2018年11月18日

鳥の学校(2018年)「鳥類研究のためのバイオロギング野外実習」の報告(3人目)

伊藤加奈(公益財団法人 日本野鳥の会)

 ジオロケーター、データロガー、衛星発信機。これまで何度か見聞きしたけど、自分で使ったことがないし、違いがどうもよく分からない。どの調査にどの手法が適しているのか?今回、実習付きの講習会に参加することで、色々学ぶことができました。
 今回の講習で良かった点は、2泊3日と時間が十分に確保されていたので、講義でバイオロギングとは何ぞやということから、それぞれの機器の仕組み、使用(研究)事例まで、一から解説してもらえたことでした。例えば、位置の記録というと一般的にGPSがよく知られていますが、照度や加速度、水深等の情報による記録方法があることや、データの取得方法は、ロガーに蓄積され、回収が必要なタイプとデータは発信されるので回収する必要がないタイプ(発信機)があること。また、ロガーの装着方法として、ハーネスと防水性テープがあり、それぞれの長所・短所など。今まで断片的だった情報がつながり、バイオロギングの全体像が見えてきました。このほか、機器の重さやバッテリーの持ち、価格等にも違いもあるので、実際にどの機器を使うかは、実施例や経験者に尋ねながら検討するのが良さそうでした。

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図1.今回使用したデータロガー。防水仕様になっているタイプ(消しゴムではない)

 もう一つ、良かった点は、実習で実際にロガーの装着ができたことでした。学ぶには、やっぱり実践が一番です。付け方としては、図2のように特別難しいわけではないのですが、実際にやってみると、私は羽の取りだしが不十分だったせいか、ロガーがぐらついていて、固定が甘いという結果に。もう1、2回練習すれば上手くできる気がしますが、それはこれまでの研究者の試行錯誤によって方法や資材が確立しているのであって、装着する鳥や機器が違うと、自分で別途工夫が必要だろうと思いました。ロガーの装着は参加者12人全員が経験することができました。オオミズナギドリの営巣地にも直接入り、巣穴を見たり、ヒナの計測をしたりできたこともなかなか出来ない経験で、講師陣の参加者に出来るだけ経験させてあげたいという思いを感じました。
 バイオロギングは、大型の海洋動物での研究が主流と思っていましたが、今ではそれに限らずに活用の場が広がっているようです。当会でも昨年よりアカコッコの利用地域を把握する調査で利用しています。今回、バイオロギングが調査手法の一つとして少し身近なものになったので、機会があれば積極的に使ってみたいと思います。

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図2.a)ロガーの装着方法:装着したい場所にガイドライン(ここでは枠を使用)をおく。その内側の羽毛をピンセットを使って取り出す。b)防水テープの粘着面を上にして羽毛の下に付ける。c)ロガーを羽の上において、テープを巻く d)完成。ロガーがしっかり装着されているか触って確認。

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図3. 計測のために巣穴からヒナを出す講師

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2018年10月23日

鳥の学校「バイオロギング野外実習」に参加して

細田凜(日本獣医生命科学大学)

・はじめに
 ドラえもんの秘密道具とも言われるバイオロギング。その専門家に直接ご教授いただけることは大変貴重な機会であるため、この度参加することに決めた。

・バイオロギングとは 
 動物に小型の記録計(データロガー)をとりつけ、「動物自身に」行動や周囲の環境などを測定・記録させる画期的な技術だ。移動の記録に加え、様々なパラメータ(環境温度や、心拍数、採餌行動など)を同時に測定することも可能だ。これにより、生息域の特定や、渡り鳥のメカニズムの解明、環境モニタリングや生息海域の環境変化など種や生物多様性の保全に寄与することができる。
 ロガーには、防水機能付きものや再回収する必要のないもの、設定条件が揃うと自動で記録が開始されるものなど様々なタイプのものがある。また、パラメータの一つである「動き」を記録する加速度計は、XYZ軸の震えによって、その場所でどんな行動をしていたのかが分かる優れものだ。

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図1. 野外実習前にバイオロギングの基礎を学ぶ。

・実習
 舞台は、粟島。オオミズナギドリ有数の繁殖地だ。
オオミズナギドリの成鳥は、昼間沖合いで魚を捕り、夜になると巣に戻ってくるため、ロガーの装着・回収は真夜中に行われる。オオミズナギドリの営巣地では、オスの「ピーピー」、メスの「グワッ」という声が呼応し、月明かりに照らされた夜空を悠然と舞う姿は、神秘的なものであった。

