2017年11月21日

鳥の学校「鳥類研究のためのDNAバーコーディング」に参加して

水村春香

 DNAバーコーディングは羽一枚、肉片一かけら、血液一滴からその持ち主を特定できる、夢のような種同定方法です。私は猛禽類のペリットや食痕からその食性を調べることがあるので、このDNAによる方法が使えれば、より精度高く餌の種同定ができるのではないかと考え、今回の鳥の学校に参加させていただきました。
 講習では講師の方々の説明を聞きながら、用意された謎の肉片の種同定を試みました。タンパク質の溶解、PCR、電気泳動、シーケンス反応、解析配列の決定を経て、世界中の生物のDNA配列がデータベース化されているBOLDシステムを用いて種同定するという一連の過程を体感することができました。実験過程は上記のように書くと短く感じられますが、これらの中にはさらに細かい過程がいくつもあり、DNA解析の苦労を実感しました。機械の問題で配列の解読ができないアクシデントもありましたが、用意されていた配列から無事に種同定できました。
 各種反応の待ち時間にはDNAバーコーディングの原理と応用、BOLDシステムの使い方を勉強しました。DNAバーコーディングにより形態では判別が難しい隠蔽種が発見され、バードストライクにおいては衝突を起こした種を血痕から同定し対策に役立てられているそうです。また、糞中の種子から種子散布する種を特定できるなど、様々な分野でこの技術が応用されていることがわかりました。そして全世界の鳥類のDNA解析を目標とし、世界中の研究者、研究機関が協力してBOLDシステムに標本とDNA配列を登録していることも初めて知りました。現在鳥類では4261種がBOLDシステムに登録されているそうです。今後さらに充実し、多様な分野で応用されていくのではないかと思います。
 DNAバーコーディングは設備や費用の問題もあり、誰でも今すぐに解析できるというわけではないと思います。しかしこの講習を受けて、手順を踏めば誰でも解析できること、そして何より分析の現場を体感することができました。時間の制約もあった中、数多くの実験内容をわかりやすく解説してくださった講師のみなさま、そして企画していただいた方々にこの場を借りて感謝申し上げます。

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各自のパソコンでBOLDシステムを参照

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「未知の肉片」の種同定の答え合わせ
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鳥の学校2017:DNAバーコーディング

黒沢令子

 2017年の鳥の学校は、筑波大学開催の鳥学会大会とシンポジウムが終わった9月18日から2日間、国立科学博物館の実験室で実習が行なわれた。受講生16人と聴講生6人に対して、講師4人と企画委員会から1人がついてくれるという恵まれた環境だった。
 まず、講師の齋藤さんから原理の説明があり、種名のわからない生物の体部からDNAを抽出して、種の同定をすることで、バンディングを含めて鳥類学、バードストライク対策、種子散布、また多くの人間活動の幅広い分野で応用が利く手法であるという話があった。
 実習では受講生は2つのテーブルに分かれて2〜4人のチームを組み、サンプルからPCR、DNAの抽出、シークエンシング、完成した配列をBOLD systemsを使って種同定をする工程を行なった。
 受講生は2日目の昼食時に自己紹介をした。その後親睦を図る時間をとる予定だったが、自己紹介が熱心だったので時間が満ちるほどだった。年齢層は思ったよりも幅が広く、若い人は大学2年生から、年配の人は退職後、野外研究を続けている人まで、老若男女がいた。目的も野外で拾った羽を種同定したい、糞や胃内容物から食物同定したい、個体識別をしたい等々、多岐にわたっていた。
 実験の各過程でうまくいかない場合もあったが、講師陣が事前にそうした事態を見越して必要な資料を準備しておいてくれたので、最後まで作業を続けることができた。通常なら、3日ほどかかる工程を、2日間の計16時間で駆け足で行なったことになるが、配布資料が充実していたので、ついていくことができた。
 個人的に役に立ったと思う点は、分子生物学の手法について全く経験がないと、翻訳など一般の人向けに説明するときにうまく伝えられないが、今回のように一通りの過程を実物に触れて体験したことで、自信が付いた。今後、新しい用語や技術に出会ったときにも、この経験を元にすれば、自力で勉強することができるのではないかと思う。
 一方、機材や試薬が高価なので、一般人が簡単に自力で実験を行なえるものではないこともわかった。少数のサンプルならば、外注するという方法があることも学んだ。
 年齢がいってから新しい技術に接したわけだが、実体験できたことで、たいそうな充実感を覚えている。企画・主催してくれた鳥学会企画委員会、共催と場所提供をしてくれた国立科学博物館、および講師の皆さまにくれぐれもお礼を申し上げたい。

