2022年04月15日

「若手生態学者が見ている世界-研究者支援写真展-」に研究者として参加して

東京大学大学院 農学生命科学研究科
水村春香


 野外で調査研究をしていると、必ず写真を撮る機会がある。その多くは調査現場や対象種の生態の記録のためだが、私は調査地とさせていただいていた富士山麓に5年通ううちに、目にした多くの生き物や千変万化する風景を、たくさん写真に残していた。おそらく研究をしていなければ、見ることはなかった景色や生き物である。このような写真をどこかで表現、共有できたらいいなと前々から思っており、もし今年博士課程が無事に修了できたら、大学の展示スペースとかで写真展でもやってみようかと朧げに考えていた。しかし、私が知っていた学内のスペースは誰もが見に来られない場所のため、この案は消えそうになっていた。
 そんな中、「若手研究者の写真展しようかと思ってるんだけど興味ある?」との連絡を主催者の清水拓海さんからいただいた。内容を聞くと、単純に研究者が調査中に撮った写真を並べるだけでなく、各研究者の研究内容の紹介とともに写真が展示され、さらに写真の販売を行い、その収益は展示した各研究者へ全額寄付され各自の研究活動に活用されるというものだった。今までにはない研究支援や研究発信の形であると思い、そして何より、死蔵しそうになっていた写真を展示できるまたとないチャンスと感じた。
 出展した写真は、メッセージ性の強いものや調査中の風景といったものを中心に選んだ。また、鳥に関心がなくても興味を持ってもらえるよう、間違い探しとして鳥を探してもらうものも入れた。


どこに鳥がいるでしょう? (ヨタカ).JPG

どこに鳥がいるでしょう?(ヨタカが隠れています)


開催中にはお客様とお話する機会があり、研究の内容や展示写真の背景、野外調査の実態などたくさんお話した。私の研究内容は二次草原の鳥類の保全を目的としたものだったが、その大切さに共感してくださる方も多く、また「研究頑張ってくださいね!」と応援のお言葉をいただき非常に励みになった。普段の学会や講演会にはないギャラリーという雰囲気やお客様の反応に、新鮮な気持ちで研究を見つめなおすきっかけとなった。
 今回の企画に参加して、研究者の支援や研究内容の発信方法として写真展という方法があることに、私自身初めて気づいた。これはもし自分で写真展を企画していたらまったく意識していなかったことである。その可能性は写真展に限らず、絵画などアート全般に反映できると考えられ、今後様々な活動が展開され、多くの研究者が参加していくことが期待される。最後に、このような機会を与えていただいた企画者の清水さんに厚くお礼申し上げるとともに、一緒に研究者として出展し、写真展を作り上げた北沢宗大さん、高田陽さん、田谷昌仁さん、湯浅拓輝さんに心より感謝いたします。

(写真の正解は、真ん中の右端です。わかりましたでしょうか?)


posted by 日本鳥学会 at 19:00| その他

2022年04月08日

「若手生態学者が見ている世界 -研究者支援写真展- 」を企画して

慶應義塾大学 政策・メディア研究科
清水拓海


「若手生態学者が見ている世界 -研究者支援写真展- 」を開催した第一の目的は一般の人に「研究者」そして「研究」について知ってもらうことでした.

 近年の日本における研究者を取り巻く環境は厳しいと言わざるを得ません.「 博士課程進学に自身の資産が求められる点」「限られた助成金に対して激しい競争率」「 博士号取得者に対する日本企業の消極的な採用状況」など日本で研究を行なっていくことや,博士号の取得には多くの壁が存在すると感じていました.実際に日本において博士号取得者数は2006年を境に減少傾向にあります.

 生物多様性の保全やSDGsが話題になっていますが,それらの実現のためには地道に研究を続けている研究者の活動が必要不可欠です.しかし自然環境や野生の動植物を対象として研究を行う「生態学」と呼ばれる分野の研究の実態や内容,その意義などに関して一般の人々が知る機会はほとんどありません.そんな研究者を少しでも応援したいと思い,写真展開催の着想に至りました.研究者が調査の合間に撮影している景色や動物,それらに伴う事象について写真を通じて一般の人に見てもらい,研究内容やその意義に関してわかりやすく紹介することで,[研究者]を身近に感じ,彼らの研究内容にも関心を持ってもらえるような場所作りを目指しました.同時に寄付と,展示写真やポストカードの販売を行い,その売上の一部を参加してくれた研究者に研究費として寄贈するという形を取りました.

