2018年09月25日

鳥の学校(2018年):第10回テーマ別講習会「鳥類研究のためのバイオロギング野外実習」の報告

川上和人(企画委員会)

 今回の鳥の学校は、鳥学会2018年度大会と連結して、9月17日〜19日に新潟県の粟島にて実施された。講習会のテーマであるバイオロギングは、動物にGPSや加速度計、照度計、ビデオカメラなどのデータロガーを装着することにより、観察のみでは得られない情報を得る夢のような技術である。安楽椅子研究者を目標とする私は、この技術の習得という私利私欲を満たすため、講習会の企画を進めたのである。
 この講習会では、バイオロギングを用いて精力的に研究を進める統計数理研究所の山本誉士さんと名古屋大学の松本祥子さんを講師としてお迎えした。実習を行った粟島は、約4万つがいが利用するオオミズナギドリ繁殖地を擁し、名古屋大学や長岡技術科学大学が研究を進めているフィールドだ。講習会ではまさに現場で調査中の5名の名大生にサポートをいただいた。学会大会会場から電車と船に揺られての遠足企画というハードルにも関わらず、定員12名を超える参加申し込みがあり、バイオロギング研究への期待感がうかがわれた。参加者は5名の学生を含む10代から60代までの幅広い年齢層から集まった。

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図1. オオミズナギドリ繁殖地の環境。

 初日の集合時には雨がそぼ降る悪条件であったが、いつしか雨も上がりいよいよ講習が開始された。まずは山本さんによりバイオロギングを用いたオオミズナギドリ研究の概要についてのレクチャーを受ける。最近の技術発展により、様々な知見が得られていることが披露される。次に、松本さんによりデータロガーの解説が行われる。ロガーは小型高性能化されているが、精密機器ゆえに取り扱いには細心の注意が必要だ。海鳥に装着するということは、水中に叩き込まれることを意味する。万が一浸水すれば高価なロガーは壊れ、何よりも貴重なデータが失われる。ロガーの防水性を担保するため、時にはグリスとブチルテープで保護し、時にはサランラップと熱圧縮チューブで被覆する。実践により蓄積された実用的技術が、この分野の発展を支えているのだ。
 そしていよいよ夜間調査が始まる。夜間に繁殖地に飛来するオオミズナギドリが、講師により捕獲される。エキスパートの手ほどきを受けながら、全参加者がオオミズナギドリの背にロガーを装着する体験をさせていただいた。もちろん参加者には初めての体験であり、講師らのようにうまくはいかない。「俺はまだ本気出してないだけ」と臍をかみつつ、手際よく捕獲・装着する講師らに感心するばかりであった。

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図2. 講師によるロガー装着。

 24時まで続く実習明けに寝不足を漲らせた二日目、バイオロギング研究の発展についてのレクチャーを受ける。興味は疲れを上回り、参加者は脱落することなく講義を吸収する。講義の次は、繁殖地にて雛の計測実習を行う。ロガーから得られたデータのみでは、研究の面白さは半減する。繁殖地での雛の成長や親鳥のコンディションなどと組み合わせることで、情報の価値は高まるのだ。グニャグニャと動く雛の計測は初心者には難しいが、講師の粘り強い指導により全員がこれをマスターすることができた。

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図3. 繁殖地での雛の計測実習。

 二日目の夜間には再び繁殖地に向かう。足を滑らさぬよう、繁殖個体を撹乱しないよう、慎重に歩を進めて夜の繁殖地を経験する。講師は以前にロガーをつけた個体を再捕獲し、丁寧に機器を取り外す。これでようやくデータが得られるのだ。回収したロガーからデータを抽出し、結果がパソコン上で披露される。そこには、観察からは得られない海上の軌跡が美しく描かれていた。
 最終日には、サポート役を務めてくれた院生たちの研究成果が紹介される。バイオロギングにより得られる情報の利用方法は無限だ。知られざる移動軌跡、巣立ち後の死亡状況、年齢による行動変化、ビデオが捉える未知の採食生態。ロガーをつければデータは得られる。しかし、大切なのはそこからどのような情報を引き出すかという点だ。それぞれに工夫された視点で行動を解釈し、海鳥という特殊な生物の行動に新たな理解が加わる。
 さて、活字にすると簡単なように見えるが、バイオロギングでデータを得るのは大変なことである。暗い夜中に急斜面の繁殖地に通い、鳥を探して捕獲する。ロガーの電池はせいぜい数週間しかもたないため、1度つければ終わりというわけではない。多数の個体の行動を把握するため、夜の繁殖地に日参し、泥まみれになりながら捕獲、装着、計測を繰り返す。結果だけを見るとデータ解析が主要な仕事のようにも見えるが、そのデータを得るために調査者は何ヶ月も島に留まり、汗を額にフィールドワークをこなす。私たちが学んだのは、一方でバイオロギング研究の技術であり、一方で研究を支える地道な研鑽の必要性だった。安楽椅子研究などと口にしていた自分に恥ずかしさを覚えながら、講習は無事に終了した。
 参加者にとって、今回の講習は忘れがたいものになっただろう。綿密な計画と臨機応変な対処で講習を進めてくれた講師の山本さんと松本さん、そして名大の皆さん。現地での移動から名物わっぱ煮まで、あらゆる面で便宜を図っていただいた民宿松太屋さん。暖かい笑顔で出迎えてくれた粟島の方々。今回の講習を支えてくれた全ての方のホスピタリティに、心からお礼を申し上げたい。

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図4. 焼き石で煮立てた名物わっぱ煮。

*バイオロギングに興味のある方へ
日本バイオロギング研究会編「バイオロギング−最新科学で解明する動物生態学」(京都通信社)
http://www.kyoto-info.com/kyoto/books/wakuscience/biologging.html
日本バイオロギング研究会編「バイオロギング2−動物たちの知られざる世界を探る」(京都通信社)
http://www.kyoto-info.com/kyoto/books/wakuscience/biologging2.html

posted by 日本鳥学会 at 21:39| Comment(0) | 大会報告
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