2022年12月12日

日本鳥学会2022年度大会 高校生プログラム(小中学生も可!)のご報告

牛山克巳・山本麻希(企画委員会)

 
 例年大会を盛り上げてくれる高校生によるポスター発表ですが、それだけでは高校生のみなさんにせっかく網走まで来てもらうのに申し訳ない!と、今年はキャンパスツアー「突撃!東京農業大学北海道オホーツクキャンパス!」、さらにはキャリア育成ワークショップ「高校生のための鳥学講座」を実施しました。
 
 キャンパスツアーでは、東京農業大学家畜生産管理学研究室の大久保先生と大学院生の目黒さんから、学部のことやエミューの研究を紹介していただきました。エミューって2カ月もオスが飲まず食わずで抱卵し続けるのですね…。また、白木先生のもとで研究を行っていたお二人のOGにもいらしていただき、大学選びの過程からキャンパスライフ、今の職業に至った道筋などについて紹介していただきました。座学のあとはエミューの飼育施設を遠目から見学し、エゾシカの飼育施設にも行ってササをあげて癒されました。
 
 ポスター発表は一般のポスター発表が行われている体育館とは離れた教室で実施したので、大会参加者のみなさまに聞きに来てもらえるか心配でしたが、ふたを開けてみたら換気に追われるほどたくさんのみなさまにいらしていただきました。中高生のみなさんも自信を持って発表しているのが印象的でした。

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ポスター発表の様子1

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ポスター発表の様子2

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林内散策路で野鳥観察

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サケがたくさん泳いでいる網走川


 なお、今年度の高校生ポスター賞は以下の通りです。

● 最優秀賞
 「フクロウの給餌食物解明に向けたペリット分析と映像分析の比較」
  緒方 捷悟、坂井 智洋、門脇 優依、多湖 由海、田中 来瞳、
  藤田 直花(三重県立桑名高等学校 MIRAI研究所)

● 表現賞
 「フクロウが好む巣箱って知ってる?」
  丹下 翠(三重大学教育学部付属中学校)

● 科学賞
 「柳瀬地区におけるカラスの大量発生の原因について」
  角島 凪(中央大学附属高等学校)

● 努力賞
 「みや林における鳥類定点観察からの考察」
  西田 康平(桐朋高等学校 生物部 鳥類班)

 キャリア育成ワークショップでは、越智大介さん(水産研究・教育機構)と須藤明子さん(株式会社イーグレット・オフィス)から、それぞれ「日和見主義的鳥学生活〜「楽しく」研究活動を続けるために〜」、「野鳥をまもりたい獣医、野鳥を狙撃するのはなぜ?」と題してお話しいただきました。その後、キャリア形成に関わる疑問,将来に関する悩みなどについて考えるワークショップを行う予定でしたが、講師陣の熱の入ったプレゼンでタイムアップ!それでも普段聞けない面白い話しがたくさん聞けたと思います。

  最後に、参加者からの参加報告を紹介します!


「日本鳥学会感想文」 
角島凪(中央大学附属高等学校 3 年)

 この度、有難い事に高校生の部で科学賞を頂くことができました。ありがとうございました。
 私は当学会を通して多くの学びを得ました。公開シンポジウムで印象に残っているのは、アイスアルジーによる海底への餌の供給、シャチのサドルパッチの違いと食性の違いの二つです。また、私の研究対象と同じカラスを研究対象としている研究を多く拝見しました。特に私が自分の研究でつまずいていた、カラスによる農作物被害の対策案について、緑色のレーザー光が赤色レーザーに比べて効果的で、更には動かして放射した方が効果的であること。さらに、1305u以下の農地面積であれば「くぐれんテグスちゃん」(農研機構 吉田さん)を、それ以上であれば緑色レーザー(長岡技大 山本さん・笹野さん)を使用するのがコストの観点では良いという話がありました。私の調査地域の所有農地面積はバラバラであるため、所有面積に適した対策案を提示できる可能性に期待が膨らみました。
 高校生ポスター発表では、多くの方々 から多岐にわたる視点で助言を頂きました。
 このような機会を作ってくださった日本鳥学会の役員の皆様、私の研究に助言を下さいました研究者、学生の皆様、心より感謝申し上げ ます。


「日本鳥学会2022年度大会でポスター発表をしました!」
都立国分寺高等学校

 11月5日(土)〜6日(日)、「日本鳥学会」に参加しました。会場は、北海道網走市の「東京農業大学 北海道オホーツクキャンパス」です。本校からは下記の2組(2年生3名,1年生1名)が校生ポスター部門で発表を行いました。
・ 「カラスバトの音声コミュニケーションについて」(久保・相田)
・ 「カラスバトのGPSを使ったその生態の解明」(石井・大野)
 また、受賞記念講演や高校生のための鳥学講座を聴講したり、野鳥研究会の学生さんの案内でキャンパス内の林内散策路を歩いて野鳥を探したり、飼育されているエゾシカやエミューを見せていただいたりして、とても充実した時間を過ごしました。


【生徒の感想】
・参加者の方々とたくさんディスカッションすることができて楽しかったです。
・発表を聞いてくださった研究者の方々から様々な視点でアドバイスをいただいたので、それらを今後の研究に活かして行きたいです。
・他校生の研究発表にも大変刺激を受けました。

【生徒が撮影した写真】
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朝の散策(オホーツク海)1

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早朝の散策(オホーツク海)2

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早朝の散策(オホーツク海)3

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キャンパス内の林道からの景色

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アカゲラ

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シノリガモ

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オオワシ

(撮影者:久保光次郎)
posted by 日本鳥学会 at 10:24| 大会報告

2022年12月07日

2022年度大会終了のご報告とお礼

日本鳥学会2022年度大会 大会長 白木 彩子

 早いもので,今年も残すところ一ヶ月を切ってしまいました。日本鳥学会会員の皆様には益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
 去る11月3日〜6日,東京農業大学北海道オホーツクキャンパスで開催された日本鳥学会2022年度大会は,天候にもめぐまれ,盛会のうちに終了しました。接種証明の提示などコロナ感染対策や,運営をスムースにするためのアンケートにご協力を頂いた参加者の皆様,大会の運営に多方面からご支援くださった関係者の皆様には心よりお礼申し上げます。
 今回の大会参加者および公開シンポジウムの参加者はそれぞれ350名,216名で,口頭発表64題,ポスター発表98題,高校生ポスター発表8題,自由集会9題,受賞講演1題,公開シンポジウム講演5題と,各プログラムとも充実した講演・発表と活発な討論が行われました。ランチタイムを拡大し,アルコール抜きで行った異例の懇親会では,応援団学生による大根踊りをお楽しみいただけたかなと思います。エクスカーションのクルーズツアーは満員御礼にて催行,オホーツクキャンパス野鳥研学生による朝の鳥見ツアーにも大勢の方がご参加くださいました。
 本大会は現地と遠隔の混成実行委員会によるはじめての,さらにはコロナ禍での対面開催となり,先が見えない状況での意思決定では苦しむこともありましたが,参加者の方々から「楽しかった」,「あたたかい大会だった」,「よく配慮されていた」等のお言葉を頂戴し,中止となった2020年度大会から足かけ3年間にわたる準備が報われた気がいたしました。また,対面で語り,議論できることの素晴らしさを再認識した大会でもありました。一方では,不行届きの点も多々あったかと存じます。遠隔地やコロナ禍における大会運営を通しての気づきや課題については,今後の大会の在り方や改善の検討にむけた一資材となるよう改めて整理し,皆様との共有を図って参りたいと思います。
 次回2023年度大会は,9月15日(金)〜18日(月・祝日)に金沢大学角間キャンパスにて対面開催の予定です。どうぞ奮ってご参加ください。

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2022年度大会運営スタッフ

posted by 日本鳥学会 at 10:19| 大会報告

2022年09月01日

2021年度日本鳥学会大会自由集会報告:W5 加速する風力発電と日本鳥学会の対応

風間健太郎(早稲田大学)・浦達也(日本野鳥の会)
佐藤重穂(鳥類保護委員会)・綿貫豊(北海道大学)
記事執筆:風間健太郎

脱炭素社会実現を目指し、風力発電をはじめとする再生可能エネルギーの導入はますます進んでいます。風力発電は鳥類に様々な影響をもたらします。近年、鳥類に対しとりわけ大きな影響が懸念されるいくつかの風力発電建設計画に対して環境大臣意見が出されたり、複数の生物系学会や自然保護団体による声明・意見書・要望書が提出されたりしています。日本鳥学会においてもこれまでいくつかの風力発電事業に対して要望書を提出してきました。

一方で、急増する建設計画の動向や鳥学会としての対応を把握している鳥学会会員は多くはなく、学会としての情報の収集・提供体制は十分に整備されていません。この集会では国内各地で加速する風力発電の動向や学会および関連機関の動きを紹介し、今後研究者や学会員としてどのような情報収集・提供をしていくべきか、学会としてどのような体制を構築すべきかを議論しました(図1)。
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集会の講演内容を以下に記しますが、その前に集会以降の動きについて紹介します。2021年度大会終了以降、本集会の企画者らが中心となり「日本鳥学会風力発電等対応ワーキンググループ」設立が提案され、評議員会において承認されました(日本鳥学会評議員会報告)。ワーキンググループは、@導入が加速する風力発電に対する学会の基本理念の策定、A鳥類研究者、行政あるいは電力事業者向けの鳥類影響評価に関する指針の作成、およびB個別風力発電事業に対する意見書案の作成を主なタスクとしています。このうち@については2022年度総会での承認を目指し現在急ピッチで準備が進められています。

ワーキンググループの活動や学会基本理念の内容について会員の皆様から引き続き広く意見を募るべく、2022年度網走大会においてワーキンググループ主催の自由集会を開催します。ぜひご参加いただき貴重なご意見をお寄せいただければ幸いです。


2021年度集会講演内容

1. 趣旨説明:風間健太郎(早稲田大学人間科学学術院)
 
 地球温暖化をくい止めるためにエネルギーミックスによる化石燃料の使用量削減が世界的目標とされています。風力発電は有効な再生可能エネルギーとして導入が世界中で進んでいます。日本においては2000年代に入って導入が加速しており(NEDO、図2)、2021年8月時点で400以上の建設計画があります(経済産業省)。政府主導のもと風力発電の導入を促進するためにゾーニング事業(環境省)や導入促進(有望)区域の選定(資源エネルギー庁)も行われています。
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 風力発電はバードストライクや障壁効果、生息地の喪失・改変など鳥類に様々な影響を及ぼします。風力発電の健全な導入のためにはこうした影響をつぶさに評価・予測し、それを軽減するための措置が求められます。しかしながら国内における現状の環境アセスメントではそれらが十分に達成できていません。さらに、現在国は風力発電の導入促進を図るために環境アセスメントの短縮(簡略)化を推進しているほか、環境アセスメントを義務づける風力発電の事業規模を拡大する制度の改正(環境省)を行いました。環境省は「風力発電における鳥類のセンシティビティマップ」を作成し鳥類のリスクが高い場所をあらかじめ地図化し公開(環境省EADAS)していますが、地域によってデータが不足していたり情報の空間解像度が十分に高くなかったりするなど、既存情報を用いた鳥類へのリスク予測の不確実性は高い状況にあります。これらの状況を踏まえ、今後国内における風力発電の健全な導入のためには、鳥類の専門家集団たる日本鳥学会による積極的な情報収集・共有の体制構築が求められます。


