2022年11月26日

第6回日本鳥学会ポスター賞 大泉さん・JIANGさん・徳長さんが受賞しました

日本鳥学会企画委員会 中原 亨

久々に対面形式で開催された日本鳥学会2022年度大会では、前回大会に引き続きポスター賞を実施いたしました。日本鳥学会ポスター賞は、若手の独創的な研究を推奨する目的で設立されたものです。第6回となる本年度は、厳正なる審査の結果、大泉龍太郎さん(岩手大・農)、JIANG YAJUNさん(千葉大・融)、徳長ゆり香さん(日獣大)が受賞しました。おめでとうございます。
 
応募総数はオンライン開催だった昨年度大会よりも15件増加し、その分、受賞は狭き門となりました。

どのポスターも興味深く、甲乙つけがたかったというのが実状です。部門によっては受賞者と次点者の間の差はほんの僅かなものでした。一方で、審査で上位となったものであっても、改善の余地が見られる部分もありました。発表内容をもう一度見直すことで、より魅力的なものとなることを期待しています。ポスター賞は30歳まで、受賞するまで何度でも応募できますので、あと一歩だった方も、2次審査に残れなかった方も、是非来年再挑戦してください。

最後に、ポスター賞の審査を快諾して頂いた9名の皆様、記念品をご提供頂いた株式会社モンベル様にこの場をお借りして御礼申し上げます。

2022年日本鳥学会ポスター賞
 応募総数:48件
  繁殖・生活史・個体群・群集部門:12件
  行動・進化・形態・生理部門:19件
  生態系管理/評価・保全・その他部門:17件

【受賞】
《繁殖・生活史・個体群・群集》部門
 「盛岡市におけるコムクドリの渡り時期の把握と生息環境の要因解析」
 大泉龍太郎・池田小春・山内貴義
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大泉さん(左)


《行動・進化・形態・生理》部門
 「鳥類の翼先端形質は飛翔特性と生息環境に対応する」
 JIANG YAJUN・村上正志
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JIANGさん


《生態系管理/評価・保全・その他》部門
 「野生鳥類の肺から検出された大気中マイクロプラスチック」
 徳長ゆり香・大河内博・谷悠人・新居田恭弘・橘敏雄・
 西川和夫・片山欣哉・森口紗千子・加藤卓也・羽山伸一
徳長さん.JPG

徳長さん(画面)



【次点】
《繁殖・生活史・個体群・群集》部門
 「都市―農村間の環境勾配におけるツバメの営巣地選択と最適環境の評価」
 天野孝保・山口典之

《行動・進化・形態・生理》部門
 「カワウ・アオサギ混合コロニーにおける非対称な『盗聴』行動」
 本多里奈・末武かや・東信行

《生態系管理/評価・保全・その他》部門
 「非繁殖地におけるヘラサギ類の干潟と周辺環境利用」
 清水孟彦


【一次審査通過者】
《繁殖・生活史・個体群・群集》部門
 「鳥類の共同繁殖の推進力は何か?
         ―リュウキュウオオコノハズクを用いたケーススタディー」
 江指万里・熊谷隼・宮城国太郎・外山雅大・高木昌興

 「佐賀平野におけるハシブトガラスとハシボソガラスの営巣特性」
 新宮 仁大・徳田 誠

 「網走周辺のオホーツク海域に生息する海鳥類の生息状況と分布に関わる要因」
 木村智紀・白木彩子

《行動・進化・形態・生理》部門
 「メスのブンチョウの,聞き馴染みのある求愛歌に対する選好性の検討」
 牧岡洋晴・Rebecca Lewis・相馬雅代

 「千葉県およびその周辺地域に特異的な眉斑の薄いエナガの分布」
 望月みずき・大庭照代・箕輪義隆・平田和彦・桑原和之

《生態系管理/評価・保全・その他》部門
 「繁殖期に耕作放棄水田を利用するヒクイナの行動圏」
 大槻恒介

 「知床半島における観光船の与える魚類と
         自然の餌生物の海ワシ類による利用実態」
 谷星奈・白木彩子
posted by 日本鳥学会 at 12:10| 受賞報告

