2020年07月04日

日本鳥学会2019年度大会自由集会報告:小笠原で一番ヤバイ鳥:オガサワラカワラヒワを絶滅の淵から救う

南波興之1*・川上和人2・小田谷嘉弥3
1日本森林技術協会
2森林総合研究所
3我孫子市鳥の博物館
*t-namba@jafta.or.jp

はじめに
 カワラヒワChloris sinicaの亜種オガサワラカワラヒワC. sinica kittlitziは,小笠原諸島の固有亜種である.本亜種は,近年個体数が急激に減少しており,何らかの保全対策を打たないと絶滅する恐れがあるが,その対策はまだ十分に行われていない.さらにこの状況が一般に認知されているとは言い難い.そこで,オガサワラカワラヒワの持つ価値や個体群の現状,対策の必要性を日本鳥学会員と共有することを目的として,自由集会を開催した.以下,当日の発表内容を概説する.

話題1:オガサワラカワラヒワの絶望と希望
川上和人(森林総合研究所)

 川上は小笠原の鳥類の概要とオガサワラカワラヒワの分類,生態,個体数と減少の要因について説明した.オガサワラカワラヒワは,現在は母島列島の属島と火山列島の南硫黄島でのみ繁殖しており,各列島内での島間移動がある.個体数は,母島列島で100-300羽の間と推定されている.本亜種は主な食物資源として草本と木本の種子の両方を利用している.形態としては,大陸や本州に生息している他の亜種と比べて,体サイズが小さいわりに嘴が大きい傾向がある.遺伝的に本州の亜種カワラヒワと大きく離れていることを概説し,後続の発表者へと話を繋いだ.

話題2:オガサワラカワラヒワの系統的位置と分類学的再検討
齋藤武馬(山階鳥類研究所)

 齋藤は大陸と周辺島嶼,日本に生息するカワラヒワの8亜種について複数の遺伝マーカーを用いて分子系統解析を行った.その結果,オガサワラカワラヒワのグループとそれ以外の亜種のグループに分かれ,この2つのグループが分岐したのは,約106万年前に遡ることも分かった.この分岐年代はカワラヒワの近縁種である,キバラカワラヒワC. spinoidesとズグロカワラヒワC. ambigua間の分岐年代と比べて,約1.8倍も古いことも明らかとなった.
 さらに,上記の亜種間の形態学的差異についても調べ,亜種オオカワラヒワC. s. kawarahibaが最も体サイズが大きい一方で,オガサワラカワラヒワは他のどの亜種と比べても一番小さな体に一番長い嘴を持つことが分かった.これらの結果から,オガサワラカワラヒワは亜種ではなく独立種とすべきと結論された.なお,この内容は後述の通り2020年5月に論文として公表された.

話題3:オガサワラカワラヒワ個体群の現状と存続可能性分析
南波興之(日本森林技術協会)

 南波は林野庁が行なっている小笠原固有森林生態系保全・修復等事業と小笠原諸島希少鳥類保護管理対策調査の概要について説明した.その事業で林野庁が収集していたオガサワラカワラヒワのモニタリングデータをとりまとめたところ,過去20年で年変動はあるものの,本亜種の観察個体数は減少を続けており,近年5年間では,母島で観察される事例がかなり限られている現状を説明した.また,一連のモニタリング調査で推測された野生下の寿命やクラッチサイズ等の生態的な情報を用いて存続可能性分析を行った.その結果,現状の個体数では,いつ絶滅してもおかしくない状況であることが明らかになった.そして個体群減少の要因を分析すると,外来ネズミ類による本亜種の卵や雛の捕食が強く影響している可能性を示唆し,母島属島の外来ネズミ類の対策の必要性を示した.

話題4:オガサワラカワラヒワとクマネズミ,ドブネズミ,トクサバモクマオウの4者関係
川口大朗(横浜国立大学)

 川口は所用で東京の会場に来ることができなかったため,Skypeによって父島から発表した.現地調査および操作実験により,外来ネズミ類によるオガサワラカワラヒワの樹上の巣における捕食可能性が,クマネズミRattus rattusが優占する母島とドブネズミR. norvegicusが優占する母島属島の向島では異なることを示唆した.この違いは,クマネズミは木登りが得意で,ドブネズミは木登りがあまり得意でないという外来ネズミの生態的特徴を反映していると考えられた.すなわち,木登りが得意なクマネズミが生息する母島では,オガサワラカワラヒワの巣のから卵や雛が捕食され,繁殖がほとんど成功せず,一方で向島では,ドブネズミが登ることのできない通直な樹形をしている外来樹のトクサバモクマオウCasuarina equisetifolia(以下モクマオウ)で繁殖成功している可能性を操作実験で示し,近年の観察ではモクマオウでのみで繁殖が確認されていることを報告した.ただし,モクマオウは小笠原諸島において侵略的外来種であり,生態系保全上の障害となっている.オガサワラカワラヒワが外来のネズミによって絶滅の危機に晒されながら,一方で外来のモクマオウに個体群の維持を依存しているといった,島嶼生態系の微妙な生態系バランスについて解説した.


 質疑では,個体群の減少に本当にネズミが関わっているのか,ほかの原因はないのか,また,母島属島でネズミを駆除した場合のリスク等について質問があった.川口と共同研究者の川上がそれらの質問に対して,現状明らかになっている知見から外来ネズミ類が大きい減少要因であることがほぼ間違いないことを回答し,外来ネズミ対策の必要性を訴えた.一方で,母島属島のドブネズミを駆除することでニッチの空きが生じ,新たにクマネズミが母島属島に侵入する可能性を解説し,モニタリングの必要性を論じた.さらにネズミ駆除以外の本亜種の保護の方法について質問があり,今後,域内・域外保全を進めるためには環境省による希少野生動植物種の保護増殖委員会の立ち上げも必要であることが議論された.

 最後に自由集会参加者には,オガサワラカワラヒワの保全活動普及を目的として川口が作成したステッカーが配布された.ステッカーのデザインは,切り絵をベースにオガサワラカワラヒワの特徴である嘴を大きめにした.さらに黄色い丸は,繁殖地の島の数(向島,姉島,妹島,姪島,平島,南硫黄島)を示しており,今後保全活動が進み,丸の数(繁殖する島数)が増えることを願いデザインされている.ステッカーは,100枚用意して94枚が配布されたため,途中で会場を中座した参加者を含めると100名以上参加していただいた計算になった.
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 総合討論の時間を設けていたが,川口の発表に端を発する活発な議論により,終了時間となり閉会した.

大会終了後の現在
 齋藤は,発表した研究成果をまとめ,「Cryptic Speciation of the Oriental Greenfinch Chloris sinica on Oceanic Islands」という表題で論文を発表した.その論文中で分類を再検討し,オガサワラカワラヒワは他の亜種と比べて進化的に独自の特徴を持つことから,カワラヒワと別種の独立種オガサワラカワラヒワ (英名Ogasawara Greenfinch,学名Chloris kittlitzi)とすることを提唱した.論文は,オープンアクセスとなっているため,誰でもインターネットから閲覧することができる(https://doi.org/10.2108/zs190111).なお,論文を掲載したZoological Science誌は,この論文の掲載号の表紙にオガサワラカワラヒワの写真を採用した(https://bioone.org/journals/zoological-science/volume-37/issue-3).

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Zoological Science Vol.37 NO.3号に掲載されたオガサワラカワラヒワの写真.小笠原諸島向島で向哲嗣 氏撮影.