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慣れないサンプル操作に真剣

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シーケンサーの設定を見守っています

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鳥の学校報告(2017年):第9回テーマ別講習会「鳥類研究のためのDNAバーコーディング」

企画委員会(文責:吉田保志子)

 鳥の学校−テーマ別講習会−では、鳥学会員および会員外の専門家を講師として迎え、会員のレベルアップに役立つ講演や実習を行っています。第9回は「鳥類研究のためのDNAバーコーディング」をテーマとして、2017年度大会の最終日午後から翌日にかけての1日半の日程で、国立科学博物館筑波研究施設で行われました(9月18-19日)。講師は、齋藤武馬(山階鳥研)、杉田典正(国立科博)、坂本大地(九大)、西海功(国立科博)の四氏に担当いただき、国立科学博物館との共催として実施されました。申込受付開始後まもなく16名の募集定員が一杯になってしまいましたが、実験機器の容量等の関係から増員はできないため、定員を超えた6名には聴講枠で参加していただき、合計22名が受講しました。
 通常であれば3日程度かかるDNA実験の操作手順を1日半にまとめるため、綿密な講習資料が用意され、実験操作がうまく進まなかった場合にも一通りの手順を体験できるように十分な準備がされていました。事前アンケートをもとに、DNA実験が初めての人と少し経験がある人を組み合わせたグループ編成がなされる等、よく練られた内容の濃い講習は、受講者にとって大変貴重な経験になったと思います。
 講習に使用された機器は実際に講師の方々が普段の研究に使用されているものであるとともに、受講者の様々な質問には複数の講師から即応の回答があり、DNAバーコーディング研究の最先端に触れる機会となっていました。実験器具の準備や機械の調整、施設の利用に関わる共催の手続き等、様々な手配をしてくださった講師の皆様、たいへんありがとうございました。
 受講者からは、概念のみで学習していたことを、今回の講習で実際の操作として体験でき、より深い理解につながった、近隣にある施設を利用して自分の研究にもDNAバーコーディングを取り入れることが出来そうだ、といった沢山の感想が寄せられました。
 講師の皆様から、当日の配付資料および参考資料を公開用に提供いただきました(資料[1][2][3][4][5][6]。今回参加されなかった方も、これらの資料からDNAバーコーディングに関する知識を得てください。
 鳥の学校−テーマ別講習会−は、今後も大会に接続した日程で、さまざまなテーマで開催していきます。案内は、ホームページや学会誌に掲載します。

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国立科博筑波研究施設の実験室で

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サンプルを遠心分離機にセット

 受講者のなかからお二人に参加レポートをお願いしました。ご自分の仕事や研究との関わり、ためになった点などについて詳しく書いてくださいました。お二人のレポートから、当日の様子を感じていただけると思います。

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2017年10月16日

日本鳥学会ポスター賞を受賞した感想

2017年10月16日
西條未来(総研大)

ポスター賞を受賞できてとても嬉しく思います。
私はまだまだ鳥に関して知らないことが多いので、今回の学会ではたくさんのアドバイスをいただけて、とても勉強になりました。来年の発表に活かしたいと思っています。ありがとうございました。
初めての鳥学会での受賞なので、来年の発表にプレッシャーを感じますが、来年以降も面白い成果を残せるように頑張ります。
副賞として、学会Tシャツとmont-bellのマウンテンパーカーをいただきました!ありがとうございます!去年のポスター賞受賞者で研究室の先輩でもある加藤さんと、うっかり色が被ってしまいました。

ポスターの概略
チドリ目の多くは、河原や砂浜などの開けたところで、地面に巣を作ります。そのため、チドリ目の雛や卵は強い捕食圧に晒されることになります。親鳥は雛や卵を守るために、様々な対捕食者行動を進化させてきました。
チドリ目の対捕食者行動は、大きく2つに分けることができます。1つ目は、モビングなど直接捕食者を攻撃する攻撃行動です。2つ目は、擬傷行動など、捕食者の注意を引き付けるはぐらかし行動です。多くの種は攻撃行動、はぐらかし行動のどちらかの行動をとります。しかし、行動どちらの行動を行うか、その生態学的・進化的な決定要因は明らかになっていませんでした。
本研究では、チドリ目の対捕食者行動の決定要因について、文献調査と系統種間比較を用いて、以下の点を明らかにしました。

@ 体サイズ
体サイズが大きい種は攻撃行動、小さい種ははぐらかし行動をとる種が多いことが分かりました。これは、体サイズが大きい種は卵、雛の防衛成功率が高いが、小さい種は防衛成功率が低く、怪我をする可能性があるためだと考えられます。はぐらかし行動は捕食者との距離が保てるので、攻撃行動に比べて安全であると考えられます。