1)ロガー装着
 実習一日目の夜は、成鳥にロガーを装着した。
ロガーの装着は、羽毛の上に直接接着材を付けて装着しているのかと思っていたが、実際はしっかりとテープで固定されていた。ロガーの装着方法は、背中の羽毛をめくってテサテープを敷き、同様に数枚並べていったら、その上にロガーを置いて丈夫なテサテープを巻き固定する。初めてのロガー装着は、テープから羽がはみ出てしまったが、良い体験だった。

2)ヒナの測定
 実習2日目の午後は、親鳥たちが海へ狩りに出かけている昼間に、巣穴にいるヒナの身体計測を行った。オオミズナギドリの巣穴は、海岸の急斜面にあるため、巣穴に行くのもかなりスリルがあった。巣穴からヒナを出すと、まだ灰色の綿毛に覆われてもふもふだった。ヒナを鳥袋に入れ、頭長や自然翼長など5項目と体重を計測した。

3)ロガー回収・解析
 実習2日目の夜は、装着したロガーの回収と解析を行った。
ちなみにもし再捕獲できなかったり、再捕獲する必要のないロガーの場合でも、羽に取り付けているロガーは換羽と共に外れるので、装着個体の永久的なストレスはないと考えられる。
 回収したロガーをPCにつなぎ、ロガー解析専用ソフトでデータをダウンロードした。地図に示されたオオミズナギドリが飛んだ軌跡を見たときには、こんなに飛んでいるのかと感心した。

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図2. 繁殖地内で捕獲した個体を計測する。

・まとめ
 バイオロギングは、その動物を通して様々なことを明らかにでき、それらを根拠に種や生物多様性の保全にも寄与することができる魅力的で興味深い技術だ。いつか鳥の研究ができる日が来たときには、ぜひともバイオロギングを使ってみたい。

・謝辞
 山本さま、松本さま、大学のみなさま、この度は大変お世話になりました。ご多忙の中、バイオロギングについて丁寧なご教授をいただき、誠に感謝申し上げます。
 川上さま、鳥の学校関係者の皆さま、このような貴重な実習の機会を与えていただき、誠に感謝申し上げます。

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2018年10月12日

日本鳥学会ポスター賞を受賞して

2018年10月2日
北海道大学理学院 青木 大輔

 この度2018年度大会でポスター賞を頂くことができ、大変うれしく思います。
 私の学会ポスター発表デビューは3年前、ポスター賞が設立された年でした。ポスター賞受賞者の方々を見て、自分もいつか賞を頂けるような研究ができれば、と夢見てきました。そんなポスター賞を受賞できたことを光栄に思います。私の研究はいつも周りの人から「難しい」と言われるので、今回、少しは面白く分かりやすく伝えることができたのかなと思っています。ポスター賞に恥じない様、今後も研究に精進できればと思います。
 本研究は共同研究者の方々無しにはできませんでした。ありがとうございました。また、ポスター賞に選考してくださった委員の皆様、お礼申し上げます。
 ポスター賞の記念品としてmont-bellマウンテンパーカーをいただきました、ありがとうございます。授賞式では青を着ましたが、実際にいただいたのは私の調査のお供であるハスラーと同色のオレンジにしました。来年の調査も捗りそうです。

ポスターの概略
 鳥類はみな集団で生きています。個体は繁殖し、元気な雛を巣立たせることで、集団が維持されます。しかし、海洋島など本来その鳥がいない土地に偶然住むことになった時はどうでしょうか?最初は個体数が少ないと考えられるので、数世代後には集団構成員が皆家族同士になってしまう可能性があります。こうした集団は病気(近交弱勢)が蔓延して絶滅するのではないか?このような集団維持の阻害要因は、理論や外来種の研究から予測されてきました。しかし、生物は自然環境の中で必然的にその土地にいるので、自然集団を用いた研究が必要です。

 私たちに身近なモズは幸運にも、過去数十年に次々と島嶼に集団を形成しました。そのうち小笠原諸島の父島では集団維持に失敗し絶滅しましたが、南大東島では現在も集団が維持されています。遺伝情報は集団構成員の情報を教えてくれるため、この2つの自然集団の遺伝的な比較から、集団維持の阻害要因を探索できると私は考えました。