 さらに齋藤と川上は,「日本固有の鳥が1種増える!? ―海洋島で独自に進化を遂げた希少種オガサワラカワラヒワ―」という表題で,それぞれ山階鳥研と森林総研から共同プレスリリースを行った.
http://www.yamashina.or.jp/hp/p_release/images/20200527_prelease.pdf
https://www.ffpri.affrc.go.jp/press/2020/20200527/index.html

 小笠原諸島に関わる研究者間ではこの鳥が絶滅するかもしれないという危機感が共有されていた.今回の自由集会や論文等によって全国の鳥類研究者,そして社会一般にこの問題が共有されることを願ってやまない.
posted by 日本鳥学会 at 17:19| 大会報告

2020年06月05日

日本鳥学会2019年度大会自由集会報告:大規模太陽光発電施設の鳥類への影響を考える

佐藤 重穂(森林総合研究所)*
北村 亘(東京都市大学)
金井 裕(日本野鳥の会)
浦 達也(日本野鳥の会)
北沢 宗大(北海道大学)
*E-mail: shigeho@affrc.go.jp

*本報告は同タイトルのフォーラムの記事(日本鳥学会(69(1):130-132)に画像とリンク先を追加したものである。

はじめに
 近年,大規模な太陽光発電施設の建設が国内各地でみられているが,それに伴い,環境保全上の問題も生じている.持続可能な社会の構築に向けて,再生可能エネルギーの利用の促進は必須だが,環境破壊や生態系への負の影響はできる限り回避する必要がある.しかし,太陽光発電施設が鳥類をはじめとする生態系にどのような影響を及ぼすのか,十分に解明されていない.
 そこで,鳥類保護委員の佐藤,北村,金井が中心となって,大規模太陽光発電施設が鳥類に与える影響をテーマに自由集会を企画した.本集会では,これまでの知見を総括するとともに,環境アセスメント制度の中での扱いについて情報を共有して,論点を整理し,さらに研究者にどのような研究が求められるかの意見交換を図ることを目的とした.

話題1: 集会の趣旨説明と鳥類保護委員の活動
佐藤重穂

 2019年7月に環境影響評価法施行令が一部改正され,太陽光発電施設も環境アセスメント制度の対象となることが決定した.しかし,一定規模以上の施設が対象となるため,それに該当しない施設は対象とならない.2019年6月に日本鳥学会鳥類保護委員会は環境省に対して,太陽光発電施設に関する意見書(鳥類保護委員会2019)を提出した.要望内容は,次の3点である.

1)太陽光発電施設のもたらす自然環境への影響の調査・研究の実施
 大規模太陽光発電施設の設置が,鳥類をはじめとする生物の生息および自然環境に対してどの程度の影響を及ぼすか,予測・評価をできるようにするために,調査・研究を推進すること.

2)鳥類への影響の回避措置の実施
 大規模太陽光発電施設の設置を行う場合,予防原則に基づき,鳥類への影響を回避もしくはできるだけ低減させるための措置を講じるようにすること.

3)環境影響評価法等の法制度の整備
 50ha以上の開発面積を伴う太陽光発電施設計画については,環境影響評価法の規制の対象とすること.50ha未満の計画についても,事前届出制度や公表の義務付けなど,必要な制度を早急に整備し,トラブルに繋がりそうな計画を早期に把握するとともに,行政指導を行うこと.

 以上のように,環境影響評価制度の対象となる発電施設の規模要件を厳しく設定することを求めるとともに,鳥類や生態系への影響調査,および予防原則に基づく影響の回避措置を求めている.
 なお,国の環境影響評価法施行令改正では,出力が4万kW以上である太陽電池発電所の設置の工事の事業を第一種事業とし,出力が3万kW以上4万kW未満である太陽電池発電所の設置の工事の事業を第二種事業とすることとなっているが,出力4万kWは100haに,3万kWは75haに相当する.大規模太陽光発電施設については,2020年から環境影響評価を義務づけることが2018年に閣議決定されたが,その際に対象となる事業の規模要件として100ha以上とされた.しかし,2019年現在,条例で太陽光発電事業を環境影響評価の対象としている自治体では50ha以上とするものがもっとも多かった.環境影響評価法の対象は埋め立て,干拓について50ha以上を第一種事業の対象としていることから,委員会の要望書では,太陽光発電事業についても50ha以上を規模要件とすることを提言した.

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自由集会での発表の様子.

話題2: 大規模太陽光発電施設が野鳥をはじめとする自然環境に与える影響
浦 達也

 気候変動の原因である温室効果ガスの排出量を大幅に削減することが喫緊の課題である.温室効果ガスの削減策の一つである再生可能エネルギーのうち,国内では太陽光発電の導入が進み,多くの大規模太陽光発電施設の運転が開始されている.近年,太陽光パネルの設置のために森林や草原が伐開されたり,太陽光パネルを池や沼の水面を覆うように設置するなど,野鳥の生息場所への影響が懸念される事例が多数みられ,各地で自然保護上の問題が発生している(環境省(2019)太陽光発電施設等に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会報告書参照).そこで,大規模太陽光発電が,どのように自然環境に影響を与えるのかについて課題を整理した(浦(オンライン)大規模太陽光発電施設が野鳥をはじめとする自然環境に与える影響〜問題点・課題・対策〜参照).
 太陽光パネル設置が野鳥へ与える影響として,直接的な生息地の喪失,生息地の改変や分断,利用場所からの閉め出しの主に3つが挙げられる.設置場所が野鳥にとって魅力的ではない場所(例:都市環境,集約的な耕作地,整備された工業用地など)では,影響が小さいが,保護区やその近くなどに太陽光パネルが設置される場合は,野生生物にとって貴重な生息場所である可能性が高く,野鳥へ悪影響を与える可能性も高まる.放棄耕作地や生産力の低い農地,長期間放置された工業用地などでは,太陽光パネルの設置用地とされることが多い.しかしこれらの場所では,すでに希少な動植物種が生息するなどの理由で自然保護上の重要な場所になっていることがあり,太陽光パネルの設置によって希少な動植物へ悪影響を及ぼす可能性が高い.
 また,水鳥が光を反射する太陽光パネルを水域と間違い,衝突する可能性もある.カゲロウ,カワゲラのように水中に卵を産む昆虫は,光を反射する太陽光パネルを水域と間違えて太陽光パネルの表面に卵を産むことが確認されている.設置場所やその周辺が,そういった昆虫を重要な食物資源としている野鳥の生息地である場合,野鳥の繁殖成功度と食物入手の機会を減らす可能性がある.さらに,太陽光発電所を囲んでいる防護柵やフェンスは,野鳥の衝突の危険性を高める可能性がある.
 なお,太陽光パネル設置による環境や生態系へ及ぼす影響として,次のようのものがある.太陽光を地表が反射する割合が変化し,大気の温度に影響を与える.地表面温度と大気境界層の状況が変化する.土地利用や土地被覆の変化が生じる.外来植物の侵入や生物相の変化を促す.
 以上のように,さまざまな影響が生じることが考えられるので,それを避けるために,設置前に詳細な環境影響評価を行うことが必要である.

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採餌場所が減るチュウヒ(写真:日本野鳥の会岡山県支部).

