2017年06月15日

違いを作り出す科学

2017年6月14日
ケンブリッジ大学動物学部
天野達也


「明日、リュックサックを持って海外へ行け」

とは、サッカー選手の本田圭佑氏がテレビ出演した際に、Jリーガーに向けて言ったとされる言葉です。私は直接見てはいないのですが、インターネットによると、「日本にいると分からないことがあるから」という理由がその後に続けられています。

研究者とサッカー選手のようなプロスポーツ選手には、いくつか共通項があるように思います。どちらも自分の能力に頼ってその道を追求していく点、日本でも海外でも活躍する場がある点などです。それではこの「明日、リュックサックを持って海外へ行け」というメッセージは、研究者にもそのまま当てはまるメッセージなのでしょうか?もしそうであればどういった理由があるのでしょうか?

実はこの問いは、私自身も時々日本で意見を求められる内容でもあります。
「やっぱり海外での研究経験は積んだ方がいいでしょうか?」
「海外に行ってどんなことがよかったですか」
等々、聞きたくなる気持ちは私にもよく分かります。誰しも海外での研究経験に何かプラスがありそうだとは思うでしょう。ただ同時に多くの人にとって、直感だけではなかなか海外に行くという決心はつかないかもしれません(直感で決断できる人は明日海外に行ってください)。特殊な言語を話すほぼ単一民族の島国で生まれ育った日本人にとって、海外へ出ていくというのは必然的に大きな挑戦となります。海外に行くとどんないいことがあるのか、それが少しでも分かれば、そんな挑戦をするための後押しになるかもしれません。

とは言うものの、正直なところ私は「海外での研究は以下の**個の利点があるから今すぐに行くべき!」といったような文章を書くことにはかなりためらいがあります。というのも確かに私は現在イギリスという「海外」で生活して研究をしていますが、私の経験はとても限られたものだからです。海外でどんな経験をしてどんな研究ができるかは、地域、国、都市、そして所属機関によって大きく異なるでしょうし、感じることや考えも時が経つにつれて変わっていくでしょう。そんな中で自分の経験と私見を一般化する勇気は私には到底ありません。

しかしながら、まぁそんな固いことは考えずに今自分が考えていることを文章にするのも何かの足しになるかなという気持ちが半分と、鳥学会の広報委員としてほとんど仕事ができていないという個人的な罪滅ぼし半分で、こちらに来て得ることができたと思うものについて、最近感じていることを書きたいと思います。できれば他に海外での研究経験がある方や、または全く経験がない方からもご意見を聞いてみたいとも思います。


イギリスに住むようになってから頻繁に聞くようになったものの、それまではあまり聞きなれなかった英語のフレーズというものが多々あります。そのひとつが

“make a difference”

というフレーズです。直訳すれば、「違いを作り出す」、より正確には、「人や物事に重大な影響を及ぼす」「既存のものを変化させる」「影響を及ぼして改善する」といった意味合いが全て含まれるような、便利なフレーズでもあります。日本語でも、例えば特別な才能をもったサッカー選手のことを、「違いを作ることができる」などと表現することがありますが、この英語フレーズの影響なのではないかと思っています。

私は今、ケンブリッジ大学にあるDavid Attenborough Buildingという生物多様性保全に関わる人々が多数集まっている研究拠点に所属して、保全科学を専門とした研究を行っていますが、この建物の中でもこの“make a difference”というフレーズは頻繁に利用されています。そしてこの短いフレーズに、ここに来てから学んだ大きなことが凝縮されているのではないかと感じているのです。

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David Attenborough Building

少し前の話になりますが、昨年末に“Languages are still a major barrier to global science”という論文を発表しました。この論文のメッセージは、言語が科学、特に生物多様性保全のような環境科学の発展や活用に対して、二つの側面で「障壁」になっているということです。