2. 風力発電事業に対する日本野鳥の会の活動:浦 達也((公財)日本野鳥の会 自然保護室)

 (公財)日本野鳥の会は全国の風力発電事業に対して2003年より、「風力発電は立地選択によっては鳥類の生息等に影響を与える」として様々な活動を行っています。柱となる活動は、@政策提言・意見要望活動、A国内外の情報収集と事例紹介、B調査研究の3つです。

 @は、国や地方自治体が主催の検討会への出席と意見陳述、アセス図書に対する意見書提出と事業者や行政機関との協議、Aは、国内外の現地視察や学会参加、シンポジウム等の開催、野鳥保護資料集の発行、Bは、国内情報の取りまとめ、カウンターアセス(対抗調査)、独自調査とその結果の学会発表や機関誌等での紹介です。今後、風力発電が適正な立地で建設されるために、研究者や学生の皆さまには、Bの調査研究の実施を期待するところです。それは、英国やドイツなどの風力発電先進国のように、科学的証拠をもって影響把握や立地選定等を行うべきだからです。


3. 石狩湾を利用する海鳥:綿貫豊(北海道大学水産科学研究院)
 
 2050年までに温室効果ガス実質排出量を0にすることを目指して、自然再生エネルギーを得る様々な手法が検討・実施されています。風力発電もその一つです。陸上での建設は頭打ちになりつつあり、代わって洋上風力発電の計画と建設が加速しています。今後20年間でその規模を2000倍にするという案も出されており、海鳥へのインパクトが懸念されています。海鳥がよく使う場所を避けること、建設する場合でも細かい場所選定、軽減手法の検討と事後評価が必要です。

 石狩湾では最大100基1000MW規模の洋上風力発電施設群の計画が複数出されています。環境省はEDASに鳥類センシティビティマップ海洋版を公表しており、それによると石狩湾は比較的低リスクで湾の奥にやや高い海域があります。ただし、海上センサスではカモメ類、ウ類、カモ・アビ類に加えミズナギドリ類が観察されており(南波、浦:北の海鳥11号)、また、GPSトラッキングにより天売島で繁殖するウトウが150kmほど離れた石狩湾の奥で頻繁に採食する年もあることがわかりました(環境研究総合推進費4-1803)。近くにはウミネコの繁殖地もあり、慎重な情報収集が必要です。


4. 苫東地域の現状:先崎理之(北海道大学大学院地球環境科学研究院)
 
 自然度の高い環境がまとまって残る苫小牧市東部から厚真町西部の海岸部において、Daigasガスアンドパワーソリューションズ株式会社による(仮称)苫東厚真風力発電事業が現在進行しています。本講演では、北海道産鳥類の約50%に相当する238種が事業地において記録されていること、その中には40種以上の環境省レッドリスト掲載種が含まれていることを紹介しました。

 続いて、演者らによる2012年以降のモニタリング調査によって事業地内部とその周囲において4〜8つがいのチュウヒの繁殖が毎年確認されており、特に海岸部の湿地で営巣数が多いこと、事業地でタンチョウが過去2回繁殖に成功していること、事業地が勇払原野に残存する最後のアカモズ繁殖地の一つであることを紹介しました。

 最後に、上記稀少種を含む鳥類に対する当事業の悪影響を鑑み、当事業の中止を求めて鳥学会が提出を予定している要望書について、その作成過程、苦労した点、現在までの進捗状況を紹介しました。


5. 鳥学会からの要望書の提出状況:佐藤重穂(森林総合研究所四国支所)
 
 日本鳥学会には委員会の一つとして鳥類保護委員会があり、鳥類の保護や生息地の保全に関する活動を担当しています。鳥類保護に関する学会決議や意見書を関係機関へ提出する際には鳥類保護委員会で内容を審議しています。近年、風力発電については、以下のような要望書を提出しています。

 これらの要望書等は単に提出するだけでなく、添付資料として保全の必要性を示す根拠を提示するとともに、必要に応じて科学的な知見を提供する準備がある旨を伝えています。

 (仮称)苫東厚真風力発電事業に関しては、2020年12月に風力発電事業者に対して道央で最大規模の低湿地で多くの鳥類の生息地であり、保全の必要性のきわめて高い場所であることを提示する意見書を提出したものの、事業計画の再検討が見られなかったため、2021年度鳥学会大会での総会決議を準備するに至った経緯を紹介しました。


6. 総合討論
 
 総合討論では、はじめに風間から国内外の学会等による再生可能エネルギー導入に対する方針が紹介されました。日本生態学会態学会英国鳥類保護協会英国鳥類学協会などはホームページ等で再生可能エネルギーに対する基本的な考え方をそれぞれ公開しています。

 今後、日本鳥学会においても風力発電導入に対する何らかの方針を示すべきであるとの考え方が集会主催者より提案されました。さらに、@この方針案の策定、A鳥類研究者、行政あるいは電力事業者向けの鳥類影響評価に関する指針の作成、およびB個別風力発電事業に対する意見書案の作成など、急増する風力発電計画に即応するためのワーキンググループを日本鳥学会鳥類保護委員会の下部組織として設立することが提案されました。

 300名以上の参加があった会場からは、これらの提案に対して好意的な意見が寄せられました。風力発電を「真の環境調和型エネルギー」とするべく鳥類に対する影響評価が拡充されるよう積極的に情報発信すべきとの意見が多数ありました。一方、指針を公開しても事業者に適切に利用されない可能性もあるため、行政へ積極的にはたらきかけたり、行政機関が公開しているアセスメント手引きの中で参照されるよう促したりするなど、情報発信のやり方には工夫が必要であるとの指摘もありました。
posted by 日本鳥学会 at 12:00| 大会報告

2022年08月15日

日本鳥学会2021年度大会自由集会W1報告:JOGA 第 25 回集会「新たな局面に入った!? 今後のガンカモ類研究の発展を目指して」

東アジア・オーストラリア地域渡り性水鳥重要生息地ネットワーク
(ガンカモ類)支援・鳥類学研究者グループ

企画者:澤祐介(山階鳥類研究所)・嶋田哲郎(宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団)・牛山克己(宮島沼水鳥・湿地センター)・神山和夫(バードリサーチ)


1.はじめに

 近年、東アジアではガンカモ類研究が飛躍的に進んでいます。その一端となったのは、中国の研究者らが中心となり、およそ1,000羽にもおよぶガンカモ類、ハクチョウ類を東アジアの広域レベルで大規模に追跡した研究で、その成果は2020年12月にWildfowl 特集号第6巻にまとめられました。まさにこれまで「線」であった渡りルートが「面」となった瞬間でガンカモ類研究は、新たな局面に入ったと感じました。

 一方、上述の大規模追跡には、シジュウカラガンやハクガンなどは含まれていませんし、まだまだ残っている課題もあります。これらの研究から、日本の地の利や研究ネットワークを活かした日本ならではの研究課題も改めて見えてきます。それらへの取り組みを進めていくため、どのようなことが必要になってくるのだろうか。本自由集会では、日本での研究課題に取り組むために必要な技術としての「捕獲・標識」に着目した、「EAAFPガンカモ類作業部会国内科学技術委員会」、日本の強みである全国の調査ネットワークを基礎とした市民科学促進を目指す「渡り鳥CEPAワーキンググループ」の取り組みを紹介しつつ、どう今後のガンカモ類研究を盛り上げていくか考えました。


2.東アジアのガンカモ類研究界隈で、今、何が起こっているのか(牛山克巳)

 世界中に水辺に分布するガンカモ類は,生態的多様性に富み,人との関りも深く,分類や進化,行動,野生生物管理などのモデル生物として,様々な学問分野の発展に寄与しました.

 ガンカモ類研究は社会的な関心も高い欧米で発展しましたが,日本においても1900年代初頭から黒田長禮氏や羽田建三氏による先駆的な研究がされ,1970年代からは地域ごとの生態や環境要因の解析,衛星追跡による渡り調査などの形で研究の裾野が広がってきました.しかし,それでもまだ比較的研究事例は少なく,国内におけるガンカモ研究はまだ発展途上にあると言えます.

 一方で東アジアを見渡すと,近年ガンカモ類研究の界隈で大きな変革が起きています.その中心は中国で,高病原性鳥インフルエンザ対策のための豊潤な研究予算,渡り研究にイノベーションを起こしたGPS発信機の開発,湿地保全への国家的な取り組みなどに後押しされて数多くの研究がされています.

 研究素材として有用で,研究を進める社会的背景にもめぐまれているガンカモ類の研究を,今後日本国内でも発展させていくためには,研究者がより手軽にガンカモを捕獲し,研究対象としての可能性を広げることが重要と考えられます.また,身近で目立つガンカモ類の特性を活かして,市民科学を拡充することもガンカモ類研究の可能性を広げる上で重要です.それらに関わる「ガンカモ類作業部会国内科学技術委員会」と「渡り鳥CEPAワーキンググループ」が両輪となり,ガンカモ類研究に新たなウェーブを起こすことができるのか...ご注目ください.