話題3: 太陽光発電事業に係る環境影響評価について
森田紗世也(環境省環境影響評価課)

 令和元(2019)年の環境影響評価法の施行令改正により,令和2(2020)年4月から,100ha以上の太陽光発電施設が環境影響評価法による評価対象となる(環境省(オンライン)環境アセスメント制度:令和元年政令改正関係(太陽電池発電所の追加)参照).太陽光発電については,すでに日本国内の累計で43GWの発電施設が導入されている.日照条件が良ければ,どこでも設置できるという利点もあるが,建物の屋上などだけでなく,森林伐採のような開発行為を伴う事例も多い.また,地域住民に対する説明が不十分な事例もある.
 100ha以上(4万kW)が第1種事業,75ha以上(3万kW)が第2種事業となり,それよりも小規模な事業は自治体による条例での評価対象となることがあり得る.さらに規模が小さいものは,環境への影響に関するガイドラインを環境省が設定して,それに沿うように促すことを考えている.その場合は,自主的な簡易評価をしてもらうことになる.事業規模の要件については,他の種類の事業案件と同等にする必要性がある.
 太陽光発電事業はさまざまな場所に設置されることが想定されるので,地域特性を考慮すべきと考える.第1種事業は必ず環境影響評価をするが,第2種事業でのスクリーニングにあたっては,森林伐採,土地の安定性(土砂流出),水の濁りなどが懸念される場合に評価の対象とすることを想定している.

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林地に設置された太陽光パネル(写真:佐藤重穂).

話題4: 太陽光発電施設は鳥類の生息地として機能しているか? 北海道勇払平野での検証
北沢宗大

 生物多様性に対する脅威として,土地利用の変化と気候変動はどちらも重要な要因である.しかし,気候変動への対策である再生可能エネルギーの導入には,多くの土地が必要なものもある.大規模太陽光発電はその一つであり,野生生物の生息地の保全との間にトレードオフの関係が生じる.
 太陽光発電施設における鳥類の生息地としての価値は,これまで知られていなかったので,こうした施設を建設した場合,どの程度,価値が低下するかを正確に評価できなかった.そこで,鳥類の生息地としての価値を他の土地利用方法と比較するための研究を行った.
 調査地は北海道南部の勇払平野であり,22haないし62haの太陽光発電施設が3カ所建設されている.太陽光発電施設,湿原,耕作放棄地,牧草地,畑の5種類の土地利用について,鳥類の繁殖期の生息状況を調査した.その結果,種数,個体数は湿原や耕作放棄地に比べて太陽光発電では少なく,牧草地や畑と同程度であった.例えば草原性の種であるノビタキでは,繁殖成績と餌資源になる昆虫のバイオマスは,太陽光発電と他の土地利用との間で差はなかった.ただし,太陽光発電施設の中でも除草の場所を限定した施設では,生息する鳥類の個体数が多かったので,こうした配慮によって生息地の価値を多少高めることは可能かもしれない.
 この研究では北海道の一地域だけのもので,全国的な評価をするためには,広域かつ多地点の調査が必要である.また,今回の調査では草原性の鳥類を対象として扱ったため,森林性の鳥類への影響は不明である.今後のさらなる研究が求められる.

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太陽光パネルにとまるノビタキ(写真:北沢宗大).

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場所を限定した除草(写真:北沢宗大).


 以上の4名の演者による話題提供の後,企画者の一人である北村が,再生可能エネルギーの導入目標が政府によって示されている中で,今後も太陽光発電施設の増加が見込まれること,しかしながら,千葉県の山倉ダムでは水面に太陽光パネルが設置されたために水鳥の飛来数が減少した事例や,太陽光パネルを設置するために林地が伐採されたことで土砂崩れなどの問題が生じている事例などがあることを紹介した.その上で,研究者としては,効率的な調査手法や評価手法の確立,鳥類の生息地の視点から保全の優先順位の高い場所の提示,発電施設の望ましい管理方法などに取り組めるのではないかと提案した.
 これを受けて,会場の参加者との意見交換を行った.時間が不足して,討議が不十分だった感があるが,100名余りの参加者の方々が熱心に聞いてくれたことは,持続可能な開発と環境保全の両立という困難な課題に興味を持つ人が多いことの表れとも言える.研究活動が持続可能な社会の構築に役立つよう努力したい.

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自由集会の会場の様子.
posted by 日本鳥学会 at 18:00| 大会報告

2020年05月25日

日本鳥学会2019年度大会自由集会報告:幕田晶子さんのイラスト作品の水鳥と湿地保全への貢献

呉地正行*・須川 恒 (日本雁を保護する会)
*E-mail: gan.g.kurechi@gmail.com

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*本報告は同タイトルのフォーラムの記事(日本鳥学会(69(1):128-130)に画像とリンク先、集会後の参加者からのコメントを追加したものである。

はじめに
 JOGA(注)の自由集会は,ガンカモ類の研究者と,その重要生息地ネットワークに関わる人々との仲立ちをする目的で始められ,1999年以降,鳥学会大会時に毎回開催されてきた.集会のテーマは,毎回ガンカモ類の生息地のネットワークを活性化し,現場での活動を支援するという視点で設定されてきた.しかし重要ではありながら,これまで項目から抜けていた課題がある.それは,水鳥とその生息環境である湿地の価値と保全活動・研究活動の重要性を普及啓発する活動である.その活動には,鳥学的な成果を文章や数値を用いずに可視化し、多くの人々が体感できるメッセージとして伝えるイラスト等の道具が不可欠となる。JOGAの関係者も多くのデザイナーやイラストレーターと連携して作成した道具を用いて,普及啓発を行ってきた.その中でも東北の地にあって,ガン類の最大級の越冬地である宮城県大崎市蕪栗沼のほとりに仙台市から移住し,「心地よい風景」の中で20年以上にわたり,心に響く多くの作品を手掛けてきたデザイナーの幕田晶子(1959−2018)さんの役割は大きかった.幕田さんは,残念なことに2018年12月に若くして亡くなられた.この功績を偲び,地域に広く周知する「幕田晶子回顧展」が2019年7月9−27日に,地元の田尻さくら高校さくらギャラリーで開催された.本集会は「水鳥と湿地保全への貢献」という切り口で,幕田さんの功績を関係者で共有することを目的に開催し,約20名が参加した.
 本集会では,冒頭に須川が趣旨説明を行い,次いで呉地が幕田さんの作品誕生の背景とその経過,及びその効果について,代表的な作品をスライドで紹介しながら以下のような講演を行った.
 なお,幕田さんの人となりの紹介および主要な10作品についてはJOGA23のサイトにファイルをリンクしてあるのでぜひごらんいただきたい.

幕田さんの作品について
 幕田さんの作品は,微生物から宇宙まで多種多彩で膨大な数に及び,その思いの中核には,まず雁がいて,さらに雁が住む風景が残されている蕪栗沼がある.幕田作品の特徴は,雁のいる風景の中に住み,湿地とその生き物の鼓動を肌で感じながら,それをデザインして可視化していることだ.この現場へのこだわりが,普遍性があるメッセージとなっている.それを象徴しているのが,幕田さんが活動を開始する際にまとめた「theかぶくりサークル」の図である.そこには蕪栗沼を中心に,世界や宇宙にまで広がる円環と調和の幕田さんの世界観が示され,それがその後の全ての作品の底流となっていた.
 幕田さんは立ち上げから関わってきた地元環境保護団体(NPO法人蕪栗ぬまっこくらぶ)のためだけでなく,ゴールを共有する関係諸団体や機関のニーズに基づき,生き物の息吹と現場感覚を感じられる作品を発信してきた.その連携先は,地元の農家,NGO,企業,市町村,県,国,大学など多岐に及び(一覧図),それらの作品は今も地域の自然資源を可視化する道具として様々な場所や場面に登場している.その一方でそれが幕田作品であることを知る人は多くはなく,優れたデザイナーの重要性について更なる周知が必要である.このことも本集会を企画した理由の一つである.

