2016年08月08日

研究オトコと研究オンナの生きざまを考える:ポスター発表のご報告

2016年8月8日
日本鳥学会企画委員会 堀江明香


鳥の研究に限らず、調査・研究は楽しいものです。知的好奇心は調べるほどに膨らんでいき、明らかにできたものの倍ほどの疑問が湧いてくる。そうして続く研究生活は、大変ではあるものの、大きな達成感と充実感をもたらしてくれます。私自身も、迷いを含みつつ、研究者として生きていきたいと希望しているひとりです。

研究者を目指す際に、志を貫くか諦めるか迷う最も大きな理由は「研究者として食っていけるか」分からないことだと思います。しかし、恋愛・結婚などの私生活も、実は研究生活と関連しています。若いうちは研究が最優先課題。自分の繁殖成功度より鳥の繁殖成功度の方が大事、となりがちですが、いざ、結婚や子供を望むようになると、夫婦の同居の難しさや安定収入の問題など、色んな壁が見えてきます。私のように、のんきに構えていて現実に阻まれてから煩悶するのではなく、研究人生を送る上での壁についてあらかじめ知っておけば、少なくとも覚悟をもって人生の選択ができます。

日本鳥学会は「男女共同参画学協会連合会」にオブザーバー参加しており、企画委員が毎年のシンポジウムにも参加していますが、学会員の方への情報提供はまだまだ不十分です。そこで、日本鳥学会2015年度大会において、「ヒト(鳥研究者)における婚姻形態と子育て−忘れられがちなもう一つの人生−」と題したポスター発表を行い、研究者の結婚事情を通して、「研究者として生きる」ことと、その陰に隠れがちな、「一人の男性・女性として豊かな人生を送る」ことの関係性に潜む問題について紹介しました。
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発表時、著者は妊娠8ヶ月。特別に椅子を用意してもらいました(撮影:高田みちよ氏)。

詳細は実際のポスター(下画像をクリック)をご覧いただきたいのですが、内容を大きくまとめると次のようになります。@就職事情には大きな男女差はないのに、既婚率・子供の数には男女差がある、A女性には生物学的な出産リミットがある。研究職についてから出産すれば産休・育休後に職場復帰が可能だが、職より出産が先だと研究に復帰しにくい、B夫婦どちらかに定職がないとそもそも子供をもうけにくい。C性別を問わず、ポストが少ないことが最も根本的な問題。ポストの拡充と出産・育児後の復帰支援が最も重要な課題。

人生と研究者の道のりが山で表されています。

内容が多少刺激的だったこともあり、当日はなんと、98名もの方に聞きに来ていただきました。どんな方が聞きに来てくださったか集計を行ったところ、男性57 名 女性41 名、その内訳は以下のようになりました。

@修士以下の学生で男性:8
女性:8 計16 名
A博士課程の学生で男性:3
女性:2 計5 名
B任期付き研究職の男性:4
女性:2 計6 名
C任期なし研究職の男性:11
女性:3 計14 名
D無給の研究員等の男性:1
女性:4 計5 名
E普及啓発教育職の男性:3
女性:2 計5 名
F調査員等、鳥関係職の男性:18
女性:11 計29 名
Gその他の職業の 男性:9
女性:8 計17 名

もう少し学生の方に聞きに来て頂きたかったですが、やはり多くの学生は研究の方が大切、という、まっとうな姿勢を持っているようです。また、もっと女性が多いかとも思っていたのですが、意外と男性の方が多く、職業別の人数に関しても、おおよそ学会の構成員からまんべんなく聞きに来ていただいたような気がします。何名かの方からは貴重なご意見を頂きました。以下にご紹介します。

*大変たのしいテーマで異彩を放っていました。日本の科学の発展には女性の力は不可欠。生態学と社会学のリンクは大切です(男性)。

*本人の頑張りはものすごくて、とても大変だと思います。大会時に未就学児以上の子の面倒を見てくれるところも必要だと思います。また、お金ももっと下げるか無料にすべきです(女性)。

*女性研究者(現在求職中)、子供1 人、パートナー同業の者です。このような形で性別をこえて意識改革が進むような研究を応援しています。パートナーフェロー等をどんどん増やして頂ければと思います(女性)。

研究オトコとして、研究オンナとして、どう生きたいか。人生で大切にしたいものは何なのか。尽きない問いだとは思いますが、現実に阻まれてからでは動きが取りにくいものです。これから考えていかねばならない学生さんはもちろん(考えたくないのはよくよく分かりますが)、もう年配の方も、オトコとオンナの問題が学会や鳥学の活性化にも影響することを認識して、みんなでよい研究人生を歩むことを目指せればと思います。

