2022年12月12日

日本鳥学会2022年度大会 高校生プログラム(小中学生も可!)のご報告

牛山克巳・山本麻希(企画委員会)

 
 例年大会を盛り上げてくれる高校生によるポスター発表ですが、それだけでは高校生のみなさんにせっかく網走まで来てもらうのに申し訳ない!と、今年はキャンパスツアー「突撃!東京農業大学北海道オホーツクキャンパス!」、さらにはキャリア育成ワークショップ「高校生のための鳥学講座」を実施しました。
 
 キャンパスツアーでは、東京農業大学家畜生産管理学研究室の大久保先生と大学院生の目黒さんから、学部のことやエミューの研究を紹介していただきました。エミューって2カ月もオスが飲まず食わずで抱卵し続けるのですね…。また、白木先生のもとで研究を行っていたお二人のOGにもいらしていただき、大学選びの過程からキャンパスライフ、今の職業に至った道筋などについて紹介していただきました。座学のあとはエミューの飼育施設を遠目から見学し、エゾシカの飼育施設にも行ってササをあげて癒されました。
 
 ポスター発表は一般のポスター発表が行われている体育館とは離れた教室で実施したので、大会参加者のみなさまに聞きに来てもらえるか心配でしたが、ふたを開けてみたら換気に追われるほどたくさんのみなさまにいらしていただきました。中高生のみなさんも自信を持って発表しているのが印象的でした。

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ポスター発表の様子1

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ポスター発表の様子2

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林内散策路で野鳥観察

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サケがたくさん泳いでいる網走川


 なお、今年度の高校生ポスター賞は以下の通りです。

● 最優秀賞
 「フクロウの給餌食物解明に向けたペリット分析と映像分析の比較」
  緒方 捷悟、坂井 智洋、門脇 優依、多湖 由海、田中 来瞳、
  藤田 直花(三重県立桑名高等学校 MIRAI研究所)

● 表現賞
 「フクロウが好む巣箱って知ってる?」
  丹下 翠(三重大学教育学部付属中学校)

● 科学賞
 「柳瀬地区におけるカラスの大量発生の原因について」
  角島 凪(中央大学附属高等学校)

● 努力賞
 「みや林における鳥類定点観察からの考察」
  西田 康平(桐朋高等学校 生物部 鳥類班)

 キャリア育成ワークショップでは、越智大介さん(水産研究・教育機構)と須藤明子さん(株式会社イーグレット・オフィス)から、それぞれ「日和見主義的鳥学生活〜「楽しく」研究活動を続けるために〜」、「野鳥をまもりたい獣医、野鳥を狙撃するのはなぜ?」と題してお話しいただきました。その後、キャリア形成に関わる疑問,将来に関する悩みなどについて考えるワークショップを行う予定でしたが、講師陣の熱の入ったプレゼンでタイムアップ!それでも普段聞けない面白い話しがたくさん聞けたと思います。

  最後に、参加者からの参加報告を紹介します!


「日本鳥学会感想文」 
角島凪(中央大学附属高等学校 3 年)

 この度、有難い事に高校生の部で科学賞を頂くことができました。ありがとうございました。
 私は当学会を通して多くの学びを得ました。公開シンポジウムで印象に残っているのは、アイスアルジーによる海底への餌の供給、シャチのサドルパッチの違いと食性の違いの二つです。また、私の研究対象と同じカラスを研究対象としている研究を多く拝見しました。特に私が自分の研究でつまずいていた、カラスによる農作物被害の対策案について、緑色のレーザー光が赤色レーザーに比べて効果的で、更には動かして放射した方が効果的であること。さらに、1305u以下の農地面積であれば「くぐれんテグスちゃん」(農研機構 吉田さん)を、それ以上であれば緑色レーザー(長岡技大 山本さん・笹野さん)を使用するのがコストの観点では良いという話がありました。私の調査地域の所有農地面積はバラバラであるため、所有面積に適した対策案を提示できる可能性に期待が膨らみました。
 高校生ポスター発表では、多くの方々 から多岐にわたる視点で助言を頂きました。
 このような機会を作ってくださった日本鳥学会の役員の皆様、私の研究に助言を下さいました研究者、学生の皆様、心より感謝申し上げ ます。


「日本鳥学会2022年度大会でポスター発表をしました!」
都立国分寺高等学校

 11月5日(土)〜6日(日)、「日本鳥学会」に参加しました。会場は、北海道網走市の「東京農業大学 北海道オホーツクキャンパス」です。本校からは下記の2組(2年生3名,1年生1名)が校生ポスター部門で発表を行いました。
・ 「カラスバトの音声コミュニケーションについて」(久保・相田)
・ 「カラスバトのGPSを使ったその生態の解明」(石井・大野)
 また、受賞記念講演や高校生のための鳥学講座を聴講したり、野鳥研究会の学生さんの案内でキャンパス内の林内散策路を歩いて野鳥を探したり、飼育されているエゾシカやエミューを見せていただいたりして、とても充実した時間を過ごしました。