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 これらの作品の中には,地元NGOが編集し,環境省東北地方環境事務所から発行された「ふゆみずたんぼ」のパンフレット(図ふゆみずたんぼ)のように,未だに需要が多く,初版発行以来4回版を重ねているものもある.「ふゆみずたんぼ」という言葉は,冬期の水田に水を張り,新たな水鳥の生息地を創出するとともに,生き物の力を活かした持続可能な水田農業を可能にする農法で,宮城の蕪栗沼から全国へ発信し,現在は全国に普及した取り組みだが,その啓発普及の道具としてこのパンフレットは大きな力を発揮した.またふゆみずたんぼ農法に対応した3年間使える「生きもの3年カレンダー」を地元NGOと東北地方環境事務所と協働して作成したが,これもふゆみずたんぼの取り組みを後押しする大きな力となった.

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 またラムサール条約湿地関連では,地元NGOと大崎市が協働し,「化女沼,蕪栗沼・周辺水田」のパンフレットを発行したが,これらはすべて幕田作品である.
 また1983年以来その個体数回復事業を行っているシジュウカラガンに関しても多数の作品を残している.仙台市八木山動物公園,日本雁を保護する会が編集発行したパンフレット「COME BACK GEESE-仙台の空に再び」は同事業の普及啓発に大きく貢献した.
 また近縁種で特定外来種のオオカナダガンと,国内希少種のシジュウカラガンとの混乱を整理するために,環境省生物多様性センターと日本雁を保護する会が協働して作成した「似ているけど,違うのです」は,全国ガンカモ生息地調査関係者に配布され,その後,両種はきちんと分離して記載されるようになった.またこれと関連した「ふやそう四十雀雁,へらそう加奈陀雁」(図タペストリー)は稀少亜種であるシジュウカラガンと特定外来種のカナダガンを表裏1枚のチラシとすることで,その違いを明確に伝えるとても有効な道具となった.

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集会を開催してわかってきたこと
 呉地の講演後に参加者全員との質疑と意見交換を行い,また集会の参加票に多くのコメントを書いていただいた.参加者からは,これまで幕田さんの諸作品に接していたが,それらが幕田さん一人の作品であったことに驚いたというコメントが多くあった.
 幕田さんはどのように依頼者とやりとして作品をつくっていたのかとの質問が会場であった.幕田さんが依頼者の希望を直感的に理解してその場でラフスケッチを描いたやりとりが始まること,依頼内容が漠然としている場合は,納得できるまでやりとりが続くことや,慣れていない素材が対象の場合は,現場を見て自分なりのイメージを得てから作業を進めたことなどが紹介された.
 デザイナーが芸術家と異なるのは,自らの思いではなく,依頼者の思いを作品として可視化することだ.幕田さんが一人で多様な作品を多数生み出すことができたのは,様々な依頼者の思いを依頼者以上に深く理解し,それを多くの人の心に届く作品に仕上げる能力に長けていたからであろう.
 本集会では,ねらいであった湿地保全や水鳥保護の諸活動において,能力のある意識の高いデザイナーとの連携・協力がどれだけ大切なのかを再確認できたと思う.

おわりに
 幕田さんが亡くなって1年たつが,今でも幕田さんの作品と出会わない日は殆どない.そのたびにその作品作成のために議論をしていた当時の光景が思い浮かぶ.幕田さんの命は天に召されていったが,多様な幕田作品が発するメッセージは,今も多くの人々の心の中に生き続けている.集会後に参加者の一人が「デザイナーっていいなあ」とポツリと言った.この言葉を天上の幕田さんに送り,この報告を終えたい.

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=JOGAとは,Japan Ornithologist Group for Anatidae Site Network in the East Asian Flywayの略称.1999年に設立され,当時の日本語名称は,その支援対象のフライウェイの枠組みが,「東アジア地域ガンカモ類重要生息地ネットワーク」と呼ばれていたため,「東アジア地域ガンカモ類重要生息地ネットワーク支援・鳥類学研究者グループ」と呼ばれた.その後,2006年にその枠組みが変更され,「東アジア・オーストラリア地域フライウェイパートナーシップ」となったため,現在,JOGAの日本語名称を「東アジア・オーストラリア地域渡り性水鳥重要生息地ネットワーク(ガンカモ類)支援・鳥類学研究者グループ」と変更した.詳細はここを参照されたい。
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●集会参加者コメント一覧
・素晴らしい作品群を見せていただきありがとうございました。
・あらためてデザインの大切さがわかりました。ありがとうございます。
・作品の説明を見て思うのですが、幕田さんの作品ということは知りませんでした。とても、よくわかりやすいデザインで、一般の方にもわかりやすい目に見える化することは、とてもりっぱなことと改めて思いました。
・様々なグッズが普及に役立ったことがわかった
・デザインは、もちろん配色レイアウトは、どれをみてもデザイナーさんの仕事だということはわかります。そんな方がガンも描いていることはたいへん貴重な存在だったのがわかります。こういう方がまたあらわれてくれることを願っています。
・とても幸せな例だと思いました。人に伝えることは、デザイン・イラストの使命ですが、幕田さんと呉地さんの出会いは必然だったのですね!!と思いました。
・幕田さんの表現力に改めて感動しました。また、皆様のこれまでの活動を呉地さんの解説で振り返っていただき、大変勉強になりました。今後の活動の参考にさせていただこうと思います。
・幕田さんの作品は、シンプルで人に伝わりやすい絵を描かれていましたね。現場で実物をみているからこそ、多くのポーズを生き生きとえがけたかなと思いました。
・よくみたことのあるパンフレットやチラシをすべて同じ方が作っていたのを初めて知りました。
・専門の人も専門外の人もわかりやすいと思える良いデザインが普及啓発によく役立つのだろうと思いました。地図などの多くの人が見るものに環境や生物系のイラストが説明を入れることで、多くの人に関心をもってもらうことができたと思いました。環境や生物への理解や愛があったからこそクオリティーの高い良いデザインが出来上がったのだと強く思いました。
・幕田さんの多様な作品 もっとこれからも見たかったです。
・イラストデザインで、一人でも多い方に手に取っていただける、興味を持ってもらえることが各湿地には重要で、でも難しいことなので、幕田さんの活動は、とてもうらやましく感じました。
以上


posted by 日本鳥学会 at 12:53| 大会報告

2019年10月22日

日本鳥学会ポスター賞を受賞して 

岡山理科大学 中原多聞

 この度2019年度大会でポスター賞をいただくことができ、大変嬉しく思っております。まだまだ実感がなく、だんだんと賞の重みを感じ始めているところです。

 今回発表させていただいた私の研究は、できるだけ多くの標本を観察し、分析する必要のあるものでした。また、観察や分析を行う前に解剖を行う必要があり、作業1つ1つに非常に時間がかかりました。私1人で行うとしたら何年かかるか分かりません。そんな研究をこの半年で行うことができたのは、施設で亡くなった動物を快くご提供頂いたことや、先生方から手厚いご指導を頂けたこと、友人が時間を作って作業を手伝ってくれたこと、母がずっと応援してくれていたことなど色々な要因が全て揃う恵まれた環境にいたからだと思います。研究に関わってくださった方に心から感謝申し上げます。

 これからも、多くの方々に助けられた上でこの研究が成り立っていることを忘れず、研究を深めていきたいと考えております。
 最後になりますが、鳥学会の運営の皆様、ポスター審査員の皆様にこの場を借りてお礼申し上げます。研究をする学生として大きく成長させていただけた学会でした。

ポスターの概略
ペンギン類は骨内部を緻密化している事が先行研究によって知られています。このような骨内部の緻密化は哺乳類では体系的な研究が行われており、水中生活への適応であると考えられています。

そんな中で、先行研究ではペンギン種間や成長段階で内部構造に違いは確認されませんでした。また、他の水鳥(ウミスズメ科)においては骨の緻密度と潜水能力は相関しないという結果が示されていました。