発表時にお腹の中にいた私の娘はもう8ヶ月。未完成のハイハイで部屋を探検している娘の横でこの記事を書いていると、無上の喜びと尽きない希望と、大きな焦燥感と研究への思いとが混ざってとても複雑な心境です。現状では、オトコ・オンナとしてのよりよい人生と研究人生の両立には困難を伴いますが、個人として、学会として、国や地方・研究機関の制度として、できることがきっと色々あるはずです。みなさんも、ぜひ一緒に考えてくださればと思います。
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2016年07月26日

鳥の学校で学んだこと

2016年7月26日
中川寛子(鹿児島大学農学部5年)


私は昨年にバンダーの資格を頂き、初めて自分自身で標識調査を進めることになりました。その中で、調査方法や死体の保存など、これで衛生的に問題ないのだろうかとか、調査中に鳥に怪我を負わせてしまったらどうしよう、といった不安が出てきました。調査では研究目的で糞の採取も行っており、サンプルのコンタミを防ぐのはもちろん、研究方法が一般の人に誤解や疑念を与えるようなものではいけません。しかし現実的に何をどうすれば良いのか分からない、そんな折にちょうど鳥の学校でこの講義があることを知り、迷わず参加を決めました。

葉山先生の講義では正しい手洗いの仕方から、使用目的に合わせた消毒液の選択や、死体の処理や送付時の注意点、使用した衣類や器具の洗浄・消毒方法などまさに日ごろ疑問に思っていたことを細かく教えて頂けました。先生が実際に使用されている道具なども見せて頂け、具体的にイメージができ道具をそろえる際の参考になりました。

高木先生の鳥の救護方法は大変興味深く聞かせて頂きました。鳥にも人工呼吸できるなんて考えてもみませんでしたし、捕獲時筋障害という病態があることも初めて知りました。アロンアルファが骨折の治療に使えることは特に驚きでした。救護には丁寧な観察と様々な工夫がなされていることを感じると同時に、鳥の研究をさせてもらっている身として、もっと鳥のことを勉強しなくてはと思いました。

講義の後も調査方法についてアドバイスを頂き、他の参加者の方々のお話も勉強になることが多くたいへん内容の濃い講義で時間があっという間に感じられました。

鹿児島に戻ってから、さっそく感染・コンタミ防止のために調査の後には専用の服をすぐに洗い、鳥袋も個体ごとに替え使用後は洗浄・消毒するようにしました。鳥の怪我にも備えて、アロンアルファと綿棒、止血鉗子なども用意しています。技術など不十分な面もありますが、自分なりに対策や準備をしておくことで、今までの不安がかなり払拭されました。受講して本当に良かったと思います。お世話になった先生方と企画委員の皆様に、心から感謝申し上げます。
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鳥の学校「鳥類調査のための獣医学講座」に参加して

2016年7月26日
小林さやか(山階鳥類研究所)


山階鳥類研究所では研究用の標本を収集しており、その材料となる鳥の死体を受け入れるのが私の仕事で、日常的に鳥の死体を扱っています。死体に触れるだけではなく、解剖することも日常です。さらに自分で扱うだけではなく、窓に衝突したり、交通事故などで死亡した鳥を一般の方々からいただいたりすることもありますし、受け取ったこれらの死体をアルバイトさんに扱ってもらうこともありますので、今までの扱い方を確認するためにも今回参加することにしました。

前半は講師の葉山さんが野生動物の死体の安全な取り扱いについて、後半は高木さんが生きている鳥をケガさせた場合の処置の仕方をお話ししてくださいました。前半の葉山さんの話が私の業務にとっては関心事です。これまで自分たちがしてきた死体の扱い方、マスクや手袋、白衣を身につける、触った後は手洗い、うがい、特に手洗いは入念にする、ことで問題なさそうということが確認できて、安心しました。今まであまり気にしていなかったのが体調管理です。体調が悪いときには抵抗力が落ちているので、健康なときには感染しなくても、体調が悪いときには感染する可能性が高まるので要注意、と葉山さんのお話しにあり、その通りに思いました。皆さんもどうぞご注意ください。

