2018年11月02日

鳥の研究を始めたい人によい本が出ました

国立科学博物館動物研究部 濱尾章二

「鳥の研究をしてみたいけど、どうすればいいの?」という若い方は多いことと思います。また、「そもそも鳥の『研究』ってなに?」という疑問を感じている方もあるのではないでしょうか。そんな方によい本が出たので、紹介したいと思います。
『はじめてのフィールドワークB日本の鳥類編』(武田・風間・森口・高橋・加藤・長谷川・安藤・山本・小林・岡久・武田・黒田・松井・堀江著、東海大学出版会)です。
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この本の著者は14人の若手研究者です。全員ほぼ30歳台、多くが博士号をとったばかりの人です。スズメ、ツバメといった普通種からコウノトリや海鳥までいろいろな鳥について、市街地・高山・離島などさまざまな場所で調査をした人たちが1章ずつを担当し、自分の調査経験と研究を紹介しています。

頭が切れる人、体力・ど根性の人、ふつうの人、いずれが書いた章も引き込まれるおもしろさですが、暗中模索の学生さんがフィールドに出、自分の観察から学問的テーマを見つけ出し、研究を発展させていく過程が手にとるようにわかる風間さんの章と堀江さんの章が、私には特におもしろく、読みごたえがありました。研究には、最初から課題を定めそれを解いていこうという仮説検証型のスタイルと、観察事実をつみあげて何がわかったかを考えるデータ先行型のスタイルがあります(前者は長谷川さんの章、後者は山本さんの章を読むとよくわかります)。この本の著者たちはどうやって自分の「研究」を作っていったのかが、私には最大の読みどころでした。「よい疑問(仮説)を立てよ」「データは料理次第」とは言われますが、それにはどうすればよいのか? その答えも、この本の中には複数含まれています。

アマチュア研究者であった私は、当時「個々の論文には書かれていない、ある人が博士号取得に至る研究の全貌」を思い描くことができずにいました(山岸哲さんの受け売りですが、私も本当にそう感じました)。この本は、そういう「全貌」を知りたい人にも歓迎されることと思います。

一方、この本の最大の特徴は、研究そのものにもまして、研究以前の段階から研究をなしとげるまでの若者の姿がたっぷりと描かれていることです。高校や学部学生時代の経験から研究を始めるに至る過程、そして本格的な調査から論文をまとめるまでが、飾らない生き生きとした文章で綴られています。進学先のさがし方、指導教員とのやり取り、フィールドでの苦労(トイレ、木登り、職務質問等々)、安全対策、研究上の悩みなど、笑ってしまうケッサクな話もなるほどと感心する話しも、正直に書かれているのがこの本の魅力であり、後に続く人の糧となることでしょう。

読んだ後には、「こうやれば自分もできるかも知れない」「いい研究をした人でも悩んだんだ」「やっぱり凄い人は最初からよく考えてるなー」といろいろな感想がありそうですが、これから研究を始めようとする人に役立ち、そういう人を励ます本であることは間違いありません。内容に比べて値段も安く、学会員ではない方を含め、広くお薦めします。

最後に、編者とはなっていませんがとりまとめの労をとられた北村亘さん、そして東海大学出版部に「グッジョブ!」の言葉を送ります。

(参考)鳥の研究をしてみようという方に、以下もお薦めします。
伊藤嘉昭 (1986) 大学院生・卒研生のための研究法雑稿.生物科学 38: 154–159.
上田恵介(編) (2016) 野外鳥類学を楽しむ.海游舎.
佐藤宏明・村上貴弘(編) (2013) パワー・エコロジー.海游舎.
上田恵介 (2016) 鳥の研究が出来る大学と大学院.鳥学通信.
上田恵介 (2016) 鳥の研究が出来る大学と大学院 (Part-2).鳥学通信.
調査ボランティア紹介(日本鳥学会企画委員会)
posted by 日本鳥学会 at 20:00| Comment(0) | 本の紹介
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