しかし、このような骨内部構造の変化が水中への適応であると考えるならば、潜水深度の異なる種や遊泳開始前後で変化が確認出来るはずだと考えると共に、そもそも多くの鳥類がどのような骨内部構造をしているかを明らかにしなければ、内部構造の変化について評価することは難しいと私は考えました。

そこで私はCTスキャナーを用いて、鳥類18目24種の内部構造の観察をするとともに、ペンギン類9種での種間比較を行いました。さらに、レントゲンを用いて日齢の明らかな個体での成長観察を行いました。

ペンギン類と他の鳥類との比較の結果、多くの鳥類の四肢骨は骨密度の低い管状骨をしている一方で、ペンギン類のみ極めて緻密な構造をしていると分かりました。また、ペンギン類は四肢骨だけでなく全身の骨を緻密化しているとわかりました。

ペンギン種間での比較の結果、骨全体を緻密化している種とそうでない種が存在することが明らかとなりました。

成長観察の結果、ペンギン類の骨内部構造は成長段階で変化し、緻密化は遊泳開始前後で完了することが確認されました。

以上の結果から、ペンギン類は種間や成長段階で内部構造を変化させていることが明らかになりました。

また、他の鳥類との比較やペンギン種間の比較の結果から、ペンギン類の骨の緻密化は水中生活への適応の結果であり、その緻密度の違いは潜水能力の違いを反映している可能性が高いと推察されました。

今後はペンギン種間での内部構造の違いを比較するための要因を増やして分析していくと共に、化石種のペンギンを観察することも視野に入れて研究を進めていきたいと思います。

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観察したキングペンギン



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2019年10月21日

第4回日本鳥学会ポスター賞受賞の感想

大阪市立大学理学研究科 西田有佑

この度、日本鳥学会2019年度大会にてポスター賞を頂くことができました。ありがとうございました。過去の受賞者の方々をみてみると、毎年おもしろい研究発表をされている若手の方がずらっと並んでいて、私の研究も少し認められたのかな?と思っています。これからも調査・研究がんばるぞ!

モンベル様からは超豪華なレインパーカーを記念品としていただきました。ありがとうございます。調査での着心地も良さそうで今年の調査が楽しみです。

ポスター内容の概略
今回の受賞ポスターのテーマは「餌資源の豊富ななわばりで冬を越せた個体は、その後の繁殖が上手くいくのか?」というものです。越冬環境がもたらす繁殖パフォーマンスへの影響のことを、専門的には「キャリーオーバー効果」と呼びます。あたりまえの現象のように思えますが、野生動物で調べた例はかなり少なく、まだまだ分かっていないことの多い生態学的現象の1つです。

私はとくに「越冬環境がもたらすオスの繁殖成功へのキャリーオーバー効果」に興味がありました。オスの繁殖成功はメスと交尾できるかでほぼ決まるのですが、上手に求愛できたオスほどメスにモテます。そして栄養状態が良く元気なオスほど上手に求愛できることが多くの鳥類で知られています。もし餌資源の豊富ななわばりで冬を越したオスほど、繁殖開始時の栄養状態が良くなり、求愛行動の質も高くなってメスにモテることを示せれば、オスの繁殖成功へのキャリーオーバー効果の存在を確かめられそうです。

そこで注目したのがモズです。エサをなわばり内の木々の枝先に突き刺す「はやにえ行動」で有名な小鳥です。はやにえはエサの少ない冬に備えた保存食で、たくさんのはやにえを食べた個体は繁殖開始時の栄養状態が良くなることが知られています (Nishida & Takagi, 2019, Anim. Behav.)。また、繁殖期になると、オスは歌をつかってメスに求愛します。栄養状態の良いオスほど魅力的な歌をもつことができて、メスにモテることが私の先行研究で分かっています(Nishida & Takagi, 2018, J. Avian Biol.)。

ということで、次のような仮説を立てて検証しました。「良い越冬なわばりをもつオスは、たくさんはやにえを貯えられて、そのはやにえを食べることで繁殖期の歌の魅力を高められて、メスにモテるようになる?」という仮説です。詳しい結果は省きますが、この仮説を強く支持する証拠が、観察と実験の両方で集めることができました。

つまり、モズのオスでは、越冬環境がはやにえの貯蔵・消費を介して、繁殖期の求愛行動の質・配偶成功にまで影響していたのです。性選択の文脈でキャリーオーバー効果が生じることを示したおそらく初めての研究です。生き物の生態をちゃんと理解するには、繁殖期だけじゃなくて越冬期にまで目を向けないといけないようです。

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カエルの仲間のはやにえ


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2019年10月20日

第4回日本鳥学会ポスター賞 西田さんと中原さんが受賞しました

日本鳥学会企画委員会
中原 亨

 若手の独創的な研究を推奨する目的で設立された日本鳥学会ポスター賞は、厳正なる審査の結果、今年は西田有佑さん(生態・行動分野)と中原多聞さん(保全・形態・遺伝・生理・その他分野)が受賞しました。おめでとうございます。
 ポスター賞は今回が4回目となり、今年の応募は42件(生態・行動が26件、その他が16件)と、過去最多となりました。ポスター賞は30歳になるまで何度でも応募できますので、あと一歩だった方も、2次審査に残れなかった方も、是非再挑戦してください。
 最後になりますが、ポスター賞の審査をご快諾して頂いた6名の方々、記念品をご提供頂いた株式会社モンベル、大会実行委員のみなさまにこの場をお借りして御礼申し上げます。

2019年日本鳥学会ポスター賞
《生態・行動》分野

「モズの越冬期の生息地利用が、はやにえ貯蔵量や求愛歌の魅力に与える影響」
西田有佑(大阪市大)・木昌興(北大)

《保全・形態・遺伝・生理・その他》分野
「骨内部構造から考察するペンギン類の水棲適応」
中原多聞・林昭次・奥田ゆう・皆木大生・小平将大・知花宇晃・亀崎直樹(岡山理大)・進藤英朗・久志本鉄平・上原正太郎(下関市立しものせき水族館)・村上翔輝・恩田紀代子(ニフレル)・石川恵・伊東隆臣(海遊館)・毛塚千穂・樋口友香(須磨海浜水族園)・安藤達郎(足寄動物化石博物館)

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左から,中原さん,西田さん


次点
《生態・行動》分野

「琉球列島の島間で異なる音響環境に適応したさえずりによる生殖隔離」
植村慎吾(北大)・木昌興(北大)

《保全・形態・遺伝・生理・その他》分野
「飛行特性を反映させた大型水禽類4 種のセンシティビティマップ」
佐藤一海・向井喜果・鎌田泰斗・佐藤雄大・山田新太郎・関島恒夫(新潟大)

一次審査通過者
《生態・行動》分野

「繁殖上手なつがいはどのように侵入者に対処する?:なわばり防衛行動と繁殖成績の関係」
小野遥・澤田明・村上凌太・木昌興(北海道大)

「ハシブトガラスの画像認識能力に関する研究」
小原愛美(宇都宮大院)・青山真人(宇都宮大)・杉田昭栄(宇都宮大・東都大)

「樹洞営巣性鳥類の営巣環境をめぐる闘争行動―ニュウナイスズメとスズメの種間比較―」
佐々木未悠(弘前大)・高橋雅雄(弘前大)・蛯名純一(おおせっからんど)・東信行(弘前大)

「サンコウチョウにおける遅延羽色成熟の適応的意義」
能重光希(北大院・理)・植村慎吾(北大院・理)・大井紗綾子(元大阪市大・院理)・木昌興(北大・院理)

《保全・形態・遺伝・生理・その他》分野
「小さな島にも遺伝構造、亜種ダイトウコノハズクは血縁者同士が近くに分布する」
澤田明(北大)・岩崎哲也(大阪市大)・木昌興(北大)