2022年11月22日

2022年度内田奨学賞を受賞して

藤岡健人


この度は、2022年度内田奨学賞をいただけたことを大変光栄に思います。ご指導いただいた共著者の方々や、査読や選考に携わったすべての方々に、この場をお借りして感謝申し上げます。

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網走大会で綿貫会長から賞状を頂く様子


研究紹介

都市は自然が少ない環境です。そのような中で、人は公園などに残された自然に触れることにより、さまざまな恩恵を受けています。たとえば、四季を感じるといった精神的恩恵や、血圧降下などの肉体的恩恵を受けています。また、児童の自然観を育成し、環境教育にも効果があります。世界的に生物多様性が減少するなか、都市の面積は拡大しており、都市においてどのように自然環境を維持するかは重要な問題です。

一方で、都市に動植物が生息することにより、動植物と人との間に軋轢が生じることもあります。その1つとして、カラス類による電柱への営巣があります。カラス類が電柱に営巣すると、停電を引き起こすことがあり、電力会社は、停電を未然に防ぐために、多大なコストをかけて見回りをし、巣を撤去しています。しかし、電気事故の発生は減少しておらず、むしろ巣の撤去数は増加傾向にあります。今後、人口が減少していくなか、少ないコストで、電力インフラをいかに保守していくかは重要な社会的課題です。

そこで私は、都市部で問題となっているカラス類と人間生活との軋轢解消を目的として、次の研究を行いました。まず、電力会社が保有する電柱へのカラス類の営巣記録を提供いただいて、北海道における営巣リスクの高い環境要素の抽出と、撤去費用の推定をしました。次に、函館市において、カラス類はどのような場所にある電柱に営巣しているのかを明らかにしました。

北海道において、カラス類がどのような地域の電柱に営巣しやすいかを明らかにするために、各事業所の撤去巣数に対して、次の6つの変数を解析に用いました:人口、気温、海岸線の長さ、農地面積、年、事業所。一般化線型混合モデルにより解析した結果、人口が多く、気温が高く、海岸線の長さが長い地域において、撤去巣数が多いことが明らかになりました。また、北海道全体で、撤去にかかる人件費は、年間約4000万円であると推定しました。

次に、函館市において、カラス類が営巣しやすい電柱を調べるために、都市緑地との関係に着目しました。なぜなら、カラス類は公園などの都市緑地に好んで営巣をするので、都市緑地があることで、その近くの電柱には営巣しない可能性があるからです。そこで、実際に営巣されたことのある電柱と、その電柱までの都市緑地の距離を調べ、都市緑地の存在が、周辺の電柱への営巣を抑える効果を持つかどうかを解析しました。その結果、カラス類の巣があった電柱は、都市緑地から離れていたことが明らかになりました。

以上の結果から、次のような提言ができると考えています。都市緑地にあるカラスの巣を撤去すると、なわばりの防衛効果がなくなり、周辺の電柱への営巣を助長する可能性があるため、巣を残しておく方が良いかもしれません。しかし、都市緑地にカラス類の巣があると、人が襲われるリスクもあります。そこで、巣を撤去する場合は、人への攻撃性の高いハシブトガラスの巣を優先的に撤去するという選択肢があります。また、撤去により周辺の電柱への営巣を助長する可能性が高まることを、電力会社と共有することが有効だと考えます。

当初の予定では、野外調査も行い研究の信頼性を高める予定でしたが、コロナ禍によってそれが叶いませんでした。修士課程を修了し、現在は札幌市で中学校の理科教員をしていますが、今後も鳥類学とのつながりを続けたいと考えています。そのために、身近に学ぶことができる鳥類学を生徒たちに教え、鳥好き、鳥類学好きの生徒を増やしていきたいと考えています。最近では、「藤岡といえばカラス」という認識が広まっていたり、私に野鳥クイズを挑んでくる生徒が出てきたりしました。ゆくゆくは、鳥学会の大会で生徒たちに発表させて、学問に触れる機会をつくってあげたいと考えています。
posted by 日本鳥学会 at 09:42| 受賞報告