 2021年11月29日から12月5日の7日間開催した写真展では100枚程の写真と5人の研究者の研究紹介パネルを展示しました.合計で130人以上の人々が訪れ,実際に写真や研究紹介を見てもらいました.「研究者とその研究について一般の人に知ってもらう」という目的はある程度達成できたのではないかと自負しています.加えて,印象的だったのが研究者を目指す若者(高校生や大学生など)が幾人も見にきてくれたことです.進学などの相談に乗るだけでなく,研究者の大変さや面白さを伝えることもできたので,そういった点でも開催した意義があったと感じています.また「写真を撮ることが目的ではなく,研究のための写真なので清々しい.独特な味が出ていて楽しめました.」「私達がいつまでも住める環境を残していきたいですね.研究,頑張ってください!また企画を楽しみにしています.」「写真のタイトルと一言が面白くてついつい全部読んでしまいました.」といったコメントを一般の方々からもらうことができました.

 それぞれの写真にタイトルと,撮影した研究者による一言をつけたことで,多くの人がじっくりと一つ一つ読んでくださっていたのも嬉しく思いました.「若手生態学者が見ている世界 -研究者支援写真展-」に参加してくれた水村春香さん,北沢宗大さん、高田陽さん、田谷昌仁さん、湯浅拓輝さん,そして写真展を実際に見にきてくださった方々,写真展を紹介してくださったマスコミの皆様を始め,SNSなどで情報を拡散してくださった皆様,本当にありがとうございました.2022年5月9日から5月15日には第二回研究者支援写真展をart gallery OWL にて企画しております.次は写真だけでなく,アーティストとのコラボ作品として「研究者支援アート」の展示も予定しておりますので,是非遊びにきてください.


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写真展の様子(B1展示スペース).


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写真展の様子(2F展示スペース).


生態学者アート支援プロジェクトHP:http://scientist-support-by-art.com/
Art gallery OWL HP: https://gallery-owl-yamate.com/


posted by 日本鳥学会 at 19:00| その他

記事紹介:「若手生態学者が見ている世界 -研究者支援写真展-」 開催報告

広報委員会 遠藤 幸子


みなさんは、自然のなかでこれまでにどんな景色に出会ってきましたか?

調査地で研究者がとらえた貴重な一瞬を展示した「若手生態学者が見ている世界 -研究者支援写真展- 」が、2021年11月29日から12月5日にかけて横浜で開催されました。今回、こちらの写真展を企画された清水拓海さんと出展された水村春香さんからご寄稿いただきましたので、2週にわたってご紹介いたします。

清水さんはこの写真展にどのような思いを込めていたのでしょうか。
水村さんが写真展に参加して、新たに気づいたこととは…?
ぜひご覧いただけると嬉しいです。

1週目 清水拓海さん
「若手生態学者が見ている世界 -研究者支援写真展- 」を企画して
    
2週目 水村春香さん
「若手生態学者が見ている世界 -研究者支援写真展- 」に研究者として参加して
    
posted by 日本鳥学会 at 18:00| その他

2022年04月01日

(仮称)苫東厚真風力発電事業計画への対応をめぐって(下)

武石全慈(鳥類保護委員会委員長)