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2019年06月11日

2018年度日本鳥学会新潟大会 高校生ポスター賞のご報告

長岡技術科学大学 山本 麻希


 2018年度日本鳥学会事務局 高校生ポスター担当の長岡技術科学大学の山本です。
ご報告が遅くなり、大変申し訳ございませんでした。

 2018年度日本鳥学会新潟大会におきまして、高校生ポスター発表が行われ、以下の4つの団体、個人に高校生ポスター賞が授与されました。

最優秀賞
「四日市西部丘陵で繁殖するフクロウの給餌食物」
松永雄貴・大西一生・丹下浩(三重県立四日市西高等学校 自然研究会)

表現賞
「鳥取県大山におけるジョウビタキの繁殖についてU」
楠ゆずは(米子市立福米中学校)・楠なずな(米子市立福米西小学校)

科学賞
「群馬県のスズメは減っているのか」
深井こるり(群馬県前橋女子高等学校)

努力賞
「多摩川中流におけるカモ類の個体数推移と生息時期及び分布」
亀岡太郎(東京都立西高校)

 2018年度は、12のテーマでポスター発表の応募がありました。2019年度は東京大会ですので、是非、たくさんの高校生からの発表申し込みがあることを楽しみにしております。

 最後になりますが、ポスター賞の審査をご快諾して頂いた審査委員の方、記念品をご提供頂いた株式会社モンベル、大会実行委員にこの場をお借りして深く御礼申し上げます。

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受賞後の記念撮影の様子

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最優秀賞を受賞した生徒たち

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ポスター発表の様子
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2018年12月30日

驚きの佐渡トキ復活 2018年鳥学会エキスカーション報告

 須川恒(龍谷大深草学舎・京都市在住)

21年前に佐渡を訪問
 私は山階芳麿・中西悟堂(監修)(1983)「トキ 黄昏に消えた飛翔の詩」教育社.という写真集を持っている。その本の帯には「もう見ることはできない ケージの中で飼育される3羽−彼らがふたたび大空を翔(かけ)る日はくるだろうか」とある。野外のトキをネットで捕獲する写真などが多数掲載されているが、どちらかというと、もうまもなく見られなくなるトキは、かつてこのように日本の空を飛んでいたと記念する写真集というニュアンスを感じた。
 21年前の1997年9月23-24日に新潟大であった日本鳥学会大会後のエキスカーションで佐渡を訪問した。9月22日のシンポジウムは猛禽類保護に関するものだった。この時は新潟大学の佐渡北部海岸にある新潟大学の演習林の施設に泊めていただいた(施設の前に海岸があった)。今回エキスカーションに参加した人の中で21年前に参加した人は北海道の玉田克巳さんと滋賀の天野一葉さんだけだった。
 この時はケージの中で飼われている最後のトキの「キン」(ゆっくりと歩いていた)を近辻宏帰さんに紹介していただいた(近辻さんはトキの飼育・増殖にずっとかかわっておられたがトキの初放鳥があった2008年の翌年2009年に66歳で亡くなられた)。また広く佐渡をまわり、かつてこういった地域にトキが住んでいたと紹介を受けた記憶がある。
 この時点で、後につながる中国との交流などははじまっていたが、雰囲気としては写真集で感じていたのとほとんど変わらない未来のみえないトキだった。当時、いつかキンも亡くなるが、その際に未来に向けキンの細胞をどう保存するかが話題となっていた。
 1997年の佐渡のエキスカーションの際に、一緒に行った成末雅恵さん・加藤七枝さん(当時日本野鳥の会)と全国的にも見えてきたカワウ問題を扱う自由集会を来年からやらないかと相談し、1998年から現在まで毎年開催されている会のきっかけとなったことが私にとっての一番の思い出だった。
 新潟にはガン類や湿地保全、鳥類標識調査の会合に参加する機会が多くよく訪問していたが、佐渡のトキプロジェクトのその後の進展については伝え聞くだけで、あれから一度も訪問していなかったので、今回のエキスカーションに参加して佐渡の現場を見るのが楽しみだった。

佐渡訪問の予習となった再導入シンポジウム
 2018年9月17日午前中は日本鳥学会新潟大会の公開シンポジウム『トキ放鳥から10年:再導入による希少鳥類の保全』が朱鷺メッセであった。
 私の前の席には、野鳥画家の谷口高司さん夫妻や羽箒研究者の下坂玉起さんら早稲田大学生物同好会につながる人々が座っていて、並んで座っている近辻宏帰さん夫人の道子さんを紹介いただいた。
 環境省佐渡自然保護官事務所の岡久雄二さんが「トキの野生復帰の取り組み」の講演で、野外個体群の絶滅、人工繁殖成功の過程、2008年の初放鳥(今年は10年目)、2012年から野生化でも成功し、延べ308羽を放鳥して、現在佐渡で野生下のトキが305羽となっていること、トキのための採食地として多様な水田農業の取り組み、地域社会の維持・活性化まで視野にいれた「佐渡モデル」について語った。
 新潟大学の永田尚志さんは「トキの再導入はどこまで達成したのか」の講演で、繁殖個体群が順調に増加している中味について語り、今後の見通しと課題について問題提起があった。いずれも、トキの最新情報についての予習となった。会場からの質問で、私がした質問は「今後佐渡から日本国内に分布を拡げていく勢いだが、海外へ分布を拡げていく可能性についてどう考えるか」であった。永田さんが「すぐにはないだろうが、国内分布が九州へと進むとその可能性は高くなる。」だった。
 トキ復活プロジェクト中国・日本における進展に加えて、韓国やロシアでも計画がある。特に放鳥が近いと聞く韓国における放鳥が始まると日本への渡来や日本の個体群との交流の可能性が高まり、トキのかつての分布域が復活するきざしもできると思った。
 私は日本鳥類標識協会のホームページ委員をしていて、ホームページの中にカラーマーキング調査をしている調査者からの情報を掲載しているポータルサイトをつくって各種のカラーマーキング情報を掲載して、必要な種には英語版も掲載していただいている。トキもそろそろ英語版情報の掲載も必要ではと思っての質問であった。

トキが「普通に」飛んでいる!
 シンポジウムが終わって朱鷺メッセから渡り廊下で佐渡へ行く佐渡汽船の待合室へ向かうとエキスカーションの参加者31名が集まっていた。ジェットフォイルに乗船して50分ほどで佐渡へ渡った。帰りはフェリーで2時間半ほどかかった。岡久さんによると、波が高いと、まずジェットフォイルが出港しなくなり、佐渡には確実に行って欲しいけれど、帰りに波が高くなって本土に戻れなくなるのも困るので、帰り便はフェリーにしたとのこまかい配慮をうかがった。
 ジェットフォイルの隣の席には豊岡市立コウノトリ文化館の栗山広子さんが座っていて望遠動画ができる準備をしていた。コウノトリの採食地や採食行動に関心があるので、トキにもついても同様に採食地と採食行動をしっかり見たいとのこと。
 両津港からチャーターしたバスに乗って宿泊施設であるトキ交流会館へ行った。右側に汽水湖の賀茂湖が広がり、左側の刈跡の水田に数羽のトキが採食しているのをすんなり見ることができた。事前に「トキのみかた」というパンフレットをいただいていた。小型の乗用車はとめて室内から観察することが可能だが、大型のバスをとめると驚くそうなので、わたしにとってトキの初観察だったが、あっという間に通りすぎた。
 トキ交流会館の宿泊する部屋で、畳縁(たたみべり)がトキのデザインであるのに感心した(写真1)。