 結果、絶滅した集団は遺伝構造の劇的変化(ボトルネック)を経験し非常に低い遺伝的多様性をもっていました。一方、維持できた集団は他集団からの移入個体との交雑により多様性が高く保たれていました。また、絶滅集団の個体のみに強い近交弱勢の症状が認められました。遺伝的多様性の違いが近交弱勢の程度に差を生んだことが推察されたのです。

 この結果から低い遺伝的多様性に由来する近交弱勢が、集団維持を阻害する一要因となることを鳥類の自然集団で明らかにできました。これは遺伝的多様性の低下がありながらも近交弱勢を回避するメカニズムが新規集団形成にまつわる進化生態学で重要なことも示唆します。今後はこの多様性の低下と近交弱勢の関係をより直接的に理解できるような研究に発展させたいと思っています。

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小樽市で捕獲されたモズ

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2018年10月09日

日本鳥学会ポスター賞を受賞した感想

慶應義塾大学 清水拓海

 栄誉ある日本鳥学会のポスター賞を頂きまして,誠にありがとうございます.私はこれまで主にアカハライモリの研究をしていたため,今年初めて鳥学会に参加しました.猛禽専門の友人にイモリの研究内容を応用しないかと勧められ,トラフズクのペリット解析に共同で取り掛かったのが始まりです.解析から興味深い結果を得ることができたので,ポスター発表を決めました.受賞を知った時には大変驚きましたが,同時にとても嬉しく感じたのを覚えています.私を鳥の研究の世界に引き込んでくれた友人や,ペリット採取を手伝ってくれた研究室の後輩達,そして意見をくださった先生方のお陰で,ポスター賞を受賞することができました.本当に感謝しています.
 今回参加したことで多くの方と議論することができ,今後の鳥の研究について明確な計画性を持たせることができました.記念品としていただいたmont-bellのジャケットを着て,フィールドワークに出るのが楽しみです.来年度以降も鳥学会で発表できるよう,研究をより一層頑張りたいと思います.
 最後に日本鳥学会2018の運営に携わった方々にこの場を借りて御礼申し上げます.とても有意義で楽しく,多くを学ぶことができた学会でした.

ポスターの概略
 食性は対象となる種の生態的特性を把握するために必須の情報であり,捕食-被食の相互作用の解明は生態学の基礎情報としても有用であると言えます.トラフズクなどの猛禽類は消化しきれない骨などをペリットとして吐き出すことが知られており,これまでにも多くの先行研究があるものの,餌動物の同定には技術と時間が必要でした.また損傷が激しいものや,消化作用によって目視では検出しにくい餌動物もペリットには多く含まれている可能性があります.そこで,近年急速に発展しているDNAメタバーコーディング技術を用いて,ペリットに含まれるDNAから餌動物を網羅的に検出する研究に取り組みました.サンプルには神奈川県で越冬しているトラフズクのペリットを使用しました.
 その結果,実際に捕食していると考えられる餌動物(哺乳綱2種:ハツカネズミ,アブラコウモリ,鳥綱5種:カワセミ,ツグミ,スズメ,ホオジロ,ヒヨドリ)を種レベルで同定することができました.骨や羽から餌動物を同定する技術がなくても,DNAメタバーコーディング技術によって,ペリットから小型哺乳綱,小型鳥綱を網羅的に検出し,種の特定も可能であることが判明しました.
 今後はコンタミネーションなどの課題解決に取り組みます.また,季節や周辺環境によってどのように食性が変化するのかについても,解明していきたいと考えています.

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解析に用いたペリットを吐き出してくれたトラフズク


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2018年10月04日

第3回日本鳥学会ポスター賞 清水さんと青木さんが受賞しました

日本鳥学会企画委員会
佐藤望

 若手の独創的な研究を推奨する目的で設立された日本鳥学会ポスター賞。今年は清水拓海さん(生態・行動分野)と青木大輔さん(保全・形態・遺伝・生理・その他分野)が受賞しました。おめでとうございます。
 ポスター賞は今回が3回目となりますが、毎年40名ほどの応募があり、今年も40名(生態・行動が23名、その他が17名)の方がチャレンジしてくれました。今年も完成度の高いポスターが多く、審査員で議論に議論を重ねて賞を決定しました。また、今年からは次点や2次審査に通過した方も総会で公表する形を取りました。あと一歩だった方や今回、2次審査に通らなかった方も、是非、来年も挑戦してください。ポスター賞は30歳を超えるまで何度でも応募できます。
 最後になりますが、ポスター賞の審査をご快諾して頂いた6名の方、記念品をご提供頂いた株式会社モンベル、大会実行委員にこの場をお借りして御礼申し上げます。