言うまでもなく英語は今や科学者にとって世界の「共通語」ですが、実際には世界中で英語以外の言語で書かれた学術文献も毎年数多く出版されています。これら「非英語」の学術文献はその言語を理解する人々以外にとって、つまり国際的には、言語の障壁によって「目に見えない」科学的知見として埋もれていることになります。一方で、英語を母語としない人々が科学的知見を(例えば自身が住む地域で行われる保全活動のために)利用したいと考えても、世界の多くの重要な知見が英語で発表されている現状では、やはり言語の障壁がその利用を妨げていると言えるでしょう。この論文には日本語の要旨も付録されていますので、興味を持たれた方はこちらをご一読いただければと思います。

これらの問題は、日本人であれば誰でも当然のように知っている事実だと思います。日本語で発表されている多くの有用な論文は、国際的には陽の当たる機会がなかなかありません。また多くの日本人にとって、英語の文献を読むことは日本語を読むように容易ではありません。こういった問題はもちろん私自身、海外に渡航する前から常々感じていることでありました。しかし、この問題について今回こうやって論文として発表することができたのは、海外に拠点を移したからこそだと思うのです。

そう考える理由のひとつは、単純にこの論文を書くにあたって必要だった情報へのアクセスという側面からです。

この論文では、学術論文の発表数が多い16の言語について、生物多様性保全に関わる論文の出版数と関連した雑誌を調べているのですが、当然のことながらその過程で各言語を母語とする研究者の協力を得ることが不可欠でした。スペイン語やポルトガル語、中国語のみならず、トルコ語やペルシャ語からポーランド語まで、果たして全ての言語の話者がそう簡単に見つかるのだろうかと思っていたのですが、自分でも驚いたことにその多くはこれまで6年間ケンブリッジに滞在していた間に出会った知り合いの中から簡単に見つけることができたのです。ポルトガルやメキシコ、コロンビアから来ていた学生、解析の相談にのったドイツ人の学生、トルコから来たポスドク、オランダ人やポーランド人の訪問研究員、学会で知り合ったイランからの学生、中国の共同研究者等々、公私にわたってこれまで関係を築いてきた彼ら彼女らは、連絡を取ると私からの要望に快く協力してくれました。出不精の私がこれだけ多くの人とつながってこられた理由は、世界中から様々な人が訪れては去っていく、ケンブリッジという大きな研究拠点に滞在しているからに他ありません。

そしてもうひとつ、より重要だと思うのは、自分自身の中にある科学に対する態度の変化(手前味噌ながら成長、といってもいいかもしれません)でした。

こちらに来るまで、私は生物多様性保全に対して科学者が果たすことのできる役割をかなり懐疑的に、むしろ諦めにも近いような気持ちで、見ていたように思います。保全生物学者としていろいろな研究はできる。しかしその研究が対象とした種や生態系の状態を改善していくために本当に貢献できるかと言うと、正直言ってそれはまた別の問題、と割り切っていました。

ケンブリッジに来てから、文字通り浴びるように多くの研究者の言葉を聞き、また直接言葉を交わすようになってから、その考えは徐々に変わっていきました。ここには本当に多くの研究者が世界中からやってきます。学生やポスドク、研究室主宰者として所属するために、セミナーで話をするためやサバティカル期間中に、また様々な形の訪問研究員として、国内外の研究者がひっきりなしにやってきます。いわゆる「優秀な」研究者、多くの論文を著名な雑誌に発表しているような研究者にも数多く会ってきました。しかし、その中で話を聞いて、話をして本当に心を動かされるのは、“make a difference”というフレーズを本当に体現している人、より具体的に言うならば、保全科学の分野では「世界」(この場合、地球全体という意味の世界だけに限らず、対象とする系とか社会といった意味ですが)をよくするために本当に変えようとしている人だと気付くようになりました、