後半の高木さんのお話についても、バンダーとして鳥を捕獲して標識し、山階鳥研の組織サンプル収集の目的で採血もしているので、興味深く拝聴しました。今まで私が見てきたケガした鳥の症状と高木さんのお話を頭の中で照らし合わせながら、「あの症状の時は、こんなことが起こっていたんだ」と納得することも多々ありました。今回、講演のなかで会場の関係で採血などの実習ができないと説明されていて、企画された方々のご苦労もしのばれるのですが、実習や見学がなかったのがちょっと残念に思いました。次の機会に期待したいと思います。
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鳥の学校報告(2015年):第7回テーマ別講習会「鳥類調査のための獣医学講習」

2016年7月26日
企画委員会(文責:吉田保志子)


鳥の学校−テーマ別講習会−では、鳥学会員および会員外の専門家を講師として迎え、会員のレベルアップに役立つ講演や実習を行っています。第7回は「鳥類調査のための獣医学講習」をテーマとして、2015年度大会の初日(9月18日)、兵庫県立大学神戸商科キャンパスで行われました。講師は、会員であり獣医師である高木(林)英子氏と葉山久世氏に担当いただきました。受講者は45名でした。

最初の講義は、葉山氏による「捕獲調査・サンプル採取・救護における衛生的な取り扱い 〜自分と周囲の人の安全を守り,他に感染症などを広げないために〜」で、捕獲、傷病鳥獣の世話、解剖、サンプリング等の、生体や死体を扱う、人獣共通感染症のリスクが伴う活動における衛生対策の知識と考え方について説明されました。実際の調査やボランティア活動等を想定した、危険度に応じた防護方法の例や、家庭用の塩素系漂白剤など身近で入手できる資材を使った実践的な対策方法も紹介され、受講者は自分が行っている活動と引き比べて理解を深めていました。

次の講義は、高木(林)氏による「現場でできる野鳥救護法 〜鳥の体の構造、現場で起こりうる事故や病気の概要とその応急処置法〜」で、捕獲調査において起こりやすい事故について、鳥の体の構造に基づく発生理由と対処・治療の方法について、豊富な事例や写真を用いて詳しく説明されました。鳥の種類に応じた安全な保定方法、輸送時の収容方法、給餌方法などについても、獣医師が用いる手法が詳しく説明されました。事前アンケートで希望が多かった、鳥の採血の手技については、動画を用いた説明も行われました。受講者からは、専門的な内容を具体的な説明で知ることができ、自分の活動に役立ちそうという意見が多く寄せられました。

消毒薬や衛生資材等の実物も展示され、2つの講義の終了後には、受講者はそれらを手にとりつつ、講師を囲んで自由な質疑が行われました。
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講師のお二人からは、講義で使われたスライドを公開用に提供いただきました。当日の講義内容と、ほぼ同じものとなっています。野生動物の生体、死体、サンプルなどを扱うとき、自分や周囲の人の安全を確保するには具体的にどうしたらよいのか、鳥になるべく負担をかけない取り扱いや、鳥を傷つけてしまったときの対処方法など、当日参加されなかった方も、講義スライドからぜひ知識を得てください(上記文中の講義タイトルをクリック)。

受講者のなかからお二人が参加レポートを寄せてくださり(鳥の学校「鳥類調査のための獣医学講座」に参加して鳥の学校で学んだこと)、ご自分の仕事や研究との関わり、ためになった点などについて詳しく書いてくださいました。

なお、今年の鳥の学校−テーマ別講習会−は、2016年度大会の終了翌日の9月20日(火)に、「鳥類研究のためのGIS講習」を行います。鳥類の研究において、近年よく用いられるGIS(地理情報システム)について、無料のソフト「QGIS」を中心に、その基本的な使い方から応用例まで、専門家に詳しく解説していただきます。会場は、大会が行われる北海道大学札幌キャンパスから近い、酪農学園大学です。詳細は2016年度大会のサイトでお知らせしています。申し込み締め切りは2016年7月31日(日)です。
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2016年04月06日

日本鳥学会2014年度大会自由集会報告:カモ科鳥類と水草の関係性を探る

2016年4月6日
世話人:渡辺朝一・神谷要


1999年より「東アジア地域ガンカモ類重要生息地ネットワーク」の活動を支援する鳥学研究者のグループを設立し、毎年の鳥学会大会時に自由集会を開催して参りました。

2014年は、立教大学においてIOCと合わせて開催された大会にて、8月22日、18:00〜20:00に「カモ科鳥類と水草の関係性を探る」と題して渡辺朝一、神谷要の2名が企画者となって開催致しました。