3.誰かいい名前を考えて!ガンカモ類作業部会国内科学技術委員会の紹介(澤祐介)

 東アジアで盛り上がっているガンカモ類研究ですが、日本のフィールドの特徴を活かした研究とはなんでしょうか?日本にはマガン20万羽以上が越冬する安定的な越冬地をかかえ、個体数カウントなどの調査ネットワークも整っています。さらには、コクガン、ハクガン、シジュウカラガンなど、日本が重要な中継地、越冬地となっている種がおり、東アジアで減少が著しいカリガネに関してはその個体数が増加してきています。まさに、日本が東アジアのなかでも「主」フィールドとして活躍する研究課題がたくさんあります。

 日本でこれらの研究課題を進めていく上で、制限要因になっていることは何だろうか?そのうちの一つは、「ガン類を捕獲し、標識することの難しさ」であると考えています。ガン類の捕獲には、罠を扱う技術、罠を仕掛ける場所の見極め、誘引、許可関係などなど、クリアしなければならないことも多数あります。これまで、捕獲は一部の技術者に頼ったものが多かったですが、それでは大規模追跡や標識数を増やしていくことはなかなか難しいと感じています。

 そこで私たちは、「捕獲・標識できる人を増やし、中長期的に研究が持続していく体制を整えること」を目的に「EAAFPガンカモ類作業部会国内科学技術委員会」を立ち上げました。この委員会の中では、ガン類捕獲に関連するマニュアルを整備したり、ガン類の主要渡来地で捕獲研修会を実施したりして、ガン類の捕獲ができる技術者を増やしていきたいと考えています。さっそく、2021年10月、2022年4月に宮島沼での研修会を実施し、5羽のマガン捕獲にも成功しました。

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罠の設置方法の研修


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マガンを罠で捕獲した様子


 ガン類の捕獲は、罠の取扱技術だけでなく、どの場所にいつ集まるのか?といった事前の下見や情報が重要です。罠の特性を知ったうえで下見をすることで、捕獲チャンスは格段にあがります。鳥を触ったことが無い方でも貢献いただけることはたくさんありますので、ご興味のある方はぜひ、今後開催される研修会にご参加いただけますと幸いです。

活動内容の詳細は下記のHPへ!
https://miyajimanuma.wixsite.com/anatidaetoolbox/awgstcjapan


4.カラーマーキング報告フォーム、はじめました(神山和夫)

 移動を調べるために首輪や足環を装着された野鳥がいます。首輪はプラスチック製、足環にはプラスチック製と金属製のものがあり、プラスチック製は色が付いているのでカラーマーキングと呼ばれます。観察した種や場所、日時などの情報を簡単に登録できるフォームがあれば記録が集まりやすいだろうと考えて、「ガンカモ類作業部会国内科学技術委員会」の活動の一環として、バードリサーチのWebサイトで2020年12月にガンカモ類を対象にしたカラーマーキングの報告フォームを公開しました。

 バードウォッチャーやガンカモ調査ボランティアの皆さんから情報が届くと予想していましたが、他にも野鳥写真家の皆さんからも多くの記録が寄せられ、2020/21年の越冬シーズンだけで105件の記録が集まりました。カラーマーキング報告フォームには、こちらのURLでアクセスできます。
https://www.bird-research.jp/1_katsudo/gankamo_hyosiki/index.html

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2020/21年にカラーマーキング個体が観察された地点と種別報告件数


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カラーマーキング報告フォーム



5.CEPAってなんやねん(牛山克巳)

 CEPAとは,communication, education, participation, awarenessの略語で,生物多様性の保全や持続的利用に,人々の理解と参加を求めるための手段全般を指します.もともとはラムサール条約において生まれた用語で,今では生物多様性条約やEAAFPにおいても取り入れられていますが,ラムサール条約ではCにcapacity buildingが加わったり,生物多様性条約ではconnecting, change of behavior, empowerment, policy instrument, actionなどを関連する用語として加えたりしています.

 ガンカモ類の保全管理におけるCEPA活動は,市民科学の拡充,サイエンスコミュニケーションの深化,ステークホルダーとの合意形成など,あらゆる面で重要です.そこで,CEPAに関する情報交換と協働取組を実施するため,2021年に渡り性水鳥の重要飛来地における自然系施設職員,関連NGO,研究者などがあつまって「渡り鳥CEPAワーキンググループ準備会」が発足しました.

 活動は始まったばかりですが,まずはYou tubeチャンネルを立ち上げて,月一で勉強会の様子を配信したり,Facebookグループをつくって情報交換を図り,交流を深めたりしています.引き続き,ガンカモ研究の発展につながるような広報・普及啓発活動や,研究者と現場関係者と市民科学の相互連携の強化などを進めたいと考えていますので,興味がある方はぜひご参加ください.

「渡り鳥CEPAワーキンググループ」のページ
https://miyajimanuma.wixsite.com/anatidaetoolbox/cepawg-japan


6.ついにシジュウカラ物語の本がでましたが、シジュウカラガンもハクガンも本格的研究はこれからですよ(呉地正行)

●アジアのシジュウカラガン回復

 ⽇本雁を保護する会は、シジュウカラガンの復活を願う⽇⽶ロの⼈々と協働し、約40 年をかけて千島列島から⽇本へ渡る群れを復活させた。

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日本国内でのシジュウカラガンの分布(日本雁を保護する会まとめ( 〜 2019/20)


 「シジュウカラガン物語」(京都通信社, 2021)は、シジュウカラガンはどのような鳥か、なぜ絶滅に追いやられ、どのように復活したのか、今後の課題など、その全史をまとめたモノグラフである。

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シジュウカラガン物語
(京都通信社, 2021)


 多数生息したシジュウカラガンは、20世紀初頭に繁殖地のアリューシャンと千島で相次いで始まったキツネの大数放飼のため、絶滅の淵へ追いやられた。
 
 アジアのシジュウカラガン回復計画は、⽶国の支援を得て始まり、1992年からは日米ロ3 国共同で実施し、熱い思いが運も味⽅につけ、約10,000 ⽻の群れの復活へと結びついた。

 近縁種で特定外来種のオオカナダガンも関連団体と協働し、野外除去に成功。農業者と協働し、「ふゆみずたんぼ」の普及も⾏い、大型水鳥の⽣息地保全・回復に貢献した。

 今後の課題は、DNA分析による個体群レベルの分類、 実施中のGPS送信機による繁殖地、渡りの経路、ホットスポットの特定。

●アジアのハクガン復元

 これまでの取組で、2,000羽程度にまでに復元できた。収集情報の冊子化を準備中。今後の課題は、実施中のGPS送信機調査拡充による繁殖地等の特定、モノグラフの完成。


7.おわりに

 本自由集会には最大115名の方々にご参加いただき、様々なご意見をいただきました。

 特に、これまで呉地氏を中心として日本雁を保護する会で実施してきたガン類の保護、復元の取組は、世界に誇る日本の成果であり、それらが下地となって現在の研究の盛り上がりがあることが言及されました。
 
 現在は、モニタリング、標識、衛星追跡、市民活動などすそ野が広がってきていますが、研究や普及啓発をどのような方向に向かって推進していくのかを示していくことが重要との意見がありました。特にガンカモ類の多くは現在、個体数が増加しており、その中での保全をどのように位置づけて考えるのかは今後の課題となりそうです。また、農業被害や高病原性鳥インフルエンザとの関わりも深いため、保全だけでなく、「管理」を含めて考えていくことも重要になってくるように思います。

 ガンカモ類研究は、皆さんから話題提供いただいた通り、たくさんの研究課題があり、最新技術の取り込みも行われています。今後、さらに多くの方がたにガンカモ類研究に携わっていただき、発展させていくことができればと考えています。

posted by 日本鳥学会 at 18:14| 大会報告

2022年07月08日

日本鳥学会2022年度大会:W6 みんなで作ろう!目録8版(その2)

西海 功*・金井 裕・山崎剛史・小田谷嘉弥・亀谷辰朗・齋藤武馬・平岡 考・池長裕史・板谷浩男・大西敏一・梶田 学・先崎理之・高木慎介
(目録編集委員会)
*E-mail: nishiumi[at]kahaku.go.jp
※送信の際は[at]を@に変えてください


 「日本鳥類目録」は,日本国内で記録されたすべての鳥類を列挙し,それぞれの分類上の位置づけを明らかにし,生息状況を記した目録です.市販の図鑑類や,各種の鳥類調査,行政や法律など各分野で参照される基本文献であり,分類や分布の新知見を反映して定期的に改訂することが,日本鳥学会の社会貢献のひとつとして重要です.第8版の2022年発行にむけて編集作業を進めていますが,従来とは違った次の改訂の方針の一つとして,できる範囲で学会員の意見を聞きながら改訂を進めています.2021年2月から4月には掲載種に関わる第1回パブリックコメントを実施しました.いただいた投稿数は18件で,意見総数は20以上となりました.様々な角度からの意見をいただき,編集作業では見落としていた情報の指摘もあり,編集への大きな力となりました.現在は地域記録の整理と各種の解説文の作成を進め,第2回パブリックコメントへの準備を行っています.そこで,2019年の自由集会に引き続き,2回目の自由集会を開催して,日本鳥類目録の意義と第8版に向けた改訂作業について多くの会員に知っていただくとともに,会員の皆さんからのご意見をうかがいました.

日本鳥類目録発行の意義と目的
西海 功(国立科学博物館)

 一言で意義と目的を述べれば,日本の鳥について分類・和名と分布・生息状況を示すことによって,生物学の基礎情報としての分類および分類群名の国内の統一を図って科学的議論をおこないやすくするとともに,生物多様性の観点から日本の鳥について把握し,評価しやすくすることと言えそうです.例えば,いつも庭に来る鳥が,何という名前の鳥でどんな分類なのかを決めて提唱していることになります.より実用的には,絶滅危惧種(亜種)に指定されたのがどの範囲なのかも示していることになります.例えば,「イイジマムシクイ」が伊豆諸島に繁殖分布する集団のみを指すのか,吐噶喇列島の集団も含むのかといったことです.さらには,日本には何種の鳥がいるのかといった生物多様性の基本的な疑問に答えるためにも不可欠な文献といえます.
 第7版の主な掲載内容は,分類(上位分類と学名),種と亜種の和名,種の英名,種と亜種の(世界の)分布域,亜種の国内分布と生息状況(ステータス)および生息環境ですが,掲載内容には一定の決まりはなく,初版(1922年)以降変遷があります(下表参照).例えば,初版では原記載情報やシノニムリスト(同物異名情報)がありましたが,世界分布や生息状況,生息環境は示されていませんでした.次の第8版では,第7版を引き継ぐ予定です.
 改訂の具体的な作業としては,大きく3つあり,1)上位分類と学名(種・亜種の名称や分布範囲)の検討,2)それらの標準和名の提唱と検討,3)日本での鳥の記録の検討です.前2者は分類担当委員が,3)は記録担当委員が主に検討しています.最新の研究成果に基づいて分類をアップデートする際に苦心しているのは,過去の版との継続性と世界のチェックリストとの整合性の兼ね合いです.
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掲載予定種の分類の検討結果
齋藤武馬(山階鳥類研究所)

 鳥類目録に掲載される掲載種の分類が,どのようにして委員会内で検討されているのか,その方法について一通り概要を説明したのち,検討結果について,種レベルの変更,属名の変更,亜種レベルの変更の順に説明を行いました.
 まず,種レベルでは,26種について種小名が変更されます.その中で注目すべき種として,キジ,シジュウカラ,トラツグミ等を取り上げ,詳細を説明しました.さらに,別種の亜種であることが分かった種や,近縁種と同種となった種など,4つの変更例について紹介しました.
次に,属レベルの再検討により,属名が変更となった77種について説明しました.そのうちの64種に関しては,新称の属和名が与えられます.
 亜種レベルの変更に関しては,亜種そのものが無くなり,単形種となったのが15種,そのほか,亜種が種に昇格したり,他種の亜種になった例など7つの変更事例について紹介しました.また,2亜種については和名が変更されます.
 最後に8版発行に向けての課題について言及しました.第一に,「種の分布域のチェック」です.これは,日本国外にも分布する種について,その分布域の一部で種の分割があった場合,種の分布域の記載を変更する必要が生じるという問題です.第二に,「新規掲載種の順番」ですが,これは新しく目録に加わった種をどの種との間にリストに差し込むかという問題などです.第三に,「記録に疑義のある種(亜種)の分類の検討」です.観察記録において,記録された個体がどの種や亜種と判定されるかについては,時としてその同定が困難な場合があります.その理由としては,記録そのものが不確実な場合と,その分類群の分類がまだ不確定なため,どの種(亜種)に同定してよいか判断が難しい場合があります.このような課題について,今後次版の出版までに検討しなければならない現状の問題点を紹介しました.