例えば渡英後ずっと研究室に受け入れてくれているSutherland教授は、議論の端々で、「solution(解決策)は何だろうか?」と聞いてきます。生物多様性保全に対して科学的な貢献を目指すためには、問題を提起するだけではなく、具体的な解決策まで提示して、実際に世界をよりよくしていかなければならない、そういった姿勢を常に感じます。彼は以前、ある学会のために寸劇を作ったことがあるそうです。それは「舞台上である人が突然倒れ、多くの医者が駆けつけるが、皆で倒れた人がどれだけ長生きすべきだったのかを研究する方法を議論するばかりで、誰もその人を蘇生させようとしない。」というもので、彼なりに今の保全に関わる科学の問題点を指摘しているものでした。そんな周囲の研究者の姿勢に感化され、私ももっと真正面から世界の現状をよりよくしていくための科学を追求していっていいのだと気付かされました。

そうやって考えた時に、生物多様性保全のための科学は、生物を見ているだけの保全生物学だけでは必ずしも「世界に違いを」もたらすことができず、良くも悪くも今や地球環境の命運を握っている人類自身の動態や行動、意思決定も見ていかなければならない、そこまでを含めて「保全科学」と呼ばれているのだということを、身をもって理解することができました。

同時に、目も眩むような能力や実績を備えた研究者があふれている中で、どうすれば自分も保全科学の世界で、そして実際の生物多様性保全に対して貢献ができるのだろうかと、必死に考えるようになりました。その結果たどり着いたのが、保全科学における「情報のギャップ」という問題でした(詳しくはこちらの論文を参照)。

このように自分の研究に対する姿勢が大きく変化して、その姿勢や問題意識を初めてひとつの形とすることができたのが、今回の論文でした。そういった意味でもこの論文は自分にとっても特別な論文で、これを機会に今後も自分ひとりの力は微力ながら、常に“make a difference”を目指した研究を志していきたいと思います。

もちろん「違いを作り出す科学」が海外でないとできないと言いたいわけではありません。ただ私にとってはこのように自分の研究に対する考えが変わったことが、そして端的に言えばこの論文を書けたことが、今感じる海外に来たことの大きな利点のひとつだったと思うのです。他にも「明日、リュックサックを持って海外へ行け」に私が同意する理由はいくつかあるのですが、それについてはまた機会があればということで、この文章はここまでとしたいと思います。
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2017年05月14日

愛のことばはステップで −青い小鳥のタップダンス−

2017年5月8日
北海道大学大学院理学研究院生物科学部門
理学研究院研究員 太田菜央

鳥にとって,音は非常に重要なコミュニケーション信号の1つです.ある時は美しい歌(さえずり)によって異性を惹きつけ,ある時は警戒声を出すことで捕食者から身を守ります.これらは私たちのおしゃべりと同様,「発声」によっておこなわれるコミュニケーションです.しかし一部の鳥類では,ヒトが手を叩いたり楽器を演奏するように,発声以外のユニークな方法で音を発し,コミュニケーションをおこなっていることが知られています.

私は北海道大学で博士後期課程在学中から現在まで,相馬雅代准教授の研究室にてルリガシラセイキチョウ(英名Blue-capped cordon-bleu,学名Uraeginthus cyanocephalus)と呼ばれる小鳥の求愛行動に関する研究をおこなってきました.その中で,ルリガシラセイキチョウがまるでヒトのタップダンスのような動きで足から音を出し,異性にアピールしていることを発見しました [1, 2].

その動画は以下のリンクからご覧ください(リンク:ルリガシラセイキチョウの求愛行動,national geographicより).はじめにオスの動画が出て,後半にメスの動画が流れます.