当日は20名ほどの皆さまにご参加をいただきました。この集会の要旨は、今までの集会の内容とともに以下のURLに掲載されております。是非ご参照ください。

http://www.jawgp.org/anet/jgprop.htm

演題1:リュウノヒゲモとコハクチョウのもちつもたれつの関係(神谷要/(公益財団法人)中海水鳥国際交流基金財団)
汽水性沈水植物のリュウノヒゲモ(Potamogeton pectinatas L.)については多くの研究があり、水鳥から見た餌資源としてだけでなく、種子分散について鳥類の貢献に関する様々な報告がなされている。特に米子水鳥公園では、水鳥の糞に中にはリュウノヒゲモの種子が含まれており、その種子分散布に水鳥が大きく関与していると考えられている。

種子散布には、風散布、水散布、自発散布、重力散布、動物散布(付着)(周食)などがあり、リュウノヒゲモの種子散布に関しては、動物散布(周食)についての研究が多くある。

鳥類の動物散布(周食) について小鳥の研究では、種子を食べてから排泄までの時間が大変短いことが知られているが、ガンカモ類の場合、体内滞留時間が8時間〜20時間程度という報告が多くある。この時間があれば、カモ類は近年の渡りの発信機調査により、100`以上の移動を行うことが知られている。

また、リュウノヒゲモの種子は、食べられることによって発芽率の上昇が起こることが知られており、水草の散布にカモ類が貢献していることが予想されている。
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<リュウノヒゲモの結実数と水鳥の糞中の種指数、水鳥の飛来数密度(2007年米子水鳥公園)>


演題2:マコモとガン/ハクチョウ類の複雑な関係(渡辺朝一/さいたま市)


さまざまな水草の種の中にも、特に水鳥に好んで採食される種と、あまり採食されない種がある。その中でイネ科に属する大型の沈水植物であるマコモ(Zizania latifolia L.)は、その地下茎が越冬期のガン・ハクチョウ類の重要な食物となっている。マコモの、ガン・ハクチョウ類の食物としての特徴として、地下茎への被食に対して耐性があること、水深が深い場所では被食を受けた株が流出して群落が攪乱を受けること、水深が浅い場所(渡辺の調査地であった茨城県菅生沼)では被食を受けて地上部が旺盛に成長すること、がある。
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<コハクチョウの食圧を受けたエリア(Outer)と受けないエリア(Inner)のマコモ地上部現存量の差>

水鳥と水草の関係性を巡っては、日本での研究例は少なく、未解明の課題が多いのが現状です。今後の更なる発展が期待されるテーマです。
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2015年11月30日

第6回黒田賞をいただいて〜私の垣間見た「考古鳥類学者」黒田長久博士〜

2015年11月30日

北海道大学総合博物館

江田真毅


今回、このような名誉ある賞をいただき身に余る光栄です。ことあるごとに「考古学者」をアピールしていろいろなものから逃げてきた私がいただいて良い賞なのか?正直、今でも疑問に思っています。が、日本鳥学会の懐の深さに甘えさせてください。改めて関係者の皆さまに厚く御礼申し上げます。

「考古鳥類学」という言葉は今回の受賞講演にあたって作った造語です。遺跡から出土した鳥骨から鳥類の生態を復原できること、そして復原された生態は分類や保全の研究にも生かしうることを認識していただきたいとの想いからでした。今回、私がこの賞をいただけたのは「遺跡資料を用いた鳥類学」という目新しさに起因するところが大きいものと思います。

しかし、日本における「考古鳥類学」の歴史はそれほど新しいものではありません。実は、黒田賞にお名前が冠されている黒田長久博士は遺跡から出土した鳥骨を分析した論文を執筆されており[1]、日本海におけるアホウドリの分布などについて考察されています。さらに、この論文は日本の考古学にも大きな足跡を2つ残しています。受賞講演でも少し触れましたが、私は黒田博士が逝去された後に畏れ多くもこの2つの足跡を再検討させていただきました。そして、同じ資料を分析することを通じて、黒田博士を垣間見てきました。

足跡の1つは、日本最古のニワトリの骨を同定されたことです。ともに壱岐島に所在する弥生時代中期〜後期(今から約2,000年前)の遺跡である原の辻遺跡と唐神遺跡。両遺跡から出土した鳥骨を分析されたのが黒田博士でした。博士はこれらの資料群中にアホウドリやウミウ、オオミズナギドリなどとともにニワトリの骨を見出し、報告していました。