掲載予定種の記録の検討結果
小田谷嘉弥(我孫子市鳥の博物館)

 記録担当からは目録8版の掲載予定種の検討について,実際に行った作業の過程を説明し,今後の課題について議論しました.目録8版では正確性と検証可能性を重視する方針で,文献において十分な検討が行われていない観察例は認めないこととし,目録7版掲載種のうち31種を検討種に移すことを提案しました(これらの変更の詳細については,第一回パブリックコメントのファイルをご覧下さい).しかし,掲載種とならない見込みの種・亜種の中には,同定に誤りがないと考えられるものや,複数回の観察例があるものも含まれています.今後は,これらの種・亜種の記録について正確性と検証可能性を担保する文献として発表していくことが望まれます.

今後の進め方*
金井 裕(日本野鳥の会)

 目録8版は,来年の鳥学会大会前の9月初旬の発行を目指しています.現在は,分類について募集した意見の整理を終えて,10月末を目標に地域記録の集約を進めています.その後は1月末を目標として目録本文の原稿案を作成し,2月・3月で原稿内容の地域記録記載について,第2回目の意見募集(パブリックコメント)を予定しています.4月から7月にかけては,いただいた意見による記載の修正を行い,8月初めに原稿を完成させて印刷に入るというのが現在の予定です.スケジュールとしては,かなり厳しいのですが,来年の鳥学会大会の日程に合わせて作業を進めて行きますので,みなさんのご協力をお願いします.
(*「今後の進め方」でのスケジュールは2021年9月時点での予定を記しています.かなりの遅れが出て,現在第2回目の意見募集を鋭意準備中となっています.)

質疑応答
 以上,4名からの発表の後,発表内容あるいは目録全般に関してのご質問やご提案を参加者の皆さんから受けました。チャット機能を使って質問・提案をいただきつつ,できるだけ口頭でも補足いただきました.司会は平岡が務めました.
 分類に関連しては,目録改訂は現在10年ごとに更新されているが年々発表される分類変更に追いつかない場合があるため随時補遺を刊行することの提案,日本鳥類目録で用いている亜種の定義についての質問,シノニムリストの掲載の要望をいただきました.第8版出版後は目録編集委員会を常設委員会にして,目録の毎年のアップデートを和文誌等で示したいこと,亜種は形態的に区別できる異所的集団ととらえていること,シノニムリストの掲載は煩雑になるため古い版のPDFの公開でそれを補いたいことをそれぞれ説明しました.
 記録に関しては,目録の記録の目的は,「文献記録の整理」ではなく,「現在の日本の鳥類相を記録すること」なので,学術発表を原則としつつも,確実な記録は追加する柔軟性があるべきだとの指摘がありました.これについては,そもそも「確実な記録」かどうかを判断する際に文献主義を取るべきである,というのが目録編集委員会としての考えです.また,分布情報については全国鳥類繁殖分布調査の結果,博物館の標本情報も活用すべきという提案がありました.これについては,文献での検討が要求されるのは,国内初記録となるかの判断に関してであり,記録僅少種以外についてはそのようなソースも踏まえて都道府県別に収集した情報を反映していきたいと考えています.
 和名については,リュウキュウサンショウクイを別種とするに際して,新たな種サンショウクイの和名には修飾語をつけることが,従来からの観察記録との区別や,今後,分類変更が周知されるまでの観察記録を生かすために必要だという提案があり,再検討することになりました.また,タネコマドリでは,分類の改訂によって亜種和名が実際の分布と乖離することになるので,和名変更の提案があり,取り入れる方向で検討することになりました.さらにアホウドリという和名は蔑称にあたりふさわしくないとのご意見もいただきましたが,2021年3月の評議員会での議論の結果を紹介し,第8版では変更せず継続課題であることを説明しました.
目録における外来種の掲載位置について,キジやヤマドリなど,国内移入があって両方に分かれているのはわかりにくいとのご指摘があり,亜種不明の移入についても亜種が判明している移入(つまりIB)と同様にPart Aにも記載することを説明し,また,在来種と外来種を統一したリストの要望については,ホームページでの統一リストの公表を予定することにしました.
 分類,記録,その他の項目についてさまざまな質問や提案があり,時間を超過しての意見交換となりましたが,たいへん有意義なものでした.第8版で取り入れることが難しい提案についても今後継続して検討していきます.
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posted by 日本鳥学会 at 19:00| 大会報告

2022年06月28日

日本鳥学会2022年度大会:標本集会へのお誘いと2021年度大会第4回標本集会報告

加藤ゆき(神奈川県立生命の星・地球博物館)

 11月3日から東京農業大学北海道オホーツクキャンパスで開催される日本鳥学会2022年度大会で、第5回となる標本集会を企画しております。本集会へのお誘いとこれまでの復習を兼ねて、過去の集会報告を掲載いたします。 詳細は要旨集にて。皆様、ぜひお越しください!


――
日本鳥学会2021年度大会自由集会報告

 初めてのオンライン開催となった本集会では、全国の博物館、研究施設の共通の悩みである「収蔵庫」について話し合いました。標本の収蔵スペースが不足している、収蔵庫の適切な温湿度調整が難しいなど、設備的な問題はどの施設でも抱えています。それを解消するにはどうすれば?参加者が意見交換を行いました。

第4回「収蔵庫ってどういうところ?−標本収蔵施設の現状と問題点」

はじめに

 自然史標本は,生き物がその時,その場所に生息していた証拠である.良い状態で長く保存できる標本は,時間が経過してもなお,多くの情報を私たちにもたらしてくれる重要な研究資源である.標本の重要性は承知していながらも,管理する立場になると,増えていく標本にスペースが足りない,標本を整理するマンパワーが足りない,剥製に害虫・カビが発生したなど,悩みも多い.そして,これらの問題を担当者だけで抱え込んでいる施設等は多い.本集会は,標本の収蔵管理についての問題や対応方法を参加者と共有することを主目的に,5名の演者の事例を紹介した.(加藤)

1.神奈川県立生命の星・地球博物館事例
収蔵庫ってどういうところ? ―標本収蔵施設の現状と問題点
加藤ゆき(神奈川県立生命の星・地球博物館)

 神奈川県立生命の星・地球博物館は自然史の総合博物館であり,岩石や化石,動植物標本など約70 万点を収蔵している(2020年3月現在).しかし,開館から26年経過し収蔵スペース不足が懸念されるようになり,収蔵棚の充足率は 70%以上となり,分野によっては収蔵棚に置ききれずに,廊下や作業場所等に仮置きをせざるを得ない状態となっている.また,様々な標本種が混在して置かれており,標本害虫の生物標本への影響も懸念される.しかし,標本の保存のためにはその種類に応じた置き場所を確保,管理をすることが望ましい.当館では年1回の収蔵庫燻蒸,年数回の燻蒸装置での燻蒸(ともにエキヒュームを使用)と併用してIPM(総合的有害生物管理)により標本害虫やカビへの対策を行っている.また,標本の再配架や物品倉庫等を収蔵スペースとして活用している.分野によっては標本の形状変更や寄贈標本の受け入れ制限等を行っている.

2.山階鳥類研究所の事例
収蔵庫ってどういうところ?山階鳥類研究所の収蔵庫
岩見恭子(山階鳥類研究所)

 山階鳥類研究所は鳥類学専門の学術機関であり,鳥類学の拠点として基礎的な調査・研究を行うとともに,環境省の委託を受けて鳥類標識調査を行っている.研究用の標本の収集と活用を進めており,現在,約8万点の鳥類標本を収蔵している.標本害虫やカビ対策として,燻蒸は二酸化炭素及びエキヒュームを使用,小型のものはチャック付ビニール袋に脱酸素剤を入れて対応している.標本の表面に発生したカビは,70%エタノールを使用して,手作業で除去している.
 本発表では,動画を用いて前室での標本受け入れ作業や収蔵庫内での保管のための作業を紹介した.標本数は年々増加の傾向にあり,最近は展示用剥製の寄贈も多い.このように急増する標本の収蔵スペース確保は急務であり,引き出しの中を整理することで収蔵量を増やしたり,収蔵棚の上も活用したりするなど対策を進めている.さらに,インターメディアテク等の外部施設に標本の一部を寄託している.しかし,収蔵スペースは絶対的に不足しており,新しい収蔵施設の設置が望まれる.

3.豊橋市自然史博物館の事例
お隣は動物園!豊橋市自然史博物館の収蔵庫
安井謙介(豊橋市自然史博物館)

 1988年に開館した豊橋市自然史博物館は「豊橋総合動植物公園(のんほいパーク)」内にあり,動物園,植物園,遊園地が併設されている.演者はここで,哺乳類を中心に鳥類,両生爬虫類の標本を20名のボランティアと共に作製しており,年間約100点ずつ資料が増加している.豊橋市内はもとより愛知県内各地から野生動物の死亡個体を受け入れるとともに,併設している動物園の死亡飼育個体の受け入れも行っている.なお,動物園とは同一部局であるため,死亡飼育個体の譲渡は行政的障害なくスムーズに行われている.全館や収蔵庫の単位での燻蒸は,入園者への安全を考慮し実施しておらず,標本収蔵前に小型滅菌装置で酸化エチレンを用いた燻蒸を行っている.
 当館でも所蔵資料が収蔵庫の収容力を大幅に超えているため,収蔵庫内レイアウトの変更や収蔵棚の増設を2018年度から逐次実施し,収容力向上に努めている.加えて収蔵スペース確保のため,新収蔵庫の増築,常設展示室の閉鎖とその収蔵庫への転用,プレハブ建築での代用など様々なケースに対応した予算要求を毎年行っているが,残念ながら未だ実現していない.