2018年日本鳥学会ポスター賞
《生態・行動》分野

トラフズクのペリットに対するメタバーコーディング技術の応用
 清水拓海(慶應義塾大学)・夏川遼生(横浜国立大)・湯浅拓輝(慶應義塾大学)・一ノ瀬友博(慶應義塾大学)・黒田裕樹(慶應義塾大学)

《保全・形態・遺伝・生理・その他》分野
絶滅した自然集団のDNAから生物が新しい集団形成を可能にする条件を探る
 青木大輔(北大院・理)・松井晋(東海大・生物)・永田純子(森林総研)・千田万里子(山階鳥研)・野間野史明(総研大・先導科学)・木昌興(北大院・理)

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左から,清水さん,尾崎学会長,青木さん


次点
《生態・行動》分野
巣内カメラを用いた内陸ミサゴの餌内容解析 ―外来魚利用の実態―
 榊原貴之(岩手大・院)・野口将之(魚鷹研究チーム)・吉井千晶((株)建設技術研究所)・東淳樹(岩手大・農)

《保全・形態・遺伝・生理・その他》分野
風車への衝突リスク低減を目指したオオヒシクイの三次元的センシティビティマップの提案
 佐藤一海・向井喜果・鎌田泰斗(新潟大・院・自然科学)・森口紗千子(日獣大・獣医)・関島恒夫(新潟大・農)

一次審査通過者
《生態・行動》分野
ハリオアマツバメ(Hirundapus caudacutus)の巣内雛への給餌物
 千葉舞(酪農学園大・環境動物),米川 洋・和賀大地(エデュエンス・フィールド・プロダクション),森さやか(酪農学園大・環境動物),山口典之(長崎大・院・水環),樋口広芳(慶應大・自然科学研教セ)
モズのオスのさえずりは、父親としての給餌能力の高さを示す正直な指標である
 西田有佑(バードリサーチ)・高木昌興(北海道大)
春日山原始林における被食散布型樹種と鳥類の種子散布ネットワーク
 岡本 真帆・大矢 樹・田原 大督・伊東 明・名波 哲 (大阪市立大学・院理) 

《保全・形態・遺伝・生理・その他》分野
形態的に異なる2タイプのチュウジシギGallinago megalaの遺伝的関係
 小田谷嘉弥(我孫子市鳥の博物館)・山崎剛史・齋藤武馬(山階鳥類研究所)
リンゴ果樹園におけるアカモズの分布と栽培・管理方法との関係
 松宮裕秋(信州大)・原星一(元信州大)・堀田昌伸(長野県環境保全研)・泉山茂之(信州大)

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2018年09月25日

鳥の学校(2018年):第10回テーマ別講習会「鳥類研究のためのバイオロギング野外実習」の報告

川上和人(企画委員会)

 今回の鳥の学校は、鳥学会2018年度大会と連結して、9月17日〜19日に新潟県の粟島にて実施された。講習会のテーマであるバイオロギングは、動物にGPSや加速度計、照度計、ビデオカメラなどのデータロガーを装着することにより、観察のみでは得られない情報を得る夢のような技術である。安楽椅子研究者を目標とする私は、この技術の習得という私利私欲を満たすため、講習会の企画を進めたのである。
 この講習会では、バイオロギングを用いて精力的に研究を進める統計数理研究所の山本誉士さんと名古屋大学の松本祥子さんを講師としてお迎えした。実習を行った粟島は、約4万つがいが利用するオオミズナギドリ繁殖地を擁し、名古屋大学や長岡技術科学大学が研究を進めているフィールドだ。講習会ではまさに現場で調査中の5名の名大生にサポートをいただいた。学会大会会場から電車と船に揺られての遠足企画というハードルにも関わらず、定員12名を超える参加申し込みがあり、バイオロギング研究への期待感がうかがわれた。参加者は5名の学生を含む10代から60代までの幅広い年齢層から集まった。