4. 2021年度書面総会での要望書決議
 2021(令和3)年3月下旬には、本件事業の中止を求める要望書を鳥学会長名で事業者に対して提出して欲しい旨の打診が鳥学会員4名の連名で鳥類保護委員にあり、4月20日付けで決議採択依頼状と要望書案を鳥類保護委員会に提出していただきました。その際の要望理由は、本事業計画地とその周辺は、国内希少野生動植物種のタンチョウ、チュウヒ、オジロワシ、オオワシの繁殖地や生息地となっているとともに、天然記念物のマガン、ヒシクイの移動経路や餌場および塒が存在し、近年個体数減少が懸念されるオオジシギも多数繁殖し、その他の多くの野生動植物にとっても非常に重要な生息・生育地となっていること、また、これらの鳥類は風力発電施設等の人工物への衝突リスクが高いか、障壁影響の発生確率が高いと考えられ、風力発電施設の建設がこれらにもたらす影響は極めて大きいと予測され、事業計画の中止以外には影響を回避・低減することは困難と考えられるということでした。
 その後、要望書提案者と保護委員会との間での協議や保護委員会内部での検討を行ない、要望書の文面の修正を行なって行きました。
 その最中に、タンチョウについては、本事業計画地の風車設置区域の浜厚真地区の海岸湿地で、2017年の繁殖成功に引き続き、2021年にも1つがいの再度の繁殖が確認され、それに合わせて要望書の内容を適宜に変更しました。この2021年の繁殖活動については、4月7日に就巣個体を初確認、4月27日に2卵を確認、5月7日に1雛1卵を確認、5月12日に成鳥2羽と連れ立つ雛2羽を確認といった経緯をたどり、7月17日まで浜厚真海岸湿地に滞在した後、親子共々歩いて本事業計画地外へ移動したとのことでした(日本野鳥の会苫小牧支部報No.238)。また、7月12日には、このタンチョウの繁殖成功についての記事が朝日新聞からウェブニュースを含めて報道され、広く世間に知られることとなりました。
 また、現地との関係で触れれば、チュウヒについては、勇払原野は国内有数の繁殖地になっていますが、同地でのSenzaki et al. (2017) の研究によると、湿地パッチ内の繁殖つがい数やつがい当り巣立ち雛数は、湿地パッチ重心から周囲2km以内での人工的な土地利用(舗装道路、工業用地、住宅地、太陽光発電所等)の面積割合と負に関係することが示されていて、現地での風車建設による(バードストライクとは異なる)人工構造物のマイナス影響が懸念されるところです。
 最終的には、鳥類保護委員会として鳥類の保全上重要な案件であると判断して、「(仮称)苫東厚真風力発電事業に対する事業中止要望書」を総会決議として採択することを提案して、8月14日に学会事務局に提出しました。その後、評議員会での審議を経て、日本鳥学会2021年度書面総会に議案として提出され、有効表決者の方々の圧倒的多数の賛成を得て、2021年10月22日付で可決されました。鳥学会会員の皆様には御礼申し上げます。その後、要望書は日本鳥学会長名で11月25日付で事業者のDaigasガスアンドパワーソリューション(株)に郵送され、その写しは親会社の大阪ガス(株)、環境大臣、経済産業大臣、北海道知事、苫小牧市長、厚真町長にも郵送されました。

5. 現地視察
 今回の総会決議要望書の提案者の4名の方々は、以前から本案件の現地で調査研究を行なって来られていますし、鳥類保護委員の中にも現地を訪れている方がおられますので、今回の要望書作成の際には現地の状況把握は基本的にはできていたわけです。ただ、私個人としては、本案件のスケール感が今ひとつわからなかったので、2021年6月14日〜19日にレンタカーで、12月14・15・17日に徒歩で、現地とその周囲を見て回りました。6月の浜厚真海岸では、延々と続く海浜植物群落のあちこちでノビタキがさえずり、砂浜にはオジロワシがたたずみ、湿地周囲でタンチョウがゆっくりと歩きながら餌を探し、オオジシギの誇示飛翔音が聞こえてきます。事業計画地内外の湿地や草地ではチュウヒが飛び交い、エゾシカがちょっと多すぎでしょうがどこにでも現れ、前日の昼にヒグマが通過していったことを示す看板を見かけ(私、前日の昼にはそのあたりにおりました)、なかなかすばらしい所だと実感しました。12月には事業計画地内外の河川沿いの林や鉄橋、防風林や上空などあちこちでオジロワシを見かけ、いくつかの河口域にオオハクチョウの姿や音声を認めました。勇払原野の一部ということですが、原野といっても湿地の占める面積は狭いようで、その大部分がハンノキ林と牧草地、農地からなっていて、さらに造成地跡の乾燥草地が加わっています。私の見て回った範囲では、浜厚真海岸・鵡川河口周辺・弁天沼・安平川河口周辺などの湿地は非常に貴重な存在になっていると思いました。
1. オジロワシ成鳥20211217むかわ町日高本線廃線部鵡川鉄橋.jpg