4.インターメディアテクの事例
商業施設内の展示空間 ~あなたが思うより無茶振りです~
松原 始(東京大学総合研究博物館)

 インターメディアテクはJPタワー/KITTE内にある公共施設で,東京大学総合研究博物館(UMUT)のブランチ施設として開館した.KITTEには80店舗が入り,うち飲食店は31店である.そのような商業施設にあるため,博物館事業を行うにあたり様々な制限がある.例えば搬入口が狭い,自由に使える空間が限定される,他店舗があるため燻蒸などの薬品類が使えない,照明や空調が個別に設定できないなどである.また標本の搬出入のための車両は地下の駐車場を使用しなければならず,利用時間も考慮しなければならない.さらに,KITTE の位置する旧東京中央郵便局舎は外装に手を加えることがほぼ不可能で,展示室には外光の入る作りとなっている.さらに,もともと収蔵という発想がなく,収蔵庫は2,996m2の施設全体に対し130m2と狭い.そのため,庫内にレコードと鳥類のはく製が同居する,といった状態になっている.
 しかし,東京大学で使われた古い什器等を活用した展示空間としてデザインされた結果,KITTEの利用者がインターメディアテクにも入るようになり,結果として来館者増につながった.ここは,山階鳥類研究所の標本の一部を寄託されている.ガラス越しにそれらを閲覧できるようになっており,隙間スペースを利用して企画展も開催している.しかし棚が作り付けで,標本の交換や展示準備に技を要する.また,週に1回は清掃を行っている.

5.ドイツ ケーニヒ動物学研究博物館の事例
古いシステムの中で
相川 稔(ケーニヒ動物学研究博物館)

 1900年に開館したケーニヒ動物学研究博物館は,総面積18,048m2,スタッフ144名の大規模な博物館であり,現在も拡張工事が行われている.多くのヨーロッパの博物館施設と同様,ここでも剥製を含む標本作製は標本士が担当し,剥製の管理や研究は学芸員が行っている.施設で受け入れている検体は原則研究用であるが,教育目的の標本も必要に応じて作成される.受け入れた検体も,状態やデータの不備もしくは処理能力との関係でかなりの割合廃棄される.ドイツの法律の関係から,個人による死骸の持ち込みはない.骨格標本のうち交連骨格はごくわずかで近年製作されることはほぼない.タイプ標本は特別な場所で保管されている.標本作製には標本士6人が作業にあたっているが3年来新しい展示作成のため標本作製は滞りがちである.骨格の処理には晒骨機に分解酵素を用いて作製し,脱脂はジクロロメタンを入れた脱脂釜を使用する.小型動物は虫を使用することもある.燻蒸は薬剤ではなく冷凍(-40°C)で行っている.
 収蔵庫はゆったりとした作りで,引き出しに仮剥製が並んでいる.一部入っていないところもあるが,これは収蔵棚制作時に「これから収集する」標本のためにあえて空けてあったところで,そのためわずかながらもスペースに余裕がまだある.本剥製は棚に入れているが,展示ケースを作り直したガラスケースに収蔵しているものもある.

おわりに

 今回の自由集会はZoomを利用して行われ,質問,意見等は随時チャットに入れていただき,発表後に意見交換の時間を設けた.参加者からは,収蔵施設の新設が難しいのであれば,プレハブ倉庫や貨物用のコンテナを利用してはどうだろうかといった意見が出された.また標本の寄贈の受け入れはすべて行っているのか,標本の脱脂方法や標本害虫・カビ対策の具体的な方法について教えてほしいといった質問が寄せられた.
 プレハブ倉庫の活用例は,いくつかの研究施設,博物館施設でも実際に行われている.しかし,建物外に置くためセキュリティ面や調湿・調温を考慮すると,配架できる標本種が限られるだろう.寄贈標本に関しては,各施設がそれぞれの収蔵スペースを考慮しながら判断しており,またその標本の希少性,重要性,標本の状態等とも関連するため,ケースバイケースとなることが多いようだ.脱脂は密閉してジクロロベンゼン溶剤に標本を入れる,アセトンに浸すなど,有機溶剤を活用した方法が紹介された.この話題に関連して,ケーニヒ動物学研究博物館で使用されている脱脂釜にも高い関心が寄せられた.
 標本を残すことは自然史の情報を後世に残し,未来の研究を支えることである.それぞれの館で抱える問題は多く,標本を残すための環境が劇的に良くなる兆しはなかなか見えない.しかし,より多くの標本を良い状態で残していく志を持ち続け,研究施設や博物館,そして鳥類学に関心のある人々が情報を共有し,互いに助け合える関係を構築していくことが大切だと考えている.本集会のようにそれぞれの情報や問題を出し合って,それらを共有することを続けていくことがその第一歩となるであろう.鳥学会大会は鳥類の専門家だけではなく,博物館関係者も集うため自然史資料について考える良い機会であると考える.最後に他の集会が平行して開催されるなかで,本集会に参加いただいた62名の方々にこの場を借りてお礼申し上げる.今後も引き続き「標本」に関心を寄せていただければ幸いである.

(加藤・小林・岩見)
posted by 日本鳥学会 at 12:40| 大会報告

2021年10月20日

日本鳥学会2021年度大会運営始末記

山階鳥類研究所
浅井芝樹


 2021年度大会はCOVID-19感染拡大の影響を受け、日本鳥学会としては初めてのオンライン開催となりました。大過なく終えることができたようで、まずはほっとしていますが、ここに至る内幕や意見など散文調で書いてみたいと思います。

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1)経緯など
 2021年度大会の事務局は山階鳥類研究所(山階鳥研)でしたが、山階鳥研がある我孫子市とその周辺では適切な会場を用意することが難しく、東邦大学を会場とすることで話を進めていました。2019年の秋には東邦大学の長谷川雅美さんに奔走していただき、会場を抑える準備をしていました。ところが、2020年の初めごろからCOVID-19感染拡大に伴って多くのイベントが中止になり、各自然史系学会も延期・中止となっていくなかで、ついに日本鳥学会2020年度大会(東京農業大学北海道オホーツクキャンパス(網走))も5月に中止の判断となったのでした。2021年度の東邦大はそのまま進めるつもりでしたが、COVID-19感染は縮小の気配を見せず、多くの大学キャンパスの使用について目処がたたないままとなりました。大会実行委員会では2020年夏頃からオンライン開催やむなしという意見が上がり、オンサイト開催の可能性も残して同時並行に進めるのはコストが大きいため、完全にオンライン開催へと舵を切りました。

 私自身は、2018年度より学会事務局長を務め、2020年度の東農大(網走)での開催提案、2021年度の山階鳥研(東邦大)による開催提案、東農大(網走)大会の中止判断、のすべてに関わっていました。2大会連続の中止だけは避けたいという思いがありました。2021年度は山階鳥研が大会事務局であり、自身が大会実行委員の一人ですから、オンラインでとにかくやるということを大会実行委員会内で自ら主張すべきだと考えていました。

 幸い、大会実行委員会はすぐにオンライン開催でまとまったのですが、山階鳥研で果たしてオンライン開催ができるのでしょうか?そもそも学会事務局長として、山階鳥研が大会事務局となって開催すれば良いと判断した理由は、経験が多い学会員が多数いるということが理由だったのですが、多数いるにしても自分も含めて残念なぐらい「ネット」とか「デジタル」とかに弱いメンバーではないか?!

 2020年度の鳥学会は中止となりましたが、バードリサーチが鳥類学大会2020をオンライン開催しました。そこでさっそくバードリサーチから神山和夫さんと高木憲太郎さんにスタッフへ加わってもらいました。また、学会ウェブサイトを切り盛りしている広報委員会から上沖正欣さん、普段からYouTubeでライブ配信を行っている我孫子市鳥の博物館の小田谷嘉弥さんにスタッフへ加わってもらってオンライン開催体制を整えました。
オンライン開催するために利用する配信システムの発注は、参加者数で見積もりする必要があります。そこで、急遽2021年1月に会員の皆さんへ参加・発表意思についてアンケート調査を行い、それに伴って予算策定し、参加費を確定しました。

 オンライン大会をイメージしやすくするために、普段の大会で実施する発表形式をできるだけ再現することを目指しました。そのため、口頭発表とポスター発表などの区分を例年通りに設けました。ポスター発表に代わるものとしてLINC Bizというサービスを利用することは比較的早くに決まっていましたが、(その当時の大会実行委員会判断では)LINC Bizは大会実行委員会側でアレンジするところはあまりありませんでした。一方、口頭発表に代わるものとして選んだZoomというサービスは利用方法を選ぶ必要がありました。しかし、使いこなしたメンバーが少ない大会実行委員会ではぎりぎりまでどんなことができるのか、どんな問題が生じうるのかわかっていませんでした。実際に認識し始めたのは、9月になって直前シミューレーションをし始めてからではなかったかと思います。ぶっつけ本番だったわけです。大会実行委員会自体がそんな状態だったので、参加者は利用に苦労するのではないかと危惧して、利用の仕方を丁寧に説明するマニュアル作成をしなければならないのではないか、それでも結局わからずにたくさん質問が届くのではないか、ということを危惧していました。それにもかかわらず、事前マニュアルはZoomやLINC Bizが作成したものの流用や、バードリサーチ鳥類学大会で作成されたものの流用しか用意しませんでした。当日は、「質問はチャットへ」とアナウンスした上で、電話番、メール番を常に配置することにして待っていましたが、蓋を開けてみると質問対応することはありませんでした。参加者は特に問題なく会場にアクセスしてきたようです。考えてみれば、このウイルス禍の中でZoomを始めとしたオンライン会議に慣れていて、参加することに特に違和感はなくなっていたのかもしれません。

 当日はどこの大会実行委員会でもそうだと思いますが、朝からずっと忙しい一方で準備してきたことを粛々とこなす以外のことはありません。その点はオンラインでも変わらないことです。


2)開催の利点・問題点
 今回の大会は学会誌での事前説明がほとんどなく、内容が決まり次第ウェブサイトで周知するという態勢になりました。また、当日各会場への参加も参加者用ウェブページからリンクするといった方法を取りました。したがって、ウェブサイトの運営・編集が重要でしたが、スタッフとして参加してもらった上沖さんがスムーズにウェブサイト編集をしてくれたので大変助かりました。また、公開シンポジウムは会員外でも参加できるようにYouTube配信することに決めましたが、普段から利用している小田谷さんをスタッフに迎えたので、これも簡単にことが進みました。やはり、そういったことに強いスタッフが1人いるかどうかは大きな違いとなりそうです。
 
 オンライン大会は(少なくとも今回の方式では)事前申し込みでしかできません。このことが大会当日受付を考えなくてよい、ということにつながりました。今回は初めてのオンラインだったので、例年実施しているけれども難しいと思われたことはしないことに決めました。要旨集は手渡しできないから印刷しない、現金以外の支払い法を確立することにコストが大きいからグッズ販売はしない、エクスカーションはしない、といったことです。これらのことは収入見込みを容易にすることと支出の縮小につながりました。