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図1. オオミズナギドリ繁殖地の環境。

 初日の集合時には雨がそぼ降る悪条件であったが、いつしか雨も上がりいよいよ講習が開始された。まずは山本さんによりバイオロギングを用いたオオミズナギドリ研究の概要についてのレクチャーを受ける。最近の技術発展により、様々な知見が得られていることが披露される。次に、松本さんによりデータロガーの解説が行われる。ロガーは小型高性能化されているが、精密機器ゆえに取り扱いには細心の注意が必要だ。海鳥に装着するということは、水中に叩き込まれることを意味する。万が一浸水すれば高価なロガーは壊れ、何よりも貴重なデータが失われる。ロガーの防水性を担保するため、時にはグリスとブチルテープで保護し、時にはサランラップと熱圧縮チューブで被覆する。実践により蓄積された実用的技術が、この分野の発展を支えているのだ。
 そしていよいよ夜間調査が始まる。夜間に繁殖地に飛来するオオミズナギドリが、講師により捕獲される。エキスパートの手ほどきを受けながら、全参加者がオオミズナギドリの背にロガーを装着する体験をさせていただいた。もちろん参加者には初めての体験であり、講師らのようにうまくはいかない。「俺はまだ本気出してないだけ」と臍をかみつつ、手際よく捕獲・装着する講師らに感心するばかりであった。

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図2. 講師によるロガー装着。

 24時まで続く実習明けに寝不足を漲らせた二日目、バイオロギング研究の発展についてのレクチャーを受ける。興味は疲れを上回り、参加者は脱落することなく講義を吸収する。講義の次は、繁殖地にて雛の計測実習を行う。ロガーから得られたデータのみでは、研究の面白さは半減する。繁殖地での雛の成長や親鳥のコンディションなどと組み合わせることで、情報の価値は高まるのだ。グニャグニャと動く雛の計測は初心者には難しいが、講師の粘り強い指導により全員がこれをマスターすることができた。

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図3. 繁殖地での雛の計測実習。

 二日目の夜間には再び繁殖地に向かう。足を滑らさぬよう、繁殖個体を撹乱しないよう、慎重に歩を進めて夜の繁殖地を経験する。講師は以前にロガーをつけた個体を再捕獲し、丁寧に機器を取り外す。これでようやくデータが得られるのだ。回収したロガーからデータを抽出し、結果がパソコン上で披露される。そこには、観察からは得られない海上の軌跡が美しく描かれていた。
 最終日には、サポート役を務めてくれた院生たちの研究成果が紹介される。バイオロギングにより得られる情報の利用方法は無限だ。知られざる移動軌跡、巣立ち後の死亡状況、年齢による行動変化、ビデオが捉える未知の採食生態。ロガーをつければデータは得られる。しかし、大切なのはそこからどのような情報を引き出すかという点だ。それぞれに工夫された視点で行動を解釈し、海鳥という特殊な生物の行動に新たな理解が加わる。
 さて、活字にすると簡単なように見えるが、バイオロギングでデータを得るのは大変なことである。暗い夜中に急斜面の繁殖地に通い、鳥を探して捕獲する。ロガーの電池はせいぜい数週間しかもたないため、1度つければ終わりというわけではない。多数の個体の行動を把握するため、夜の繁殖地に日参し、泥まみれになりながら捕獲、装着、計測を繰り返す。結果だけを見るとデータ解析が主要な仕事のようにも見えるが、そのデータを得るために調査者は何ヶ月も島に留まり、汗を額にフィールドワークをこなす。私たちが学んだのは、一方でバイオロギング研究の技術であり、一方で研究を支える地道な研鑽の必要性だった。安楽椅子研究などと口にしていた自分に恥ずかしさを覚えながら、講習は無事に終了した。
 参加者にとって、今回の講習は忘れがたいものになっただろう。綿密な計画と臨機応変な対処で講習を進めてくれた講師の山本さんと松本さん、そして名大の皆さん。現地での移動から名物わっぱ煮まで、あらゆる面で便宜を図っていただいた民宿松太屋さん。暖かい笑顔で出迎えてくれた粟島の方々。今回の講習を支えてくれた全ての方のホスピタリティに、心からお礼を申し上げたい。