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写真1 トキの畳縁

 周辺でトキ観察。ねぐらに入る前によくとまる枯木だそうだがその日はとまらなかった。宿舎から歩いてすぐ行ける温泉(新穂潟上温泉)の利用券をいただいたので、さっそくタオルを持って出かけた。
 温泉のすぐ南側には水田が拡がっていて、温泉の窓から飛んでいるトキが見えることもあるそうだ。湯上りで気持ちよい気分で、近くの山林につぎつぎと入っていくトキのねぐら入りを見ることができた。
 18:00夕食をするお迎えのバス2台で両津港の街へでかけた。18:15割烹ふじわら着。なかなかおいしく満足できる夕食だった。あとから持ってこられるお皿もなかなか楽しく、鯛の塩窯焼きが2尾。高木昌興さんら2人が塩を割ったものを頂いた。
 宿に戻って、トキ交流会館の2階の部屋で、永田さんにトキの羽を数タイプ見せていただいた。繁殖羽の黒くなったタイプなど手触りで確認させていただいた。天然記念物であるトキの羽毛を野外で拾って持つことは可能だが、他人に譲ってはいけないとのこと。
 9月18日5:10野生トキのねぐら立ちの観察(希望者だけだがほとんどの人が参加)。どのタイミングで起きてくるか(参加者のほう)で観察内容に大きな差ができた。新潟大の中津弘さんの予測通り5:20頃に「かぁー」と鳴いた後に数羽ずつ飛びだした。中津さんの無線機には別のねぐらで観察している人からの情報が次々と入ってくる。ねぐらに入っていた総計は30羽ほどだった。
 多くは南の水田刈跡に向かってとび、ほかの場所からやってきたトキも含め舞い降りるとほとんど見えなくなってしまった。わたしたちが観察している近くの上空を何羽も飛ぶ際がフォトハンターの腕の見せ所で、撮影できたカラーリングの画像を中津さんに見せて、何番の個体なのかを確認していた。
 朝食は、トキ牛乳とサンドイッチ。永田さんや中津さんらと食べた(写真2)。
 トキ牛乳は、最初は瓶だったらしいが、トキをデザインしたパッケージとなったところよく売れるようになったとのこと(あとでもう少し大きいパッケージを買って、箱を持って帰り、切り抜いて飾ってある)。

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写真2 永田さん中津さん

 今朝までトキを見て、トキが普通に見られるようになった驚きについて永田さんや中津さんに聞く。トキの採食地である多様な生物多様性を保つ水田環境の改善への努力が広く行われており、特にこの近辺は丁寧に行われている。
 中津さんが新潟大の調査チームに入った頃(2012年頃)に、ちょうど山階鳥研からJICA専門家として西安に滞在していた米田重玄さん、中国の環境政策への関心からパンダやトキ保護区をよく訪問している龍谷大学政策学部谷垣岳人さんらとスカイプを通して中国の洋県などの様子についてやりとりをしたことがある。谷垣さんによると洋県にはトキが京都の鴨川のコサギのように群れていると話していたことが印象に残っている。
 8:10宿舎を出発した。まずトキの森公園に向かった。ここはトキと2pまで近づけるという不思議な宣伝をしている。反射鏡の裏から観察をするしかけがある。実際にそのしかけでとても近くでトキの採食をみることができた(写真3)。
 大きなケージの中に巣台があり親2羽と幼鳥1羽が巣台の上にとまっていた。給餌者が入ってきて、地上の餌小屋に餌を置く。その後、観察舎の前の反射鏡の前の池にどじょうを入れる。幼鳥1羽が餌小屋に降りてきて採食し、すぐに観察者の前の池にやってきた。窓は二ヶ所あって、左側の窓からは少し池は離れているが、もう一つの右の窓からは池が接していて水中も見えるしかけになっている。左側の窓から見える小さな池にトキがやってきてドジョウをとる姿をみることができるも驚きだが、しばらくすると右側の窓前に行って、それこそかぶりつき(2pよりは離れていたが…)で採食するトキを観察することができた。

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写真3 かぶりつきトキ

 その後資料館に行った。途中の道にはキンの黄金のレリーフ像の石碑があり資料館の中にはキンの剝製や骨格標本があった。佐渡は2011年6月の世界農業遺産(GIAHS)に「トキと共生する佐渡の里山」として認定された。里山から佐渡中央部に広がる国中平野へ拡がる水田環境をトキの採食環境としてどのように改善していくかについての説明があった。
 資料館中には佐渡のトキ現在地マップがあって、マグネットでトキの個体の現在地を示していた。岡久さんはトキの位置を毎日チェックして全個体の位置が頭に入っているとのことで、マグネットを最新の位置に直していた(写真4)。

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写真4 岡久さんマグネット

 資料館の廊下では近辻道子さんが佐渡トキファンクラブへの加入の呼びかけをしていた。無料のメールマガジンがいただけるとのことなので申し込み、トキの風船などをいただいた。佐渡トキファンクラブは、トキ交流会館に事務所のある佐渡生きもの語り研究所が企画していて、トキの生息環境形成支援につながるさまざまな活動をしている。
 10:00野生復帰センターに向かった。ここでは10月の10周年放鳥式に向けて準備が行われているとのこと。そばにある環境省関東地方環境事務所佐渡自然保護官事務所で若松徹首席保護官によるトキを国として保護する経過、どの時期にどういったことを重点として保護施策をすすめてきたかの講演を聞いた。 
 環境省が国としてトキに取り組む選択をしたことが大きい(種の保存法の希少野生動植物としての対象種としてである)。国の保全戦略計画の対象種となったとしても、手掛かりが少ない状況からの出発だった。
 朝から早かったのできちんとした話は眠気をさそうものではあったが、国の保全戦略計画の対象種となっても、手掛かりが少ない状況からの出発だったことをあらためて理解した。放鳥まではトキの過去の分布から里山の谷津田のような環境を想定した保全計画だったが、2008年の放鳥以降は、トキが佐渡の平野の水田地帯を広く採食地として利用するために、水田をどう生物多様性豊かなものに変えていくか、またそのための農家を支援するシステム、さらに幅広くトキと共生できる社会へと模索していく計画が展開していることが判った。最後に、「いつまで続けるのか」といった各方面からのいろいろな発言を示したスライドも示して、今後の方向については、国民から幅広い理解を得ることが大切と訴えられた。
 そのためでもあるが、多くの来訪者にトキに影響をあたえずにトキの野生の姿をみてもらえる施設にむけての計画も聞いた。棚田のような場所を採食地として利用しているトキの群れを影響を受けない斜面の上から観察できる施設とのこと。
 最後の訪問地である国見荘は、この計画されている施設のイメージを知ることができる場でもあった。国見荘はかつて旅館だったが、現在は許可を得た観察グループのみ利用させてもらえる。広間から斜面下の池のほとりにいるトキの群れを見ることができて、みな満足であった(写真5)。もっと近くの棚田でも採食中の群れをみることができる時期もあるとのこと。
 国見荘は放浪の天才画家山下清の母親山下ふじさんの生家でもあってその関係の展示もあり、説明をしていた本多栄さんから、観察している広間は、明治時代にはじまった人形浄瑠璃の舞台でもあるということを聞き、幕を拡げて本多さんが操っている人形や、牛若丸の場面となる五条の橋の背景の風景を見せていただき、海外公演をした際の話もうかがった。

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写真5 国見荘からのトキ

 わたしたちが見せてもらった範囲は広い佐渡のほんの一区域だったが、佐渡のトキプロジェクトに関し鳥学的に最高のスタッフで短期間に現状を見せていただけた。一方で、トキの採食環境としての水田に関する取り組みや、それともつながる佐渡のさまざまな文化といった部分については改めて訪問しないと判らないと感じた。