 普段の学会運営を行う学会事務局と、大会運営する大会実行委員会は別組織です。普段の大会なら、評議員会や各種委員会、総会、各賞授賞式、受賞記念講演の開催は、大会実行委員会の企画ではなく、学会事務局が大会実行委員会から場所を借りて実施しています。2021年度の場合、各種委員会と評議員会はオンライン会議とするしかないので大会前に実施しました。総会は2020年度と同様に書面総会としました。これらのことによって大会実行委員会は会場管理の負担が減っています。今後、オンサイト開催が再びできるようになってからも考慮して良い事柄ではないでしょうか。

 大会実行委員会のなかで一番大きな反省点として、口頭発表の質問対応が十分ではなかったということがあります。座長が時間内にチャット質問を取り上げることでしか対応できませんでした。時間がなくなった時はいつもなら「個別に議論してください」と言って次の発表に移るところですが、オンラインで「個別に・・・」ということはどういうことを指すのか、大会実行委員会でアイディアがなく、案内することができませんでした。これは配信システムを熟知して便利な機能を使えばできたかもしれません。

 大会実行委員会ではできるだけ普段通りに実施するという方針で、展示ブースも用意しました。しかし、客の入りはよくありませんでした。Zoomで来店するのはやや敷居が高いらしいこと、来店しても売り物を直接見せることができないこと、支払いにワンクッション入ることなどが大きなハードルだったようです。

 オンラインだと遠隔地のメンバーで運営できるという漠然としたイメージがありましたが、実際には集まらなければなりませんでした。今回、口頭発表では、発表者と直接やり取りしているのは座長1人でしたが、次の発表者をZoomウェビナー上で待機させる係、タイムキーパー(座長はチャット質問に集中しているので時間管理はしていない)、Zoomウェビナーの管理者(ホスト)の4人が連絡を取り合える1部屋に集まっていました(発表中にどのようなトラブルがあるか分からないので関係者は1部屋にいた方が良い)。口頭発表会場は2会場あるので2部屋8人が常時集まっていたのです。感染対策のために机配置を考えたり、消毒液を用意したりしていましたが、大会実行委員会はやや密だったと言わざるを得ません。


3)大会後の全体的な印象
 何をするのも初めてだったというのが、大変さを感じた理由でした。これまでの大会実行委員会から引き継いだスケジュールもあまりあてになりません(あるいはあてにならないだろうと思ってあまり参照しなかった)。いろいろ考えてもそれがいい方向に向かっているのかどうか確信を持てないまま進めることになりました。どこまで進めても、何割進んだのか確かめる術がなかったのです。

 一方、逆の印象としては、やってみればなんとかなる、ということです。これは学会事務局メンバーである私個人の話ですが、昨年はやはり初めての試みとして書面総会を実施しました。これもどこまで進めてもうまくいっているのかどうか確信を持てないまま手探りでした。結果としてはなんとかなったと感じています。今年も書面総会とさせていただきましたが、ずっと気楽に実施できました。今回のオンライン大会もよかったかどうかは微妙ですが、一応こなせたと感じています。今回大会の参加者からのお叱りは、これから多数集まるかもしれませんが、少なくとも同じ形式で次に誰かが実施するときの土台は作れたのではないでしょうか。今回大会は、例年のオンサイト大会へ参加した時のイメージにできるだけ近づけることを1つの目標としていました。しかし、オンライン開催ならオンラインに特化した開催方法も考えられるでしょう。例年通りじゃなかったというお叱りでも、オンラインらしくなかったというお叱りでもどちらでもかまいません。そういう声をいただければ、大会実行委員会に最後に残された仕事は、それらの声を整理して、次期大会以降へ引き継ぐことだと考えています。
posted by 日本鳥学会 at 08:00| 大会報告

2021年09月15日

日本鳥学会2021年度大会:標本集会へのお誘いと2019年度大会第3回標本集会報告

小林さやか(山階鳥類研究所)

今週末から開催される日本鳥学会2021年度大会で、第4回となる標本集会を企画しております。第4回へのお誘いとこれまでの復習を兼ねて、過去の集会報告を掲載いたします。

第1回「標本史研究っておもしろい―日本の鳥学を支えた人達」
http://ornithology-japan.sblo.jp/article/183846834.html
第2回「標本を作って残すってどういうこと?―実物証拠としての標本」
http://ornithology-japan.sblo.jp/article/188998989.html

皆様、ぜひお越しください↓
2021年度大会自由集会:9月17日(金)18:00〜20:00
W3:第4回「収蔵庫ってどういうところ?−標本収蔵施設の現状と問題点」

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日本鳥学会2019 年度大会自由集会報告 
第3回 収蔵庫は宝の山!―標本の収集と保存を考える―
小林さやか(山階鳥類研究所)・星野由美子(島根県立三瓶自然館サヒメル)・岩見恭子(山階鳥類研究所)・川田伸一郎(国立科学博物館)・加藤ゆき(神奈川県立生命の星・地球博物館)


 自然史標本は,生き物がその時,その場所に生息していた証拠である.安定して長く保存できる標本は,時間が経過してもなお,多くの情報を私たちにもたらしてくれる重要な研究資源である.標本の重要性は承知していながらも,管理する立場になると,増えていく標本にスペースが足りない,標本を整理するマンパワーが足りない,剥製に害虫が湧いたなど,悩みも多い.そして,これらの問題を担当者だけで抱え込んでいる場合もある.本集会は,標本の保存管理についての問題や対処方法を参加者と共有することを主目的に,3名の演者の事例を紹介した.(小林)

1.島根県立三瓶自然館の事例
―戦前の大コレクション「伊達鳥類仮剥製標本群」の困ったお話―
星野由美子

 島根県立三瓶自然館が収蔵する標本数は,動物,植物,地質など各分野で18万点以上である.これらの標本は,館内スタッフだけでなく,館外の研究者や収集家が集めて寄贈されたものも多くある.このうち鳥類は約2,200点で,うち約1,600点が,戦前に集められた仮剥製標本群「伊達コレクション」であった.
 伊達コレクションは,戦前にジャーナリストとして活躍した島根県出身の伊達源一郎氏(1874–1961)が趣味であった鳥類研究の一環で蒐集した標本である.5,000点以上あった標本は,第二次世界大戦後に接収された家屋とともに破却され,島根県安来市に疎開させたものだけが残った.そして1955年に当時の島根県知事が伊達氏より購入して本人に寄託した.その後,伊達コレクションは数回の移管を経て,1969年に島根県立博物館に保管転換され,1978年に日本産鳥類目録第5版に準拠して目録が発刊された.1991年には島根県立三瓶自然館に移管されたが,このときは整理済みとして標本の再整理などは行われなかった.
 ところが2008年に,当館の企画展でこのコレクションを展示するにあたり,1978年に作成された目録と標本ラベルのデータを照合したところ,目録と標本ラベルとの間に,かなりの違いがあることが判明した.目録に記載されたデータが標本ラベルより詳細であったり,採集日が大きく異なったりしたのである.これらは単なる誤表記では無いと考えられ,別の資料が存在していたと推測された.また,標本ラベルの様式は複数あったのに,標本1体につき1枚のラベルしかなく,過去にラベルの付け替えが行われたことが示唆された.そこで,過去の目録を作成した際の資料等を探しながら再整理をはじめたが,何回もの移管により資料は散逸しており,根拠となる資料は見つけられなかった.さらに同年代に活動していた採集者の日記等の出版物などを参考に,採集日や採集地が合致するデータを照合してみたが,該当するデータを見つけるに至っていない.
 現在も少しずつ再整理の作業を進めているが,鳥類担当職員は1名しかおらず,展示作成や解説,自然観察,野外調査などの業務もあり,標本の再整理にかけられる時間はほとんどない.業務の優先順位からも,標本の再整理は緊急性を理解されにくく,後回しになりがちである.加えて使わない資料は廃棄するなどの5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)なるものが声高らかに宣言される中で,博物資料の重要性を組織内部に説得することにも気を配らなければならなくなった.
 ほとんど利用されない学術標本に時間と労力と経費をかけることには重要性の理解を得にくいため,その価値を理解する研究者に活用していただき価値を高めていただくことも必要なことかもしれない.とはいえ種名,採集日,採集地が正しいことが前提の学術標本群.これからも多くの方のご理解,ご協力を得ながら少しずつ整理を進めていきたいと考えている.

2.標本を残すためにできること―山階鳥類研究所の取り組み―
岩見恭子

 山階鳥類研究所は国内最大の鳥類の標本数を保有し,研究に生かすべく日々模索している.山階鳥類研究所には約8万点の標本が保管されているが,現在でも毎年約600個体の冷凍鳥体と,約500点の剥製標本(2005–2018年の平均値)が寄贈,収集されている.特に,最近では個人所蔵の展示用本剥製の寄贈が増えている.これらのなかには,学術標本があまり収集されなかった1950年代以降に採集された剥製も多く,山階鳥類研究所のコレクションの中でも手薄になっている時代を埋める貴重な標本になっている場合がある.
 個人宅で鑑賞されていた剥製は損傷や,汚れが見られることもあり,修復が必要なこともある.修復の際に剥製の中を確認すると,その作り方や材料から年代を推定することができる場合もある.ラベル情報のない剥製の製作年代を推定することは,多分野の研究に利用できるようになるため,学術標本としての価値を高めることができる.また,寄贈者に了解を得た剥製については,翼を切り離すなど形状を変化させることで,より観察がしやすく,研究が行いやすい標本に作り変える工夫もしている.これらの作業は全てデータベースに記録され,修復前の状況およびその後の形状が分かるようにしている.
 近年では微量な組織サンプルから,絶滅した種の系統解析や,安定同位体比分析を用いた過去の餌分析など,標本を用いた様々な研究が行われるようになってきている.時代や地域を超えて収集された標本はまさに宝の山と言えよう.

