まだまだ実感がなく、だんだんと賞の重みを感じ始めているところです。

 今回発表させていただいた私の研究は、できるだけ多くの標本を観察し、分析する必要のあるものでした。また、観察や分析を行う前に解剖を行う必要があり、作業1つ1つに非常に時間がかかりました。私1人で行うとしたら何年かかるか分かりません。そんな研究をこの半年で行うことができたのは、施設で亡くなった動物を快くご提供頂いたことや、先生方から手厚いご指導を頂けたこと、友人が時間を作って作業を手伝ってくれたこと、母がずっと応援してくれていたことなど色々な要因が全て揃う恵まれた環境にいたからだと思います。研究に関わってくださった方に心から感謝申し上げます。

 これからも、多くの方々に助けられた上でこの研究が成り立っていることを忘れず、研究を深めていきたいと考えております。
 最後になりますが、鳥学会の運営の皆様、ポスター審査員の皆様にこの場を借りてお礼申し上げます。研究をする学生として大きく成長させていただけた学会でした。

ポスターの概略
ペンギン類は骨内部を緻密化している事が先行研究によって知られています。このような骨内部の緻密化は哺乳類では体系的な研究が行われており、水中生活への適応であると考えられています。

そんな中で、先行研究ではペンギン種間や成長段階で内部構造に違いは確認されませんでした。また、他の水鳥(ウミスズメ科)においては骨の緻密度と潜水能力は相関しないという結果が示されていました。

しかし、このような骨内部構造の変化が水中への適応であると考えるならば、潜水深度の異なる種や遊泳開始前後で変化が確認出来るはずだと考えると共に、そもそも多くの鳥類がどのような骨内部構造をしているかを明らかにしなければ、内部構造の変化について評価することは難しいと私は考えました。

そこで私はCTスキャナーを用いて、鳥類18目24種の内部構造の観察をするとともに、ペンギン類9種での種間比較を行いました。さらに、レントゲンを用いて日齢の明らかな個体での成長観察を行いました。

ペンギン類と他の鳥類との比較の結果、多くの鳥類の四肢骨は骨密度の低い管状骨をしている一方で、ペンギン類のみ極めて緻密な構造をしていると分かりました。また、ペンギン類は四肢骨だけでなく全身の骨を緻密化しているとわかりました。

ペンギン種間での比較の結果、骨全体を緻密化している種とそうでない種が存在することが明らかとなりました。

成長観察の結果、ペンギン類の骨内部構造は成長段階で変化し、緻密化は遊泳開始前後で完了することが確認されました。

以上の結果から、ペンギン類は種間や成長段階で内部構造を変化させていることが明らかになりました。

また、他の鳥類との比較やペンギン種間の比較の結果から、ペンギン類の骨の緻密化は水中生活への適応の結果であり、その緻密度の違いは潜水能力の違いを反映している可能性が高いと推察されました。

今後はペンギン種間での内部構造の違いを比較するための要因を増やして分析していくと共に、化石種のペンギンを観察することも視野に入れて研究を進めていきたいと思います。

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観察したキングペンギン



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2019年10月21日

第4回日本鳥学会ポスター賞受賞の感想

大阪市立大学理学研究科 西田有佑

この度、日本鳥学会2019年度大会にてポスター賞を頂くことができました。ありがとうございました。過去の受賞者の方々をみてみると、毎年おもしろい研究発表をされている若手の方がずらっと並んでいて、私の研究も少し認められたのかな?と思っています。これからも調査・研究がんばるぞ!

モンベル様からは超豪華なレインパーカーを記念品としていただきました。ありがとうございます。調査での着心地も良さそうで今年の調査が楽しみです。

ポスター内容の概略
今回の受賞ポスターのテーマは「餌資源の豊富ななわばりで冬を越せた個体は、その後の繁殖が上手くいくのか?」というものです。越冬環境がもたらす繁殖パフォーマンスへの影響のことを、専門的には「キャリーオーバー効果」と呼びます。あたりまえの現象のように思えますが、野生動物で調べた例はかなり少なく、まだまだ分かっていないことの多い生態学的現象の1つです。

私はとくに「越冬環境がもたらすオスの繁殖成功へのキャリーオーバー効果」に興味がありました。オスの繁殖成功はメスと交尾できるかでほぼ決まるのですが、上手に求愛できたオスほどメスにモテます。そして栄養状態が良く元気なオスほど上手に求愛できることが多くの鳥類で知られています。もし餌資源の豊富ななわばりで冬を越したオスほど、繁殖開始時の栄養状態が良くなり、求愛行動の質も高くなってメスにモテることを示せれば、オスの繁殖成功へのキャリーオーバー効果の存在を確かめられそうです。