ルリガシラセイキチョウは漢字で「瑠璃頭青輝鳥」と書きます(以下,簡略化のため「セイキチョウ」と呼ぶことにします).その名の通り,コバルトブルーのような鮮やかな青色が特徴の小鳥です.オスの頭が特に青く(=瑠璃頭),メスの羽装はオスに比べると全体的に少し地味です.野生ではアフリカに生息する,体重10グラム前後の非常に小さな鳥です.セイキチョウは求愛行動として,オスとメスの両性が巣材(羽根や植物の繊維など)をくわえ,ジャンプを繰り返しながらその間に何度か歌をうたいます.
セイキチョウの求愛行動を観察する過程で,ジャンプの着地時にパチンと大きな音を出していることに気づきました(図1a, b).小鳥がただ小さくジャンプしているだけにしか見えないのに,このような大きな音が出るのはとても不思議で,何か人の目には捉えることのできない動きが隠されているのではないか,と考えるようになりました.そこで求愛時の微細な動きを捉えるため,通常のカメラに加えてハイスピードカメラを用いて撮影を行いました.私たちが使用したハイスピードカメラは,通常のカメラ(1秒30コマ)の10倍のコマ数(1秒300コマ)で動きを捉えることができます.
撮影の結果は,先のビデオでもご紹介した通りです.人の目では一度ジャンプしただけのように見える動きの中に,足をバタバタと何度も止まり木に叩きつけ,ステップを踏むような高速運動が含まれていることが明らかになりました(図1c).この運動が,ジャンプ着地時の大きな音の産出につながっていました [2].


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図1 (a) 求愛時のソナグラム(声紋).歌っているとき以外にも,ジャンプ時に音がでているのがわかる.(b) ジャンプ着地時のソナグラム拡大図.(c) 1一回のジャンプ中の足の動き.

セイキチョウの求愛行動の不思議
セイキチョウの求愛行動は,その見た目自体がただ面白いだけでなく,コミュニケーション行動を研究する上でも興味深い点がいくつもあります.

第一に,オスとメスの両性がこの求愛行動をおこなうことです.そもそも派手で複雑な求愛行動は,産卵や子育ての負担が大きいメスがオスを選り好みすることで,オスの特徴として進化したと考えられてきました.例えばキガタヒメマイコドリのオスは,羽根をこすりあわせることで音を発します[3](リンク(Cornell Lab of Ornithologyより)).彼らは求愛の歌をうたわず,メスのみが子育てをおこなうことから,歌の代わりにメスを惹きつける手段としてこのような複雑な行動を獲得したと考えられています.
一方セイキチョウは社会的一夫一妻制で,両親で子育てをします.雌雄が求愛行動をおこなうことと,複雑な歌がうたえるという点においてもキガタヒメマイコドリとは対照的です.セイキチョウのダンスについて個体毎に比較してみると,個体によって1ジャンプあたりに踏めるタップ回数にはばらつきが見られました(図2).しかし顕著な性差は見られず,オスもメスも同じくらい複雑な求愛行動をおこなっていることが分かりました(図2).

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図2 ステップ回数の個体間変動

またもう1つの独特な点として,歌に付随する行動(巣材をくわえてタップダンスをすること)がコミュニケーションに重要な役割を担っている,ということが挙げられます.例えば相手が近くでダンスを見ているときにより多くのステップを踏み,歌っているときはそうでないときに比べてステップ回数を減らすなど,状況に応じた行動調節が見られることがわかりました (図3).これらの行動の機能に関しては今後詳しく検討する必要がありますが,自身の状況や相手の様子に合わせてダンスを調節することは,より効率的かつ円滑なコミュニケーションに寄与しているようです.

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図3 1 (a) ダンスをする個体が歌っているかどうかと(b) パートナーが同じ止まり木にいたかどうかによるジャンプあたりのステップ回数の変化.線でひいた部分が個体内変動を示す.黒丸がオスで白丸がメス.

鳥類のコミュニケーションはまだまだ謎だらけ
セイキチョウが属する鳴禽類カエデチョウ科の鳥類では,オスの求愛歌について多くの研究がなされている一方,歌と同時におこなわれる行動に関する研究は少ないです.しかし近年では,キンカチョウやコトドリの求愛ダンスが歌の決まった部分に振り付けられていることが報告されており[4,5],視覚と聴覚の両方を介したコミュニケーションの重要性に注目が集まりつつあります.セイキチョウがなぜ歌に加えて巣材やタップダンスによる求愛をおこなうのか(しかも雌雄で)を調べることで,視聴覚コミュニケーションの機能と進化を理解する一助となると考えています.
また,ルリガシラセイキチョウ以外のカエデチョウ科鳥類でも,歌以外のユニークな求愛をおこなうことが知られています.ルリガシラセイキチョウの近縁種(red-cheeked cordon-bleu)も雌雄でタップダンスをおこないますし(図4,[1]),文鳥では雌雄がくちばしをこすることでパチパチと音を出すことが報告されています (図4,[6]).鳥たちのコミュニケーションには,私たちが気付けていない面白い側面がまだたくさん隠されているのかもしれません.もしかするとあなたの家の小鳥や近所の野鳥達も,思いもよらない方法で愛をささやきあっているかも?