【生徒の感想】
・参加者の方々とたくさんディスカッションすることができて楽しかったです。
・発表を聞いてくださった研究者の方々から様々な視点でアドバイスをいただいたので、それらを今後の研究に活かして行きたいです。
・他校生の研究発表にも大変刺激を受けました。

【生徒が撮影した写真】
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朝の散策(オホーツク海)1

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早朝の散策(オホーツク海)2

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早朝の散策(オホーツク海)3

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キャンパス内の林道からの景色

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アカゲラ

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シノリガモ

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オオワシ

(撮影者:久保光次郎)
posted by 日本鳥学会 at 10:24| 大会報告

2022年12月09日

2022年度日本鳥学会黒田賞を受賞して

国立環境研究所 生物多様性領域
安藤温子


 この度、日本鳥学会黒田賞という名誉ある賞をいただき、大変光栄に思います。改めて、これまで研究を支えてくださった全ての方に感謝申し上げます。また、今年の鳥学会大会は3年ぶりの現地開催ということで、対面形式での受賞講演をさせていただきました。開始前の緊張感や、会場の皆さんが笑ったり驚いたり、私の講演にさまざまな反応をしてくださることで生まれる一体感は、やはり体面形式の講演でしか味わえない醍醐味であり、そのような場に身を置けたことを大変嬉しく感じました。コロナ禍の困難な状況の中、準備に当たってくださった事務局の皆様にも深く感謝申し上げます。

 私は黒田賞の受賞に当たり、遺伝子解析を用いた島嶼に生息する鳥類に関する一連の研究業績を評価していただきました。私は卒業研究と修士研究において、マイクロサテライトなど種内多型を示す遺伝マーカーを用いて、鳥類の遺伝的多様性や集団構造を評価しました。博士後期課程からは、DNAメタバーコーディングと呼ばれる手法を用いて、鳥類の糞に含まれるDNAの塩基配列を次世代シーケンサー用いて解読することで、対象種の食物を明らかにする研究に取り組みました。修士課程から対象とした、小笠原諸島の固有亜種アカガシラカラスバトについては、対象種自身とその糞両方の遺伝子解析を行うことで、保全に必要な遺伝的多様性や集団遺伝構造、食物利用に関する情報を得ることができました。DNAメタバーコーディングを用いた食性解析においては、手法の精度に関する検証を行い、実験手法の解説などを行いました。当時最新機器だった次世代シーケンサーをいち早く研究に取り入れたことでも注目していただき、多くの方から共同研究の話もいただきました。

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調査地のひとつである伊豆諸島八丈小島の風景


 様々な遺伝子解析に取り組む一方で、私が研究を続ける上で強く意識してきたのは、積極的に野外調査に出ることでした。鳥の研究に伝統のある研究室であれば、野外に出るなど当たり前のことなのでしょうが、私が所属していた研究室に鳥を専門とする教員はおらず、遺伝子解析以外の研究手法については、ほぼ独学で学ばなければなりませんでした。遺伝子解析を行なった対象を野外で実際に見たい、調査したい、というのは鳥学会では一般的に理解してもらえる心理だと思います。しかし、私は鳥に関する野外調査のノウハウも伝手も乏しい環境にいましたので、この当たり前のような目的を達成するためにも、確固たる意思と時間が必要だったのです。

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大学院から対象としてきたカラスバト


 野外調査をするにも、初めのうちは何をどうしたら良いかわからず、とりあえず現地に行こうと、アホウドリの再導入プロジェクトのボランティアに応募したり、遺伝子解析の依頼をしてきたNPOの研修生として調査手伝いをしたりしていました。調査をするためにどうやって計画を立てて、許可申請などどのような段取りを経て現地に行き、データをどうまとめるのか…誰も教えてくれないので、極めて要領の悪い試行錯誤を繰り返していました。捕獲や計測の方法も全く知らなかったので、バンダーさんに師事し、2年かけて技術を身につけました。結局、論文に使える野外データを自分で取ることができたのは、観察データについては博士後期過程に入ってから、捕獲を伴うものについては、就職して3年経った2018年のことでした。

 遺伝子解析技術の確立自体も重要な研究テーマになりますし、何もしなくても分析の依頼がどんどん降ってくるような環境にいましたから、野外に出ず実験室に籠っていた方が、より多くの論文業績を上げていたかもしれません。しかし、自分にはやはり野外調査をベースにした研究がしたいという欲求があり、いわゆる分析屋からの軌道修正をすべく無理やり調査に出続けていました。結果として、自分独自のテーマや研究スタイルにたどり着くことができ、今回の受賞にも繋がったように思います。不安定だった研究者としての軸が、漸く落ち着いてきたという感じでしょうか。効率は悪かったですが、自分の意思で野外調査に取り組む過程で、調査の技術はもちろん、研究のアイディアや現地の人々との繋がりなど、かけがえのない財産を得ることができました。これまで、なんとなく義務感から遺伝子解析を続けていたのですが、一連の研究活動を通して、他者のニーズに応えるよりも自分自身が本心からやりたいこと、面白いと感じることをする方が長続きするし、結果的に自分も周りも幸せになるのではないかと思うようになりました。というわけで、これからは手法にこだわらず、島の鳥の研究を地道に続けていくつもりです。