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図4. 焼き石で煮立てた名物わっぱ煮。

*バイオロギングに興味のある方へ
日本バイオロギング研究会編「バイオロギング−最新科学で解明する動物生態学」(京都通信社)
http://www.kyoto-info.com/kyoto/books/wakuscience/biologging.html
日本バイオロギング研究会編「バイオロギング2−動物たちの知られざる世界を探る」(京都通信社)
http://www.kyoto-info.com/kyoto/books/wakuscience/biologging2.html

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2018年07月12日

日本鳥学会2017年度大会自由集会報告:標本史研究っておもしろい ―日本の鳥学を支えた人達

企画:小林さやか(山階鳥類研究所),加藤 克(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター植物園・博物館)

演題1 趣旨説明
小林さやか
 日本の鳥類学に関わる方ならブラキストン線,オーストンヤマガラ,オリイコゲラといえば,ピンとくるであろう.これらはトーマス・ブラキストン,アラン・オーストン,折居彪二郎という人物たちの名から由来している.そして,今回の企画の主人公達である.彼らがどんな貢献をして,その名が付けられたのかご存じだろうか?
 日本産鳥類目録第7版から,彼らに関連する種を抜き出してみると,彼らが日本の鳥の命名に関わった偉業が垣間見える.そして,種の記載には標本が欠かせない.彼らが収集や採集した標本は山階鳥類研究所を始め,各地の博物館などに保管されている.
 近年,ブラキストン,オーストン,折居が採集や収集した標本の歴史研究の本や論文が出版された.本集会では,執筆者の方々にそれぞれの人物の標本の歴史研究について,お話いただいた.

演題2 標本が隠し持つ情報 ―ブラキストン標本を中心に―
加藤 克
 発表者は,日本国内で五指に入る鳥類標本コレクションを持つ博物館の標本管理者であるが,もともとは鎌倉時代の歴史を研究していた歴史学者である.発表者の観点からすると,生体としての鳥と異なり,鳥類標本は採集,標本化,採集者による研究,博物館における標本管理,のちの研究利用といった「歴史」を持っている歴史的存在である.そして,過去の分布や遺伝情報を求める現在の研究者にとってその「歴史」が重要な役割を担っているからこそ,標本は保存管理,活用される意義がある.
 しかしながら,その歴史を担保する標本ラベルの情報は破損・汚損や欠落などにより利用できなくなっている場合もあるし,現在必要としている情報が採集時点で重要とみなされていなかったために,その情報が記載されていない場合には,利用者にとって価値のない標本になってしまうだろう.しかし,歴史的存在である標本は,標本とそれに付属するラベルだけでなく,その標本に関わった人や博物館の歴史の中に存在してきたことから,周辺に残されている記録や情報を適切な考察・批判に基づいて利用することで,標本の情報を復元させることができる場合がある.これが「標本史」研究である.
 今回の発表では,トーマス・ブラキストン(Thomas W. Blakiston)のノートとラベル記載の管理番号を利用することで,詳細な採集情報が得られるだけでなく,ラベルが欠落した標本であっても情報を復元することが可能であることを紹介した.この復元された情報により,従来タイプ標本と認識されていた標本が記載以降に採集された標本であり,タイプ標本ではありえないと考えられること,同時に付属情報が不十分であったためにタイプ標本であると認識されていなかった標本をタイプ標本として指定しうる事例を示した.
 この他,従来北海道採集と公表されていた標本が旧樺太(サハリン)採集標本であったことが,標本史に基づく調査により示された事例を紹介するなど,標本そのものからは入手できない“正しい”情報を得るために標本史研究は有益であることを述べた.
 標本史の成果は,単に歴史学や鳥学史にとって重要なのではなく,生物学としての鳥類学においても,信頼できる情報,必要とする情報を得るために重要な役割を果たしうる研究分野であり,今後発展させてゆく必要がある.そしてそのためには標本だけでなく,研究者のノートなどの資料の保存に対する意識の向上とその保存を実現するためのアーカイブの重要性について触れた.