ニワトリの初期の拡散史を研究する中で、私はキジ科の骨標本を多数調査して同定基準を作成し、実際に黒田博士が分析されたニワトリの骨も再検討しました[2]。結果は、哺乳類の肋骨が1点混入していたのを除けば、黒田博士の同定を支持するものでした。
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再検討した原の辻遺跡および唐神遺跡出土の鳥骨が包まれていた新聞紙

黒田博士が資料を分析された当時、国内の鳥類の比較骨標本は現在よりも著しく少なく、また遺跡からニワトリが出土した例はほとんどありませんでした。このような状況下で、キジ科のごく限られた標本と比較して種間の形態差を見出し、遺跡出土骨をニワトリと同定された黒田博士。その観察眼は目を見張るものがあります。今日では考古学界の定説となっている弥生時代におけるニワトリの日本への導入。その根拠となっているのは、紛れもなく黒田博士の同定したニワトリの骨なのです。

もう1つの足跡は「鵜を抱く女」の「鵜」の同定です。「鵜を抱く女」は山口県下関市豊北町(当時の豊浦郡神玉村)の弥生時代の墓地遺跡、土井ヶ浜遺跡から出土した1号人骨の別名です。この女性人骨が「鵜を抱く女」と呼ばれる由縁は、胸部から出土した鳥骨が黒田博士によってウミウの雛と同定されたことでした。女性人骨は「鵜」を伴って埋葬されたシャーマンとみなされてきました。2013年度末にこの遺跡の発掘調査報告書が刊行されることになったとき、この「鵜」の骨も再検討されることになりました。白羽の矢が立ったのは私でした。

結論から言えば、1号人骨に伴って出土した鳥骨が何の骨なのか、私には特定できませんでした[3]。ただし、ウ科の骨も幼鳥の骨も資料中に含まれてはいないことは分かりました。さらに、動物考古学的なアプローチから、黒田博士が前提とされていた人骨に伴って埋葬された1個体の鳥に由来するという点にも疑問が生じました。

1個体の鳥に由来するという前提と十分な比較標本がないという制約の中、著しく骨表面の風化が進んだ骨を分析された黒田博士。特徴の一致しない骨が資料中に含まれることや比較標本が足りないことなどが論考中に記されており、苦心の跡が読み取れます。その後、結果のみが一人歩きして定着していった女性人骨の「シャーマン」としての位置づけや「鵜を抱く女」という別称。黒田博士はどのようにご覧になっていたのでしょうか。私の知る限り、1959年の論文以外に黒田博士が手がけた考古資料の分析はありません。その意味するところは一人の「考古学者」として今一度考え直すべきことと思っています。

黒田博士が十分な比較標本がない中で考古資料を分析した論文を執筆されてから、すでに55年以上が経過しました。今日までの日本の各博物館における学芸員の皆様のご努力を否定する意図はまったくありませんが、残念ながら鳥類の骨標本のコレクションはアメリカやイギリス、ドイツといった国々のものに比べて非常に少ないこともまた事実です。縁あって、私は大学博物館に職を得ることができました。担当は考古学です(本当です!)が、スタッフの不足のおかげ(?)で脊椎動物のコレクションも管理できる立場にあります。今後、次代の考古鳥類学者が比較骨標本の不足に悩まされることのないよう、精力的に骨標本を収集していきたいと考えています。

・・・そして何の因果か、来年度の鳥学会は北大で開催されます。私は、例によって「考古学者」をアピールして逃げようと画策していたのですが、事ここに至っては逃げ切れそうにないと覚悟しています。黒田賞受賞をお祝いして下さった皆さんからいただいたインディ・ジョーンズ公認のカウボーイ・ハットを被って(!?)、大会運営をお手伝いしていきたいと考えています。
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お祝いとしていただいたカウボーイ・ハット(インディ・ジョーンズ公認)を樋口広芳先生に被せていただく筆者(三上修氏撮影)

来年9月、皆様の札幌へのお越しを心待ちにしています!!