A コロニー性
コロニー性の種は攻撃行動をとり、はぐらかし行動をとらなくなるような進化的推移があることがわかりました。これは、コロニー性の種は集団でモビングが出来るので、効率的に捕食者に攻撃ができるためだと考えられます。

B 営巣場所
樹上・崖の上に巣を作る種は、攻撃もはぐらかしもほとんどしません。樹上や崖は利用できる空間が限られていますが、地上に比べて捕食圧は低いと考えられます。そのため、樹上や崖に営巣すること自体が一つの対捕食者行動になっていると考えられます。

本研究では、チドリ目の対捕食者行動の種間差を生み出す生態学的・進化的な決定要因について明らかにしました。今後はフィールドに出て、行動観察から新しい発見をしたいと思っています。
来年もよろしくお願いします!

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日本鳥学会ポスター賞を受賞して

2017年10月16日
向井喜果(新潟大)

 私は鳥の研究を始めて6年目になりますが、実は日本鳥学会に参加するのはこれで2度目だったりします。ポスター発表のコアタイムでは、研究を聞きに来てくださった方々と議論しているうちに楽しくなってきて、ポスター賞のこともすっかり忘れて話をしていましたが、審査委員の方が現れてポスター賞受賞とのこと、びっくりしました。自身の研究を評価していただけてとても嬉しく光栄に思うとともに、ポスター賞受賞に恥じないように、これからも日々研究に邁進していかなくてはと身を引き締める思いです。最後に、現地調査や実験などにご指導・ご協力していただいた多くの方々にこの場を借りて御礼を申し上げます。

ポスターの概略
 希少種の生息地保全を行う上で、対象種がなにをどのくらい食べているかといった食性情報は必要不可欠となっています。従来の食性解析では、直接観察や胃内容物分析といった形態学的な手法が行われてきましたが、餌内容の大半を不明種が占めていたり、観察者によるバイアスがかかったりといった問題点が挙げられていました。これらの問題を解決するため、近年、対象種の糞に含まれるDNA情報を基に餌種を特定するDNAバーコーディング法という分子学的手法が注目を集めています。しかし、DNAバーコーディング法のみでは植食性動物の餌となっている植物の葉や実などの部位のどこをどのくらい食べているかを特定することが難しいです。そこで、本研究では、準絶滅危惧種オオヒシクイAnser fabalis middendorffiiがなにをどのくらい食べているのか明らかにするため、DNAバーコーディング法によって餌種の特定を行い、さらに特定された餌植物について部位に分けて餌構成割合を炭素・窒素安定同位体比分析によって評価しました。これまで国内で報告されていなかった種を含む60種の餌植物が検出されるとともに、主要餌植物の各部位の炭素・窒素安定同位体比が有意に異なっていたため、餌植物の部位を含めたオオヒシクイの食物構成割合が明らかになりました。

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2017年09月26日

第二回日本鳥学会ポスター賞 向井さんと西條さんが受賞しました

日本鳥学会企画委員会
佐藤望

 若手の独創的な研究を推奨する目的で設立された日本鳥学会ポスター賞。今年は西條未来さん(生態・行動分野)と向井喜果さん(保全・形態・遺伝・生理・その他分野)が受賞しました。おめでとうございます。
 ポスター賞は昨年より設置された新しい賞ですが、昨年に引き続き今年も40名近くの応募がありました。受賞者はもちろんですが、それ以外にも目の引くポスターがたくさんあり、審査員で議論に議論を重ねて賞を決定しました。
 ポスター賞は30歳を超えるまで何度でも挑戦できます。今回、応募した皆さんには来年も是非、挑戦してもらいたいと思います。残念ながらポスター賞を受賞したお二人は応募する事ができませんが、今後は後輩達のお手本となるような研究・発表を期待しています。
最後となりましたが、ポスター賞の審査を担当して頂いた6名の方、記念品をご提供頂いた株式会社モンベル、大会実行委員にこの場をお借りして御礼申し上げます。

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生態・行動分野の受賞者の西條未来さん(総研大)と西海功学会長

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保全・形態・遺伝・生理・その他分野の受賞者の向井喜果さん(新潟大)と西海功学会長
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2017年09月11日

昨年度黒田賞をいただいて

2017年9月11日
北海道大学水産科学院
風間健太郎


昨年名誉ある黒田賞を受賞いたしましたこと、大変うれしく思います。受賞からおよそ一年が経ってしまいましたが、関係者のみなさまに改めてお礼申し上げます。今年の受賞者は長谷川克さんに決定し(http://ornithology.jp/iinkai/kikin/prizes.html#kuroda)、来週に迫った鳥学会(9/17)で受賞講演があります。拝聴するのが今から楽しみです。