3.無目的収集のすすめ
川田伸一郎

 博物館にとって一番大切なものは標本である.標本があるからこそ,博物館の展示は成立するし,学習活動も行える.そして研究もできる.自分のためだけではない.博物館の標本は多くの人の研究を支える資源だし,外部に貸し出して展示などに利用することもできる.国立科学博物館は日本の標本蓄積の拠点だから,僕は自分の担当である哺乳類の標本を集め続けなければならない.そのスローガンとして「3つの無」という標本収集規範を心に念じながら日々の作業に励んでいる.
 一つ,標本収集は「無目的」であれ.僕には多くの標本提供者がいるが,時に「何が必要か?」と問われる.僕は「なんでも受け入れますのでお願いします」と即答する.標本は何時どのような形で役に立つかわからない.だからなんでも大切に残しておかなければならない.例えば僕はモグラの研究者なので,モグラの死体を送ってくれるのは大歓迎だけど,それだけ集めていたら博物館の標本はモグラだらけになってしまい,僕は嬉しいけど他の人にとっては魅力を欠くものになってしまう.我々が希少種などと位置付けるようなものは多くの人にとって魅力的なものだから集めるのは当然.一方で外来種などと位置付けられるようなものは多くの人は集めようとしない.これこそ沢山収集しておけばいざという時に役に立ちそうだ.だからクロウサギだろうがマングースだろうが,僕は差別しない.人類はまだ標本の可能性を知り尽くしていない.
 一つ,標本収集は「無制限」であれ.僕がこれまでに収集してきたものにニホンカモシカの頭骨14,000点という膨大な標本群がある.「そんなに集めてどうするの?」と問う人もあるが,今も集め続けている.かのチャールズ・ダーウィン氏も述べているように,生物には変異がある.変異のパターンは個体群内の違いの他に,性・齢・地理的なものもある.例えばある地域に生息する20 歳くらいが寿命のカモシカの頭の形をちゃんと知ろうとして,個体間のばらつきを調べるのに30標本くらい必要だとしたら,30×2(性差)×20(齢変異)=1,200標本は最小限必要となる.地域間での違いを考慮するとこの数倍のものが必要だし,年齢構成にもばらつきがあって,高齢の標本は少ない.狩猟によって頭骨が破損しているものも含まれると思うと,やばい,まだまだ足りない.もっと集めなきゃ.
 一つ,標本収集は「無計画」であれ.標本の材料,すなわち動物の死との出会いは一期一会である.その時を逃しては再び出会えないかもしれない.常にそう思い続けて,即断,即動である.時には博物館で重要な展示会議がある日にそのチャンスはやってくる.しかし最初に述べたように,博物館にとって一番大切なものは標本である.だから会議の主催者は僕を標本収集の現場に送り出してくれる.そしてこの無計画な標本収集から,また新たな展示品を使用した展示計画が生まれることもあるのだ.

おわりに
 事例発表の後,意見交換の時間を設けた.参加者からは,個人宅で所有していた,採集情報がなく,ワシタカ類の翼を広げた飾り用の本剥製の扱いはどうしているのか,収集していた標本を寄贈する際に標本のリストがあった方がよいかなど,様々な意見が出された.標準的な回答をいえば,標本はできるだけ残した方がよいし,寄贈されるときに標本リストがあった方がよいのだが,ケースバイケースで考えていかなければいけないであろう.しかし,会場から発言された方も,答える私たちも所属機関の内情は話しにくく,標準的な発言にならざるを得なかった感がある.それが本集会を開催してみての課題であろう.
 標本を残すことは未来の研究を支えることである.それぞれの館で抱える問題は多く,標本を残すための環境が劇的に良くなる兆しはなかなかない.しかし,より多くの標本を残していく志を持ち続け,博物館同士が情報を共有し,互いに助け合える関係を構築していくことが大切だと考えている.本集会のようにそれぞれの情報を出し合って,共有することを続けていくことがその第一歩となるであろう.博物館関係者が集う場は他にも数多くあるが,鳥類標本だけに特化した事情もある.鳥類の専門家が集う鳥学会大会で集会を開くことで,今後も情報共有していきたいと考えている.
 最後に鳥の学校や他の集会が平行して開催されるなかで,本集会に参加いただいた65名の方々にこの場を借りてお礼申し上げる.今後も引き続き関心を寄せていただければ幸いである.(小林・岩見・加藤)


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日本鳥学会2021年度大会:標本集会へのお誘いと2018年度大会第2回標本集会報告

小林さやか(山階鳥類研究所)

今週末から開催される日本鳥学会2021年度大会の自由集会で、第4回となる標本集会を企画しております。今回は、実際に博物館で標本の管理にあたっている方々から、各館の標本収蔵庫の紹介と、標本管理の悩みをお聞きする予定です。第4回へのお誘いとこれまでの復習を兼ねて、過去の集会報告を掲載いたします。第1回「標本史研究っておもしろい ―日本の鳥学を支えた人達」はこちらをご覧ください。
http://ornithology-japan.sblo.jp/article/183846834.html

皆様、ぜひお越しください↓
2021年度大会自由集会:9月17日(金)18:00〜20:00
W3:第4回「収蔵庫ってどういうところ?−標本収蔵施設の現状と問題点」


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日本鳥学会2018年度大会自由集会報告
第2回 標本を作って残すってどういうこと?―実物証拠としての標本
加藤ゆき(神奈川県立生命の星・地球博物館)


 筑波大学で開催された2017年度大会で,「標本」をテーマに自由集会が開かれたことをご存知でしょうか?主催者は山階鳥類研究所の小林さやかさんと北海道大学植物園博物館の加藤 克さん.お二人のほかに国立科学博物館の川田伸一郎さん,山階鳥類研究所の平岡 考さんが,標本の由来や収集の歴史を,標本ラベルや文献資料を手がかりに解明していく面白さについて,ご自身たちの経験を交えながら熱く語ってくださいました.
 しかし,2 時間という限られた時間では足りるはずもなく,その後の懇親会でさらに熱く語り合ったことは言うまでもありません.そのときに,小林さんと「標本をテーマに来年度以降も自由集会を開催できればいいですね」,「いいですね.やりましょう!」と“約束”したことにより実現したのが,今大会の自由集会「標本を作って残すってどういうこと? ―実物証拠として標本」です.
 私自身は県立の自然史博物館で鳥類担当学芸員として,標本の収集や管理,調査研究,展示や講座等の普及活動を行っています.標本収集といっても標本を購入するのではなく,検体を動物園や鳥獣保護施設等から入手し,検体の状態・博物館の収蔵状況や使用目的に合わせ,自分たちで加工して標本にします.このような日常業務をもとに自由集会のテーマを「標本を作って残すこと」としました.1回目の自由集会は標本史にまつわる演題でしたが,2 回目は「標本とはどのように作り保管するのか?」という原点に戻ろうと考えたのです.小林さんに2 回目の自由集会開催の旨を伝え,演者探しを始めました.
 真っ先に思い浮かんだのが,山階鳥類研究所で標本収集や作製,管理をされている岩見恭子さんです.鳥類を専門とする研究機関である山階鳥類研究所には,はく製や骨格,巣,卵,液浸標本など約7万点の標本が収蔵されています.学術的に貴重な標本も多く,すでに絶滅した鳥や希少な鳥の標本,種の記載の基準となったタイプ標本も含まれています.このような施設で研究員として積極的に標本を収集,作製されている現状をお話しいただきたいとお願いしたところ,ご快諾いただけました.
 次に浮かんだのが,標本士の相川 稔さんです.私の働く神奈川県立生命の星・地球博物館(地球博と略す)の鳥獣分野では標本作製のお手伝いをボランティアにお願いしています.その指導者であり,学芸員のよき相談相手でもある相川さんは,高校卒業後,ドイツの専門学校で標本作製の技術をまなび,ドイツの博物館で標本士として働いていた方です.「標本作製の技術を日本にも」と帰国され,博物館で標本を作ることにこだわりを持ち活動を続けてきました.相川さんにはヨーロッパでの標本作製の現状をお話いただきたいとお願いし,こちらもご快諾いただけました.
 研究者,標本士とそろい,あとは博物館施設の職員や個人として取り組み事例を紹介していただける方を考えました.幸いなことに開催地である新潟県には,地球博に縁のある人材がそろっています.新潟県愛鳥センターにお勤めの高澤綾子さんと佐渡島在住の岡久佳奈さんです.高澤さんは地球博に8ヶ月ほど非常勤職員として勤務し,その間,鳥類標本の作製・管理を担当していただきました.新潟県に転居後は愛鳥センターに勤め,展示施設や講座などで使う本はく製や翼標本などを作製している方です.岡久さんは鳥獣の標本作製に興味をもち,地球博のボランティアとして活動しました.佐渡島に転居後は,地元で拾得される鳥獣検体を標本として残すべく個人で活動されている方です.おふたりとも二つ返事で引き受けてくださいました.
 さて,準備が整ったものの要旨を出す段になり急に不安になりました.参加者が集まるだろうか?自由集会は夕方に設定されることが多く時間が限られることから,複数のテーマが同時に開催されます.例年開催されているガンカモ類やカワウなどはリピーターが多く,また人気の集会と重なると参加者が少なくなります.そこで相川さんに願いし“実演”を行うことにしました.
 実は,前大会でも標本作製の実演を主とした自由集会が企画されていましたが,主催者都合により中止となりました.中止を惜しむ声が各所から聞かれていたことを思い出し,実演を入れることにしました.学会会場では数名から参加表明があり,「実演はいつやるの?」と聞く方もいて標本作製への関心の高さが伺えました.
 当日です.はじめに,私が集会の趣旨説明を行いました.今回標本として扱うのは,個人宅などにある装飾を目的として作られたはく製ではなく,研究機関や博物館施設,個人などが研究や普及のために収集,保管している標本であること,標本にはいろいろな種類があること,自然史標本の重要性などを紹介し,岩見さんにバトンタッチしました.岩見さんは「学術標本を収集する意義 ―山階鳥類研究所での取り組み」と題し,研究所の概要や普段の標本作製の様子,収蔵状況を紹介し,学術標本がもつ重要性と保管し続ける意義についてお話いただきました.標本のリメイクや標本作製に関するデータベース,人材育成の取り組みについての紹介もあり,非常に興味深い内容でした.データベースは細かく項目が設定されており,採集データはもちろんのこと,検体の状態や製作段階,作製された標本種,配架場所などが一目で分かるようになっています.参加者は人材育成のための標本作製講習に注目していました.専門的な知識に基づいた講習は確かに魅力的です.
 次いで相川さんからは「博物館標本の長期保存と幅広い活用を目指して」と題し,ドイツの博物館での標本士としての仕事紹介の後,標本士が行った下処理時の薬剤の違いによる虫害の影響についての発表がありました.かなり大胆な実験で,まったく薬剤を使用しないものから,現在主流で使用されている毒性の弱い薬剤を使ったもの,使用禁止になっている毒性の強い薬剤を使ったものなど,薬剤の種類や組み合わせを代えて作った標本を複数用意し,1 年間屋外に置いて虫による食害を調べたという内容です.その結果を元に,標本を残すための使用薬剤の重要性についてお話いただきました.
 高澤さんからは「「使うこと」を前提に作る標本」と題し,愛鳥センターでの取り組みを紹介いただきました.新発田市にある愛鳥センターは傷病鳥獣の保護・治療施設で,広くはありませんが展示室があり,探鳥会などの普及活動も行っています.高澤さんはそこで活用することを前提とした標本を作っており,本はく製だけではなく脚だけの標本や翼標本など,触ることが出来る標本が多いのが特徴的でした.翼標本は展示だけではなく,探鳥会の説明資料や学校への貸し出し教材としても活用されており,人気の高さが伺えました.愛鳥センターには標本を収蔵できる設備はなく,また標本作製の人材も非常勤職員である高澤さんだけで,継続性に不安があるとのことでした.
 岡久さんからは「動物を調べ 標本を作る 人材の育成計画 in 佐渡島」と題し,佐渡島でのご自身の取り組みについてお話いただきました.佐渡島にはサドモグラやサドカケスといった固有種・固有亜種が生息し,再導入事業により放鳥されたトキが身近な環境で見られるなど,多様な自然環境がみられます.しかし,島内には自然史を主とした博物館やビジターセンターなどの研究・情報発信施設がなく,島民が島の生物に慣れ親しむ機会はほとんどないようです.岡久さんは,佐渡をフィールドに研究をしている専門家を講師に迎え講演会や講座を開催し,簡単な生態調査を行ったり動物標本を作製したりすることにより,島内の身近な生き物の面白さや希少性に気付くきっかけ作りをしています.悩みは冷凍庫のスペースを大きく占める哺乳類の処理を優先するので,鳥類にはなかなか手をつけられないとのことでした.研究者を巻き込みながら標本作製の人材を育てていくという取り組みはユニークで,佐渡島の動物の記録を残すという点でも重要です.継続して事業をすすめて欲しいと感じました.
 最後に地球博の哺乳類担当学芸員の広谷浩子から神奈川県で計画している標本作製にかかる博物館施設の連携について紹介がありました.全講演を通して,標本を後世に残す重要性が確認される一方,人材や設備についての問題が浮き彫りになりました.
 いよいよ相川さんによる標本作製の実演です.短時間で出来るよう,あらかじめ胴部をぬいて下処理をしたアカショウビンを教材としました.取り除いた胴部には木材を糸状に削った木毛(もくもう)をまるめて胴体に代わるものを作り,針金を使って仮はく製へと仕上げていきました.今回は残念ながら途中で時間切れとなり,羽を整える仕上げまではできませんでしたが,30分ほどの実演は参加者の注目を浴び,多くの方が動画を撮影していました.
 参加者は岩見さんのお話が始まる段階で52人,最後の実演が始まるときには60人を越えており,鳥学に関わる人たちの標本作製に対する関心の高さが伺えました.実演終了後,数名の方から地球博で鳥獣標本の作製に携わりたい,という希望も寄せられました.採集データ等の情報を持った標本は実物証拠として重要であり,後世に残していくべき“自然財”ともいえるものです.鳥学関係者の中には,標本を研究材料として活用される方も多いはずです.このような活用のためには,専門知識に基づいた標本作製ができる人材と適切な環境での保管が重要だと再認識をした自由集会でした.
 最後になりましたが,今回の自由集会に協力いただいた演者のみなさま,時間ぎりぎりまで会場を使わせてくださった2018年度大会事務局のみなさま,参加してくださったみなさまにお礼申し上げます.本自由集会はJSPS科研費JP17K01219 の研究の一環として開催しました.