[1] 黒田長久 1959 「壱岐島及び山口県から出土の鳥骨について」日本生物地理学会会報 21:67-74
[2] 江田真毅・井上貴央 2011 「非計測形質によるキジ科遺存体の同定基準作成と弥生時代のニワトリの再評価の試み」動物考古学28:23-33
[3] 江田真毅・井上貴央 2014 「土井ヶ浜遺跡1号人骨に伴う鳥骨の再検討について」『土井ヶ浜遺跡 第1次〜第12次発掘調査報告書 第3分冊 特論・総括編』下関市教育委員会・土井ヶ浜遺跡・人類学ミュージアム、pp137-146
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2015年11月02日

日本鳥学会2015年度大会自由集会報告:カワウを通じて野生生物と人との共存を考える(その18). − 河川における生息地環境管理 −

2015年11月2日
カワウワーキンググループ  
世話人 加藤ななえ (バードリサーチ)


カワウワーキンググループでは、1998年に北九州大学で開催された鳥学会大会から毎年継続して自由集会を企画し、新しい研究成果も盛り込みながら、カワウの保護管理の現況を鳥学会会員に提供してきました。2010年からは、マネージメントの3本柱である「被害対策」、「個体数調整」、「生息環境管理」をテーマとして取り上げることとしました。当時は鳥類では初めてカワウが対象となった「特定鳥獣保護管理計画技術マニュアル」が作成されてから7年が経ったところで、その後、このマニュアルは「特定鳥獣保護管理計画作成のためのガイドライン及び保護管理の手引き」として2013年に改訂されました。この企画は、間にいくつかのテーマを挟んだことで5年かかってしまいましたが、今年で完結します。今回はこのシリーズの最後のテーマです。カワウと人との共存を視野に入れた「河川における生息地環境管理」について、山本麻希さんと徳島から浜野龍夫さんをお迎えして、おふたりに話題を提供していただきました。


A:粗朶(そだ)を使った魚の隠れ家とは?
山本麻希(長岡技術科学大学)

「粗朶」とは、広葉樹の間伐材の枝を束ねたもので、北陸地方にはこの粗朶を用いて河川の護岸や河床の洗掘を防ぐ伝統工法があります。

カワウの遊泳速度は多くの川魚よりも速いため、コンクリート護岸されて魚にとって逃げ場のない河川環境下では、カワウによる魚への捕食圧はかなり大きくなります。このため、「魚の隠れ家」の提供は、魚にとってカワウの捕食を免れる機会を増やすことに繋がることから漁業被害の軽減にむけた対策として効果があるのではないかと期待されます。

これらを検証するために、粗朶沈床と木工沈床を組み合わせて作った魚の隠れ家(図)を、新潟県を流れる魚野川中流域に設置し、@隠れ家の物理的な強度や土砂の堆積状況、A魚の利用状況、Bバイオマスを増加させるか?について調査をおこないました。

結果です。
@急流では隠れ家が崩壊し、流れが緩いと埋まってしまう。
A 多用な魚種が隠れ家周辺で確認された。
B 流速の早いところでは底生生物の蝟集効果が高く、隠れ家があることでバイカモなどが繁茂する。
また、カワウの死体を隠れ家の近くを通らせてみると、魚が素早く隠れ家に入ることを観察することができ、魚の忌避反応も確かめられました。
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(図1)魚の隠れ家平面図


B:「水辺の小さな自然再生」でカワウと共存
浜野 龍夫(徳島大学)

「水辺の小さな自然再生」とは、生きものにやさしい水辺づくり活動のことです。ここでは次のような点に留意する必要があります。
(1)自己調達できる資金規模であること。
発案者や実施する団体が資金を調達できる範囲である。メンバーが無理なく(あるいはちょっと無理をして?)供出できる範囲のもの。大富豪がいればラッキーかも。
(2)多様な主体による参画と協働が可能であること。
みんなに発案チャンスがあり、ちょっとだけ手伝う人、がっちり参加する人など多様な関わり方がある。
(3)修理とか撤去が容易であること。

筋書き通りにできないことも多く、やってみないとわからないこともあるので。

たとえば、川底に浅い穴を掘ってそこに石を山のように積み重ねた「石ぐろ」を作ります。もとはウナギを獲るための漁法のひとつなのですが、カワウの食害を防ぐ方法として利用できるのではないかという意見が後押しとなり、平坦な河床に起伏をつける「小さな自然工法」として期待が広がってきました。

このような小さな工法は、地元の関係者を結びつけるだけでなく、すこぶる後味が良いワクワク感を得ることができるのです。
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(図2)水辺の小さな自然再生事例集


山本さんと浜野さんにはそれぞれの現場で多くのご苦労があったはずですが、その語り口からは、「楽しい!」「ワクワクする!」という気持ちがたくさん伝わってきました。
今回の自由集会の参加者は65名でした。なお、私事ではありますが、今回をもって私はカワウの自由集会の企画運営から卒業いたします。これからは若い方々が新しい発想でこの集会を継続されていくことを期待します。今までありがとうございました。
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(図3)会場のようす
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