2018年08月07日

国後島訪問記(2018年6月1〜4日)Part2

(公財)宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団 嶋田哲郎

2018年6月2日(Day 2)

 朝,私たちを迎えに来てくれた車は日本で言えば車高の高いワンボックスカーのような感じでした.人を乗せて運ぶことだけに特化されたような装備で,質実剛健,無駄なものは一切ないという作りです.このことがどれだけ重要なことか,あとで知ることになります.
 この日は,古釜布から南の方へ向かい,オホーツク海側の材木岩を目指します.アスファルトの道路は町を出るとすぐに砂利道に変わります.林の中の砂利道を車はなんなく疾走し,途中でオジロワシの巣を観察しました(写真4).
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写真4.オジロワシの巣.

 私はオジロワシの巣をじっくりと観察するのは初めてでした.国後島でのオジロワシの繁殖は比較的うまくいっているようで,ヒナらしきものも観察できました.
 東沸湖近くの湖ではオオジシギが賑やかにさえずる中,スズガモの群れが見られました.ここで繁殖しているそうです(写真5).
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写真5.スズガモの群れ.

 気持ちのよい景色をしばらく楽しんだあと,シマフクロウが繁殖しているというアンドレーエフ川に向かいました.日本から流れ着く牡蠣筏のブイを再利用してシマフクロウの人工巣を作っているそうで(写真6),シマフクロウにけっこう気に入られてるとのこと.
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写真6.シマフクロウの人工巣.

 川沿いにすすみ,人工巣に近づくと大きなフクロウが飛ぶのが見えました.シマフクロウです.木に止まって振り返ったところを双眼鏡でみることができました.初めて見るシマフクロウ,鳥とは思えないその威厳に圧倒されました.
 道中,キスレイコ所長の案内は絶好調です.英語が通じないため,小笹さんの通訳だけが便りです.小笹さんは所長の後ろにぴったりと付き従い,時折立ち止まって説明する所長の通訳をしてくれます.所長は説明したいことがたくさんあるようで,なかなかに長い説明です.所長の説明長いなあ,言葉は通じなくとも全員が共有する感情が芽生えてきました.
 次に向かったのは材木岩に向かうトレイルです.しばらく林の中を歩き,海岸に出ます.トドマツやアカエゾマツなどの林からアオジやウグイス,エゾムシクイなどの声が聞こえてきます(写真7).
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写真7.林の中の様子.

 ここは人一人通れるくらいの狭い道.どうしても人と人の間が空きます.小笹さんが大好きな所長は,彼が近くにいないとわかると遠慮なく,”ジュニア〜”と叫びます.そのたびにタッタッタッと小笹さんが走っていきます.”大変ですね,どんな話でしたか?”と後から聞くと”ちょっとした小話なんですよね”とのこと.所長と小笹さんの間合いが気になり始めたのはこの頃からでした.
 海岸に出た後,材木岩を目指して歩きます.海岸にはたくさんのアマモがありました(写真8).
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写真8.干潮時にあらわれたアマモ群落.

 アオサもあります.コクガンはこのアマモが大好物です.野付湾で多くのコクガンが中継するのもアマモがたくさん生えているためです.今回の調査の私の目的のひとつはこのコクガンの生息可能性を評価することです.エフゲニーさんから沖にはアマモの群落があり,ホッカイシマエビがたくさんいると聞きました.コクガンの飛来する条件は十分に揃っています.2014年春に衛星追跡したコクガンはオホーツク海側には滞在しませんでしたが,きっとここにも来ているのだろうなと思いました.
 時折遠くから聞こえてくる”ジュニア〜”という声を聞きつつ,海岸線を踏査していきます(写真9).
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写真9.海岸線.対岸に知床半島を望む.

 材木岩周辺の海岸は歩くには危険なため,林の中を迂回することになったのですが,これがなかなかの急傾斜.かなりしんどかったのですが,材木岩の奇観をみると疲れも飛びます.柱状節理によってできあがったまさに材木をたばねたような岩.自然に形成されたものとは思えないほど美しい姿でした(写真10).
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写真10.材木岩.

 昨日買い込んだ食材でお昼.私は1992年にコリマ川河口のツンドラでガン類の捕獲調査に参加させていただいたことがあり,そのとき一番印象に残っていた食べ物が黒パンでした.その黒パンにチーズやハムをのせて食べる,幸せなお昼でした.そのときキョーン,キョーンという声,西沢さんがすかさず“クマゲラだ!”.林に双眼鏡を向けるとカラス大のキツツキが移動しています.シマフクロウに続き,初めてのクマゲラ.ありがたい気持ちでいっぱいでした.
 海岸を歩きながらも所長の話は相変わらず絶好調です.所長,早く帰ろうよ,という他のロシア人の気持ちがなんとなく伝わってきます.あとで理由がわかりました.車は途中まで迎えにくれていて海岸沿いの道なき道を走って帰ります.そのため潮が満ちたら帰れないのです.実際にもう少し遅かったら潮が満ちて通れないなという場所があり,けっこうまずい状況だったのではないかと思いました.車高の高い頑丈な車が大活躍です.けっこうな水深の海や川をなんなく越え,そのまま倒れるのではないかと思えるくらい車体が傾いてもガンガン走り続けます.私たちは無事に古釜布まで戻りました.
 帰った後は博物館で情報交換会です.このことを地元の方にも広報していたようで,保護区以外の方々もいらしていました(写真11).
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写真11.情報交換会.

 小笹さんの通訳のもと,私たちはそれぞれの専門の鳥について順番にプレゼンしていきました.すごいなと思ったのは古南さん.グーグル翻訳を使ってプレゼンの文字をロシア語表記にしていました.機械翻訳なので十分ではないとおっしゃっていましたが,英語より断然通じるはずです.エフゲニーさんのプレゼン&ビデオ紹介もあり,お互いに鳥類の情報交換を行いました.
 こうして極めて中味の濃い一日が終わりました.振り返ってやはり片言でも意思疎通できたらいいなと思った私は,小笹さんからいただいたロシア語会話の小冊子から,どこ(グジェ),何(シトー),どんな(カーク),いつ(カクダー)などをフィールドノートに書いておきました.これを言えばなんとかなるかなと思いつつ.
posted by 日本鳥学会 at 10:00| Comment(0) | その他
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