posted by 日本鳥学会 at 20:53| 大会報告

2020年07月04日

日本鳥学会2019年度大会自由集会報告:小笠原で一番ヤバイ鳥:オガサワラカワラヒワを絶滅の淵から救う

南波興之1*・川上和人2・小田谷嘉弥3
1日本森林技術協会
2森林総合研究所
3我孫子市鳥の博物館
*t-namba@jafta.or.jp

はじめに
 カワラヒワChloris sinicaの亜種オガサワラカワラヒワC. sinica kittlitziは,小笠原諸島の固有亜種である.本亜種は,近年個体数が急激に減少しており,何らかの保全対策を打たないと絶滅する恐れがあるが,その対策はまだ十分に行われていない.さらにこの状況が一般に認知されているとは言い難い.そこで,オガサワラカワラヒワの持つ価値や個体群の現状,対策の必要性を日本鳥学会員と共有することを目的として,自由集会を開催した.以下,当日の発表内容を概説する.

話題1:オガサワラカワラヒワの絶望と希望
川上和人(森林総合研究所)

 川上は小笠原の鳥類の概要とオガサワラカワラヒワの分類,生態,個体数と減少の要因について説明した.オガサワラカワラヒワは,現在は母島列島の属島と火山列島の南硫黄島でのみ繁殖しており,各列島内での島間移動がある.個体数は,母島列島で100-300羽の間と推定されている.本亜種は主な食物資源として草本と木本の種子の両方を利用している.形態としては,大陸や本州に生息している他の亜種と比べて,体サイズが小さいわりに嘴が大きい傾向がある.遺伝的に本州の亜種カワラヒワと大きく離れていることを概説し,後続の発表者へと話を繋いだ.

話題2:オガサワラカワラヒワの系統的位置と分類学的再検討
齋藤武馬(山階鳥類研究所)

 齋藤は大陸と周辺島嶼,日本に生息するカワラヒワの8亜種について複数の遺伝マーカーを用いて分子系統解析を行った.その結果,オガサワラカワラヒワのグループとそれ以外の亜種のグループに分かれ,この2つのグループが分岐したのは,約106万年前に遡ることも分かった.この分岐年代はカワラヒワの近縁種である,キバラカワラヒワC. spinoidesとズグロカワラヒワC. ambigua間の分岐年代と比べて,約1.8倍も古いことも明らかとなった.
 さらに,上記の亜種間の形態学的差異についても調べ,亜種オオカワラヒワC. s. kawarahibaが最も体サイズが大きい一方で,オガサワラカワラヒワは他のどの亜種と比べても一番小さな体に一番長い嘴を持つことが分かった.これらの結果から,オガサワラカワラヒワは亜種ではなく独立種とすべきと結論された.なお,この内容は後述の通り2020年5月に論文として公表された.

話題3:オガサワラカワラヒワ個体群の現状と存続可能性分析
南波興之(日本森林技術協会)

 南波は林野庁が行なっている小笠原固有森林生態系保全・修復等事業と小笠原諸島希少鳥類保護管理対策調査の概要について説明した.その事業で林野庁が収集していたオガサワラカワラヒワのモニタリングデータをとりまとめたところ,過去20年で年変動はあるものの,本亜種の観察個体数は減少を続けており,近年5年間では,母島で観察される事例がかなり限られている現状を説明した.また,一連のモニタリング調査で推測された野生下の寿命やクラッチサイズ等の生態的な情報を用いて存続可能性分析を行った.その結果,現状の個体数では,いつ絶滅してもおかしくない状況であることが明らかになった.そして個体群減少の要因を分析すると,外来ネズミ類による本亜種の卵や雛の捕食が強く影響している可能性を示唆し,母島属島の外来ネズミ類の対策の必要性を示した.

話題4:オガサワラカワラヒワとクマネズミ,ドブネズミ,トクサバモクマオウの4者関係
川口大朗(横浜国立大学)

 川口は所用で東京の会場に来ることができなかったため,Skypeによって父島から発表した.現地調査および操作実験により,外来ネズミ類によるオガサワラカワラヒワの樹上の巣における捕食可能性が,クマネズミRattus rattusが優占する母島とドブネズミR. norvegicusが優占する母島属島の向島では異なることを示唆した.この違いは,クマネズミは木登りが得意で,ドブネズミは木登りがあまり得意でないという外来ネズミの生態的特徴を反映していると考えられた.すなわち,木登りが得意なクマネズミが生息する母島では,オガサワラカワラヒワの巣のから卵や雛が捕食され,繁殖がほとんど成功せず,一方で向島では,ドブネズミが登ることのできない通直な樹形をしている外来樹のトクサバモクマオウCasuarina equisetifolia(以下モクマオウ)で繁殖成功している可能性を操作実験で示し,近年の観察ではモクマオウでのみで繁殖が確認されていることを報告した.ただし,モクマオウは小笠原諸島において侵略的外来種であり,生態系保全上の障害となっている.オガサワラカワラヒワが外来のネズミによって絶滅の危機に晒されながら,一方で外来のモクマオウに個体群の維持を依存しているといった,島嶼生態系の微妙な生態系バランスについて解説した.


 質疑では,個体群の減少に本当にネズミが関わっているのか,ほかの原因はないのか,また,母島属島でネズミを駆除した場合のリスク等について質問があった.川口と共同研究者の川上がそれらの質問に対して,現状明らかになっている知見から外来ネズミ類が大きい減少要因であることがほぼ間違いないことを回答し,外来ネズミ対策の必要性を訴えた.一方で,母島属島のドブネズミを駆除することでニッチの空きが生じ,新たにクマネズミが母島属島に侵入する可能性を解説し,モニタリングの必要性を論じた.さらにネズミ駆除以外の本亜種の保護の方法について質問があり,今後,域内・域外保全を進めるためには環境省による希少野生動植物種の保護増殖委員会の立ち上げも必要であることが議論された.

 最後に自由集会参加者には,オガサワラカワラヒワの保全活動普及を目的として川口が作成したステッカーが配布された.ステッカーのデザインは,切り絵をベースにオガサワラカワラヒワの特徴である嘴を大きめにした.さらに黄色い丸は,繁殖地の島の数(向島,姉島,妹島,姪島,平島,南硫黄島)を示しており,今後保全活動が進み,丸の数(繁殖する島数)が増えることを願いデザインされている.ステッカーは,100枚用意して94枚が配布されたため,途中で会場を中座した参加者を含めると100名以上参加していただいた計算になった.
オガサワラカワラヒワ.jpg

 総合討論の時間を設けていたが,川口の発表に端を発する活発な議論により,終了時間となり閉会した.

大会終了後の現在
 齋藤は,発表した研究成果をまとめ,「Cryptic Speciation of the Oriental Greenfinch Chloris sinica on Oceanic Islands」という表題で論文を発表した.その論文中で分類を再検討し,オガサワラカワラヒワは他の亜種と比べて進化的に独自の特徴を持つことから,カワラヒワと別種の独立種オガサワラカワラヒワ (英名Ogasawara Greenfinch,学名Chloris kittlitzi)とすることを提唱した.論文は,オープンアクセスとなっているため,誰でもインターネットから閲覧することができる(https://doi.org/10.2108/zs190111).なお,論文を掲載したZoological Science誌は,この論文の掲載号の表紙にオガサワラカワラヒワの写真を採用した(https://bioone.org/journals/zoological-science/volume-37/issue-3).

オガサワラカワラヒワ2.jpg
Zoological Science Vol.37 NO.3号に掲載されたオガサワラカワラヒワの写真.小笠原諸島向島で向哲嗣 氏撮影.

 さらに齋藤と川上は,「日本固有の鳥が1種増える!? ―海洋島で独自に進化を遂げた希少種オガサワラカワラヒワ―」という表題で,それぞれ山階鳥研と森林総研から共同プレスリリースを行った.
http://www.yamashina.or.jp/hp/p_release/images/20200527_prelease.pdf
https://www.ffpri.affrc.go.jp/press/2020/20200527/index.html

 小笠原諸島に関わる研究者間ではこの鳥が絶滅するかもしれないという危機感が共有されていた.今回の自由集会や論文等によって全国の鳥類研究者,そして社会一般にこの問題が共有されることを願ってやまない.
posted by 日本鳥学会 at 17:19| 大会報告