写真1. むかわ町日高本線廃線部鵡川鉄橋のオジロワシ成鳥 2021年12月17日 武石撮影

2. オオハクチョウ成5幼3羽20211215 厚真町厚真川河口域.jpg

写真2. 厚真町厚真川河口域のオオハクチョウ成鳥5羽幼鳥3羽 2021年12月15日 武石撮影

3. エゾシカ45頭20210616厚真町浜厚真海岸.jpg

写真3. 厚真町浜厚真海岸のエゾシカ45頭 2021年6月16日 武石撮影

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写真4. 苫小牧市弁天のヒグマ注意看板 2021年6月18日 武石撮影

6. 記者発表
 今回の要望書発出に際しては、2021年12月16日の午前11時から苫小牧市政記者クラブ(苫小牧市役所内)において(公財)日本野鳥の会、日本野鳥の会苫小牧支部、ネイチャー研究会inむかわの3団体と共同で記者発表を行ないました。この記者発表の設定と鳥学会側の参加につきましては、(公財)日本野鳥の会の浦達也さんに色々とご配慮いただきました。この場を借りて御礼申し上げます。当日は、上記3団体共同による要望書と鳥学会による要望書の2件について発表が行なわれました。前者の発表は、「勇払原野の風力発電計画地内で特別天然記念物タンチョウの繁殖を確認」、「タンチョウの繁殖確認による(仮称)苫東厚真風力発電事業の撤回を求める要請書」(大阪ガス宛)、「国内希少野生動植物種タンチョウの繁殖に伴った(仮称)苫東厚真風力発電事業に対する要望書」(環境大臣宛)、「国の特別天然記念物タンチョウの繁殖に伴った(仮称)苫東厚真風力発電事業に対する要望書」(北海道知事・苫小牧市長・厚真町長宛)(https://www.wbsj.org/activity/press-releases/press-2021-12-16/)についてでした。出席者は鳥学会からは武石及びオンライン参加の先崎理之さんで、上記3団体では、(公財)日本野鳥の会から中村聡ウトナイ湖サンクチュアリチーフレンジャーとオンライン参加の浦達也主任研究員、日本野鳥の会苫小牧支部から鷲田善幸支部長と梅津譲一さん、そしてネイチャー研究会inむかわの小山内恵子会長でした。出席した報道会社は、NHK、毎日新聞、読売新聞、北海道新聞、苫小牧民報、ひらく(苫小牧の月刊ミニ新聞)の計6社で、1時間半ほど熱心に取材していただき、当日夜、翌日朝刊、翌月などに報道していただきました。特に「月刊ひらく」(2022年1月号No.47)では、5ページの特集記事として要望書の内容にも詳しくふれて報道していただきました(バックナンバーはhttp://www.shimbun-online.com/latest/hiraku.html)。

7. 留意点など
 今回の経緯全体を通してみて、関係する皆様方は何かと忙しいことと思われますが、やはり相互の報告・連絡・相談が大事なことであると思いました。それによって早めの判断が促されることになり、案件への対応に時間がかかりすぎるのを防いでくれることになるかと思われます。今回は風力発電に関しての対応に時間がかかったということもあり、また一般的に再生可能エネルギー施設の建設が急ピッチで進んでいる現状と鳥類保全との関係を考えて行くために、このたび鳥類保護委員会の中に、「風力発電等対応ワーキンググループ」を評議員会の了承のもとに設置しました。グループ長は風間健太郎さんです(グループメンバーについては各種委員会・役員ページを参照下さい)。
 なお、今回は記者発表の実施につきましては他団体のお世話になりました。鳥学会としての発表をアピールする上では、独自に記者発表の場を設定することが望ましく、こちらも早め早めの準備が必要となります。適切な発表者の参加がより可能になることも確かですので。
 また、記者発表時にはいつもそうなのでしょうが、こちらが記者発表要旨をお渡ししたとしても、記者はすぐに記事原稿をまとめ上げないといけないのでしょうから、口頭での説明の際に誤解なくわかりやすく一から説明することに努力する必要を痛感しました。記事になって初めて、思わぬ誤解があったことに気づいたりするものです。
 以上、ご報告まで。

文献
Senzaki, M., Yamaura, Y. & Nakamura, F. 2017. Predicting off-site impacts on breeding success of the marsh harrier. The Journal of Wildlife Management, 81(6), 973-981.

posted by 日本鳥学会 at 16:00| 委員会連絡