そこで注目したのがモズです。エサをなわばり内の木々の枝先に突き刺す「はやにえ行動」で有名な小鳥です。はやにえはエサの少ない冬に備えた保存食で、たくさんのはやにえを食べた個体は繁殖開始時の栄養状態が良くなることが知られています (Nishida & Takagi, 2019, Anim. Behav.)。また、繁殖期になると、オスは歌をつかってメスに求愛します。栄養状態の良いオスほど魅力的な歌をもつことができて、メスにモテることが私の先行研究で分かっています(Nishida & Takagi, 2018, J. Avian Biol.)。

ということで、次のような仮説を立てて検証しました。「良い越冬なわばりをもつオスは、たくさんはやにえを貯えられて、そのはやにえを食べることで繁殖期の歌の魅力を高められて、メスにモテるようになる?」という仮説です。詳しい結果は省きますが、この仮説を強く支持する証拠が、観察と実験の両方で集めることができました。

つまり、モズのオスでは、越冬環境がはやにえの貯蔵・消費を介して、繁殖期の求愛行動の質・配偶成功にまで影響していたのです。性選択の文脈でキャリーオーバー効果が生じることを示したおそらく初めての研究です。生き物の生態をちゃんと理解するには、繁殖期だけじゃなくて越冬期にまで目を向けないといけないようです。

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カエルの仲間のはやにえ


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2019年10月20日

第4回日本鳥学会ポスター賞 西田さんと中原さんが受賞しました

日本鳥学会企画委員会
中原 亨

 若手の独創的な研究を推奨する目的で設立された日本鳥学会ポスター賞は、厳正なる審査の結果、今年は西田有佑さん(生態・行動分野)と中原多聞さん(保全・形態・遺伝・生理・その他分野)が受賞しました。おめでとうございます。
 ポスター賞は今回が4回目となり、今年の応募は42件(生態・行動が26件、その他が16件)と、過去最多となりました。ポスター賞は30歳になるまで何度でも応募できますので、あと一歩だった方も、2次審査に残れなかった方も、是非再挑戦してください。
 最後になりますが、ポスター賞の審査をご快諾して頂いた6名の方々、記念品をご提供頂いた株式会社モンベル、大会実行委員のみなさまにこの場をお借りして御礼申し上げます。

2019年日本鳥学会ポスター賞
《生態・行動》分野

「モズの越冬期の生息地利用が、はやにえ貯蔵量や求愛歌の魅力に与える影響」
西田有佑(大阪市大)・木昌興(北大)

《保全・形態・遺伝・生理・その他》分野
「骨内部構造から考察するペンギン類の水棲適応」
中原多聞・林昭次・奥田ゆう・皆木大生・小平将大・知花宇晃・亀崎直樹(岡山理大)・進藤英朗・久志本鉄平・上原正太郎(下関市立しものせき水族館)・村上翔輝・恩田紀代子(ニフレル)・石川恵・伊東隆臣(海遊館)・毛塚千穂・樋口友香(須磨海浜水族園)・安藤達郎(足寄動物化石博物館)

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左から,中原さん,西田さん


次点
《生態・行動》分野

「琉球列島の島間で異なる音響環境に適応したさえずりによる生殖隔離」
植村慎吾(北大)・木昌興(北大)

《保全・形態・遺伝・生理・その他》分野
「飛行特性を反映させた大型水禽類4 種のセンシティビティマップ」
佐藤一海・向井喜果・鎌田泰斗・佐藤雄大・山田新太郎・関島恒夫(新潟大)

一次審査通過者
《生態・行動》分野

「繁殖上手なつがいはどのように侵入者に対処する?:なわばり防衛行動と繁殖成績の関係」
小野遥・澤田明・村上凌太・木昌興(北海道大)

「ハシブトガラスの画像認識能力に関する研究」
小原愛美(宇都宮大院)・青山真人(宇都宮大)・杉田昭栄(宇都宮大・東都大)

「樹洞営巣性鳥類の営巣環境をめぐる闘争行動―ニュウナイスズメとスズメの種間比較―」
佐々木未悠(弘前大)・高橋雅雄(弘前大)・蛯名純一(おおせっからんど)・東信行(弘前大)

「サンコウチョウにおける遅延羽色成熟の適応的意義」
能重光希(北大院・理)・植村慎吾(北大院・理)・大井紗綾子(元大阪市大・院理)・木昌興(北大・院理)

《保全・形態・遺伝・生理・その他》分野
「小さな島にも遺伝構造、亜種ダイトウコノハズクは血縁者同士が近くに分布する」
澤田明(北大)・岩崎哲也(大阪市大)・木昌興(北大)

posted by 日本鳥学会 at 18:07| 大会報告