さて、私の受賞理由を拝見する限り、私がこのような立派な賞を受賞できたのは、短い研究経歴の中で行動・生理といった基礎分野から生態系サービスや保全といった応用分野に至るまでの幅広いテーマに関わってきたことを、多少なりとも評価していただいたからだと思います。

昨年大会の受賞講演でも述べた通り、私がこのような多様なテーマの研究を展開してきた理由は決してポジティブなものだけではありません。研究テーマ転換の主たる理由は、雇用問題にありました。

私は大学院博士課程までは一貫してウミネコの行動・生理生態学的研究を行っていましたが、博士号取得後しばらくの間は無給の研究生として過ごしました。その後、名城大学の研究プロジェクトにポスドクとして雇用していただいたのですが、そのプロジェクトのテーマは「里山の物質循環と環境調和型農業」という応用研究であり、私のそれまでの基礎ど真ん中の研究とは大きくかけ離れていました。新たな知識や技術習得までには多くの時間を要するため、研究テーマの大きな転換はともすれば精神的にも大きな負担となります。それでもほかに選択肢のなかった私は、なかば仕方なしにこの研究プロジェクトに従事することになりました。

しかし私の場合、性格がひねくれていたおかげもあり、当初戸惑いばかりだった新規研究プロジェクトへの挑戦も、(周囲からの心配や同情をよそに)気づけば好機ととらえていました。結果的には、このプロジェクトのおかげで安定同位体分析手法を習得でき、鳥類の生態系機能や生態系サービス研究への着想に至りました。このように、窮地として訪れた研究テーマの大きな転換も、その後の多様な研究への展開につながる貴重な機会となったため、今ではありがたかったと思っています。

鳥学会でもたびたび議論されている通り(http://ornithology-japan.sblo.jp/article/172705042.html)、若手研究者の雇用問題は深刻です。一部のきわめて優秀な人を除けば、一貫した研究テーマに長く従事することはもちろん、類似するテーマの短期雇用にありつくことさえ難しくなって来ています。私と同様に、早い段階で研究テーマの大きな転換を強いられる若手も多くなっていることと思います。このような状況においては、研究テーマの転換を前向きにとらえることも大切かもしれません。

もっとも、こうした考え方には賛否あるでしょう。鳥学通信のシリーズ「鳥に関わる職に就く」においても、研究者としてのあり方・考え方について濱尾章二さんが「一芸を伸ばす」ことの重要性について大変説得力のある文章を掲載されています(http://ornithology-japan.sblo.jp/article/174774854.html)。研究者の価値は、高度に研ぎ澄まされた専門性にほかなりませんから、濱尾さんの文章には深く賛同します。「一芸を伸ばす」ことの妨げにもなってしまう頻繁な研究テーマの転換は、研究者としてはもちろん避けたいものです。

私の場合、「一芸を伸ばす」とは少し異なりますが、短期雇用の研究員を渡り歩く中でも一貫して継続してきたことがいくつかあります。その一つが学生時代から継続して来た利尻島でのフィールド研究に毎年通うことです。私はこれまで、どんな雇用条件の下でも(時に有休を使って)利尻島に毎年必ず通い続け、最低限の野外データをとってきました。そうしたおかげで、どのような研究テーマにおいても毎年得てきたウミネコの基礎生態や生活史に関するデータを活用し、常に中長期的な視点を盛り込みながら研究を展開することができました。短期間な成果が求められるプロジェクトに従事しつつも、自身の研究哲学やスタイルを最低限維持する必要はあるかもしれません。

ところで、今この文章を書いている私の現在の雇用期間も残り半年になり、公募書類と向き合う日々が続いています。半年後、私は研究者としてこの業界に残っていられるでしょうか?この記事では窮地を前向きにとらえることの大切さを偉そうに述べてきた私ですが、まもなく(人生何度目かの)無職という最大の窮地を前向きにとらえるほどの度量はもちろん持ち合わせていません。胃薬が手放せない日々はまだ続きそうです。

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最後は気楽な話題で終わりましょう。昨年の鳥学会では受賞祝賀会を開催していただき、なんと70名を越える方々にご参加いただきました(写真)。本当に多くの方々に祝福していただき、参加者の皆様にはこの場を借りて改めてお礼申し上げます。(私の人望がないことを隠すため、いくつかの自由集会の合同懇親会を兼ねて参加者を水増ししていたことは内緒です。)
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