再導入活動とは何か?
 私は豊岡のコウノトリについては本格的に再導入がはじまる前から定期的に訪問する機会もあって関心を持っていた。また千島列島へのシジュウカラガンの再導入プロジェクトは、京都の鴨川で越冬するユリカモメがらみで知ったカムチャツカの鳥学者ニコライ・ゲラシモフ氏がカムチャツカで増殖施設をつくって進めたため、深いかかわりができていた。鳥ではないが、現在鴨川では、大阪湾から淀川経由で遡上する海産アユが四条や三条を越えて下賀茂神社あたりでも釣ることができるようにする市民活動が、漁協や研究者、行政との連携で進んでいる。
 これらの諸活動は、再導入の規模、国のかかわりという点ではさまざまだが、共通するものがあるように思う。
 それは、豊岡で数年おきに開催されている「コウノトリ未来・国際会議」の2001年の会(コウノトリの初放鳥は2005年)における基調講演や海外ゲストの発言から得たイメージである。
 なぜトキやコウノトリ、シジュウカラガンは極東の地域からいなくなっていたのか、なぜ海から遡上していたアユは京都の街中まで登って来なくなっていたのか。
 地球環境や生物多様性は無視して、切り分けられた狭い分野の効率を最大化する技術の発展(農業生産、河川管理など)が原因であった。再導入をはかるということは、そのような20世紀型の文明のありかたをどうするかにかかわってくる。
 再導入をはじめるということは、小さな雪だるまを雪の斜面にころがしはじめるようなことである。雪だるまは、斜面を転がる間にどんどんと大きくなっていく。
 雪だるまが大きくなるのはトキやコウノトリ、シジュウカラガン、海産アユの生き物としての勢いのためであり、その分布の拡大や活動を通して幅広くさまざまな分野の人々のかかわりがはじまるためでもある。トキにかかわる活動もこれから10年、20年とどのように展開をしていくのか注目したい。
posted by 日本鳥学会 at 13:25| 大会報告

2018年10月12日

日本鳥学会ポスター賞を受賞して

2018年10月2日
北海道大学理学院 青木 大輔

 この度2018年度大会でポスター賞を頂くことができ、大変うれしく思います。
 私の学会ポスター発表デビューは3年前、ポスター賞が設立された年でした。ポスター賞受賞者の方々を見て、自分もいつか賞を頂けるような研究ができれば、と夢見てきました。そんなポスター賞を受賞できたことを光栄に思います。私の研究はいつも周りの人から「難しい」と言われるので、今回、少しは面白く分かりやすく伝えることができたのかなと思っています。ポスター賞に恥じない様、今後も研究に精進できればと思います。
 本研究は共同研究者の方々無しにはできませんでした。ありがとうございました。また、ポスター賞に選考してくださった委員の皆様、お礼申し上げます。
 ポスター賞の記念品としてmont-bellマウンテンパーカーをいただきました、ありがとうございます。授賞式では青を着ましたが、実際にいただいたのは私の調査のお供であるハスラーと同色のオレンジにしました。来年の調査も捗りそうです。

ポスターの概略
 鳥類はみな集団で生きています。個体は繁殖し、元気な雛を巣立たせることで、集団が維持されます。しかし、海洋島など本来その鳥がいない土地に偶然住むことになった時はどうでしょうか?最初は個体数が少ないと考えられるので、数世代後には集団構成員が皆家族同士になってしまう可能性があります。こうした集団は病気(近交弱勢)が蔓延して絶滅するのではないか?このような集団維持の阻害要因は、理論や外来種の研究から予測されてきました。しかし、生物は自然環境の中で必然的にその土地にいるので、自然集団を用いた研究が必要です。

 私たちに身近なモズは幸運にも、過去数十年に次々と島嶼に集団を形成しました。そのうち小笠原諸島の父島では集団維持に失敗し絶滅しましたが、南大東島では現在も集団が維持されています。遺伝情報は集団構成員の情報を教えてくれるため、この2つの自然集団の遺伝的な比較から、集団維持の阻害要因を探索できると私は考えました。

 結果、絶滅した集団は遺伝構造の劇的変化(ボトルネック)を経験し非常に低い遺伝的多様性をもっていました。一方、維持できた集団は他集団からの移入個体との交雑により多様性が高く保たれていました。また、絶滅集団の個体のみに強い近交弱勢の症状が認められました。遺伝的多様性の違いが近交弱勢の程度に差を生んだことが推察されたのです。

 この結果から低い遺伝的多様性に由来する近交弱勢が、集団維持を阻害する一要因となることを鳥類の自然集団で明らかにできました。これは遺伝的多様性の低下がありながらも近交弱勢を回避するメカニズムが新規集団形成にまつわる進化生態学で重要なことも示唆します。今後はこの多様性の低下と近交弱勢の関係をより直接的に理解できるような研究に発展させたいと思っています。

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小樽市で捕獲されたモズ

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2018年10月09日

日本鳥学会ポスター賞を受賞した感想

慶應義塾大学 清水拓海

 栄誉ある日本鳥学会のポスター賞を頂きまして,誠にありがとうございます.私はこれまで主にアカハライモリの研究をしていたため,今年初めて鳥学会に参加しました.猛禽専門の友人にイモリの研究内容を応用しないかと勧められ,トラフズクのペリット解析に共同で取り掛かったのが始まりです.解析から興味深い結果を得ることができたので,ポスター発表を決めました.受賞を知った時には大変驚きましたが,同時にとても嬉しく感じたのを覚えています.私を鳥の研究の世界に引き込んでくれた友人や,ペリット採取を手伝ってくれた研究室の後輩達,そして意見をくださった先生方のお陰で,ポスター賞を受賞することができました.本当に感謝しています.
 今回参加したことで多くの方と議論することができ,今後の鳥の研究について明確な計画性を持たせることができました.記念品としていただいたmont-bellのジャケットを着て,フィールドワークに出るのが楽しみです.来年度以降も鳥学会で発表できるよう,研究をより一層頑張りたいと思います.
 最後に日本鳥学会2018の運営に携わった方々にこの場を借りて御礼申し上げます.とても有意義で楽しく,多くを学ぶことができた学会でした.

ポスターの概略
 食性は対象となる種の生態的特性を把握するために必須の情報であり,捕食-被食の相互作用の解明は生態学の基礎情報としても有用であると言えます.トラフズクなどの猛禽類は消化しきれない骨などをペリットとして吐き出すことが知られており,これまでにも多くの先行研究があるものの,餌動物の同定には技術と時間が必要でした.また損傷が激しいものや,消化作用によって目視では検出しにくい餌動物もペリットには多く含まれている可能性があります.そこで,近年急速に発展しているDNAメタバーコーディング技術を用いて,ペリットに含まれるDNAから餌動物を網羅的に検出する研究に取り組みました.サンプルには神奈川県で越冬しているトラフズクのペリットを使用しました.
 その結果,実際に捕食していると考えられる餌動物(哺乳綱2種:ハツカネズミ,アブラコウモリ,鳥綱5種:カワセミ,ツグミ,スズメ,ホオジロ,ヒヨドリ)を種レベルで同定することができました.骨や羽から餌動物を同定する技術がなくても,DNAメタバーコーディング技術によって,ペリットから小型哺乳綱,小型鳥綱を網羅的に検出し,種の特定も可能であることが判明しました.
 今後はコンタミネーションなどの課題解決に取り組みます.また,季節や周辺環境によってどのように食性が変化するのかについても,解明していきたいと考えています.

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解析に用いたペリットを吐き出してくれたトラフズク


posted by 日本鳥学会 at 16:59| 大会報告