posted by 日本鳥学会 at 14:34| 受賞報告

2022年12月07日

2022年度大会終了のご報告とお礼

日本鳥学会2022年度大会 大会長 白木 彩子

 早いもので,今年も残すところ一ヶ月を切ってしまいました。日本鳥学会会員の皆様には益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
 去る11月3日〜6日,東京農業大学北海道オホーツクキャンパスで開催された日本鳥学会2022年度大会は,天候にもめぐまれ,盛会のうちに終了しました。接種証明の提示などコロナ感染対策や,運営をスムースにするためのアンケートにご協力を頂いた参加者の皆様,大会の運営に多方面からご支援くださった関係者の皆様には心よりお礼申し上げます。
 今回の大会参加者および公開シンポジウムの参加者はそれぞれ350名,216名で,口頭発表64題,ポスター発表98題,高校生ポスター発表8題,自由集会9題,受賞講演1題,公開シンポジウム講演5題と,各プログラムとも充実した講演・発表と活発な討論が行われました。ランチタイムを拡大し,アルコール抜きで行った異例の懇親会では,応援団学生による大根踊りをお楽しみいただけたかなと思います。エクスカーションのクルーズツアーは満員御礼にて催行,オホーツクキャンパス野鳥研学生による朝の鳥見ツアーにも大勢の方がご参加くださいました。
 本大会は現地と遠隔の混成実行委員会によるはじめての,さらにはコロナ禍での対面開催となり,先が見えない状況での意思決定では苦しむこともありましたが,参加者の方々から「楽しかった」,「あたたかい大会だった」,「よく配慮されていた」等のお言葉を頂戴し,中止となった2020年度大会から足かけ3年間にわたる準備が報われた気がいたしました。また,対面で語り,議論できることの素晴らしさを再認識した大会でもありました。一方では,不行届きの点も多々あったかと存じます。遠隔地やコロナ禍における大会運営を通しての気づきや課題については,今後の大会の在り方や改善の検討にむけた一資材となるよう改めて整理し,皆様との共有を図って参りたいと思います。
 次回2023年度大会は,9月15日(金)〜18日(月・祝日)に金沢大学角間キャンパスにて対面開催の予定です。どうぞ奮ってご参加ください。

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2022年度大会運営スタッフ

posted by 日本鳥学会 at 10:19| 大会報告

2022年12月01日

日本鳥学会誌71巻2号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

藤田 剛 (日本鳥学会誌編集委員長)

和文誌では、号ごとに編集委員の投票によって注目論文を決め、その発行直後からオープンアクセスにしています。

今号は、以下の論文が選ばれました。

 著者: 藤巻 裕蔵
 タイトル: 北海道における鳥類の繁殖期の分布
 DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.71.121


多くの研究者がもつ夢のひとつは、自分の人生をとおして取り組みつづけられる研究テーマをもつことではないでしょうか。そして、日本で生まれ育った多くのフィールドワーカーのあこがれのひとつは、広大な北海道の自然を自分のフィールドとすることではないでしょうか。

このモノグラフは、私たちの研究者としての夢が単なる夢ではなく現実のものにできること、それが多くの研究や保全活動に貢献するすばらしいランドマークとして具体的な形にできることを示してくださった論文だと、私は思っています。この論文をよんで元気づけられる読者は、私だけではないと思います。

藤巻先生からも、熱いメッセージが届いています。先生の研究者としての半生が濃縮された400字です。


 北海道の鳥が見たくて1957年に北海道の住人となったのだが,大学では「鳥では飯は食えないぞ」という教授の一言で.卒論から博士論文まではノネズミの生態をテーマとすることになった.
 
 就職した北海道立林業試験場ではノネズミの研究の傍ら細々と鳥の調査もしていたが,1975年帯広畜産大学に異動したのを機会に,おもな研究対象を鳥にすることにした.翌1976年から何処で,どのような環境で,どのような鳥が見られるかを調べ始めた.調査地は低地の住宅地,農耕地,湖沼周辺の草原から山地の森林,高山に及んだ(写真参照).登山道の少ない日高山脈の調査では川の渡渉や沢登りも経験した.
 
 これまでに自分で調査できたのは北海道の約3分の1であるが,未調査の地域については,論文・報告書,探鳥会記録,個人の未発表記録で補い,約50種の分布について発表した.これらの成果のまとめが今回の分布に関する総説である.今後も体力の続く限り調査を続けるつもりである.
藤巻裕蔵

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1. 十勝地方の農耕地,防風林が特徴的(撮影:藤巻裕蔵).


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2. 湧洞沼とその周辺の草原(撮影:藤巻裕蔵).


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3. 北海道中央部の針広混交の天然林(撮影:藤巻裕蔵).


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4. 日高山脈北戸蔦別岳(撮影:藤巻裕蔵).

posted by 日本鳥学会 at 17:57| 和文誌