演題3 日本の動物を世界に広めた標本商 アラン・オーストン
川田伸一郎(国立科学博物館)
 明治から大正にかけて横浜に居住して貿易商を営んだアラン・オーストン(Alan Owston)は,多くの動物学者に日本周辺の動物標本を提供し,動物学の発展に貢献したことは有名である.特に鳥類や水産物に関してその寄与は著しいが,なぜモグラ研究者である発表者が興味を持ったかというと,その発端は,2004年10月に森林総合研究所(つくば市)のコレクションに含まれるモグラ標本を調査した時から始まる.
 森林総合研究所には「ハイナンモグラ」と同定された1点の仮剥製標本がある.この標本にはオリジナルと思える古いラベルが添付されており,採集場所・日付などの個体データが記されていた.標本は1906年11月に海南島の五指山で採集されたものである.「鳥ノ長サ」などの項目がラベルに印字されていたことも興味深く,鳥類用のラベルを転用したものだろうと思えた.この時は「面白い標本だな」と思ったに過ぎなかった.
 ところがその一か月後,標本調査のために英国へ渡航し,ロンドンの自然史博物館で標本調査を行ったことによって,このラベルへの関心が再燃した.ハイナンモグラのタイプ標本が保管されており,それに添付されているラベルが,森林総合研究所所蔵の上記ラベルと同じものだったのである.ハイナンモグラはオーストンが1906年頃送った標本をもとに,1910年に英国自然史博物館のトーマスが記載した種である.記載論文にはオーストンが現地で雇用した人物が個体を捕獲した,と書かれている.
 日英両国に保存されていたハイナンモグラのラベルについての探求は,『海南島の開発者 勝間田善作』という著作の発見により進展した.この本には,主人公の勝間田(旧姓石田)が,故郷の印野村でオーストンと出会い,地域の鳥類採集から始まって,琉球や海南島へと調査に行くよう依頼される様子が克明に描かれている.この本を足掛かりに,海南島の動物に関する多くの文献を収集し,また当時オーストンが英国の研究者と交流した書簡を調査したところ,この伝記に描かれた調査行はおよそ正確であり,勝間田がハイナンモグラの採集者であることは間違いないと思われた.ただし採集などが行われた年代は一部5 年ほどのずれが生じているようだった.
 オーストンは勝間田以外にも多くの採集人を日本で育成して,国内外で採集をさせている.しかしこれらの人物のうち,素性が判明している人物はほとんどない.中には英国で著名だった鳥類学者ライオネル・ウォルター・ロスチャイルド(Lionel Walter Rothschild)に提供され,記載が行われたような種もある.今後オーストン周辺の人物について更なる調査を継続したいと考えている.

演題4 日本の動物採集家〜折居彪二郎
平岡 考(山階鳥類研究所)
 折居彪二郎は,鳥類学,哺乳類学が日本で確立してくる時期に大きな貢献をした採集人である.折居の採集人としてのキャリアについて,山階芳麿が『鳥』に書いた業績の紹介文(山階 1948)に従って3つの時代に分けられることを述べた.すなわち,横浜にいた標本商アラン・オーストンに依頼されて,採集人マルコム・アンダーソン(Malcom P. Anderson)と同行するなどして採集した時期,黒田長禮の依頼で,琉球列島で採集した時期,そして,山階芳麿の依頼で,東アジアから北西太平洋にかけて広く採集した時期である.
 発表の中心としては,「鳥獣採集家折居彪二郎採集日誌」に掲載した報告(平岡 2013)にもとづいて,折居の採集標本が山階鳥研の標本コレクションにどれだけあるかを,山階鳥研の標本データベースのラベル画像を見て数えた調査の結果を紹介した.この結果,556種8,845点の標本を特定することができた.東アジアから北西太平洋で幅広く採集していたこと,日本の主要四島での採集品がほとんどないこと,1920〜30年代のものの点数が多いこと等がわかった.
 あわせて,日本の周辺諸地域から採集されていることで,日本産鳥類の理解のバックグラウンドとして重要といった,山階鳥研の折居の採集標本の特色について述べた.

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会場のようす

おわりに
 本企画はフィールドサイエンスではなく,鳥学会では異端であろう「標本史」がテーマであったため,参加者がいなかったら,と不安があったが,夕方の自由集会しかなかった初日にもかかわらず,20名を越える方々に参加していただいたことは,企画者としてとても励みになった.司会の采配が悪く,質疑の時間が少なくなってしまったが,アンケートでは「標本ラベルや手紙,筆跡から書いた人を特定して採集年を推定することは地味ですが大切で,興味がわいた」などのコメントをいただき,「標本史」の一端を感じ取っていただけたことは企画者冥利に尽きる.これに懲りず,切り口を考えて,標本史研究のおもしろさを伝えていけたらと考えている.(小林)
posted by 日本鳥学会 at 21:05| Comment(0) | 大会報告