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図4 (a)ルリガシラセイキチョウとよく似たタップダンスをおこなうred-cheeked cordon-bleu.ダンスをしている頰の赤い個体(左)がオス.(b) 仲良く並んだ文鳥の写真.

参考文献
[1] Ota, N., Gahr, M., & Soma, M. (2015). Tap dancing birds: the multimodal mutual courtship display of males and females in a socially monogamous songbird. Scientific reports, 5, 16614.
[2] Ota, N., Gahr, M., & Soma, M. (2017). Songbird tap dancing produces non-vocal sounds. Bioacoustics, 26(2), 161-168.
[3] Bostwick, K. S., & Prum, R. O. (2005). Courting bird sings with stridulating wing feathers. Science, 309(5735), 736-736.
[4] Dalziell, A. H., Peters, R. A., Cockburn, A., Dorland, A. D., Maisey, A. C., & Magrath, R. D. (2013). Dance choreography is coordinated with song repertoire in a complex avian display. Current Biology, 23(12), 1132-1135.
[5] Ullrich, R., Norton, P., & Scharff, C. (2016). Waltzing Taeniopygia: integration of courtship song and dance in the domesticated Australian zebra finch. Animal Behaviour, 112, 285-300.
[6] Soma, M., & Mori, C. (2015). The songbird as a percussionist: syntactic rules for non-vocal sound and song production in java sparrows. Plos one, 10(5), e0124876.
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2016年10月06日

喧嘩のあとにはフォローが大事 〜セキセイインコのなかなおり〜

2016年10月4日
京都大学 物質―統合システム拠点(iCeMS)
科学コミュニケーショングループ
特定研究員 一方井祐子


突然ですが、友人と喧嘩してしまったらどうしますか?ごめんなさいと頭を下げたり、握手をしたり。ハグをしたりする人もいるかもしれません。では、喧嘩に負けてしょんぼりしている友人を見かけたら?肩をたたいて「元気出せ!」といったり、黙ってご飯に誘う人もいたりするかもしれません。

前者の行動は「なかなおり」、後者の行動は「なぐさめ」と呼ばれる行動です。私たちの研究 [1] によって、じつはセキセイインコもこれらの行動をするらしいということが分かってきました。

セキセイインコはおもしろい
私はセキセイインコ(図1)の視聴覚コミュニケーションを研究してきました。ペットとして広く知られているセキセイインコですが、ヒトによく似ているところがたくさんあることはご存じでしょうか。一夫一妻を長く続けるところ。オスとメスの両方が子育てに関わるところ。鳥類にはめずらしく、オスよりもメスの方が攻撃的(!)というところも面白いところです。

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図1 セキセイインコ

セキセイインコ同士であくびが伝染すること [2]、セキセイインコの発声パターン(=コンタクトコール)が群れやつがいで似てくること(e.g. [3][4])も報告されています。これらの行動もヒトとよく似ています。

セキセイインコの喧嘩とは?
今回、私たちが注目したのはセキセイインコの「喧嘩」と「喧嘩のあとに起こること」です。当時、私が所属していた研究室ではセキセイインコの集団飼育をしていました。セキセイインコは多くの時間をつがい相手の近くで過ごします。一方で、なぜだかよく喧嘩もしていました。

嘴を大きく開いて相手を威嚇したり、大きな声をあげながら相手を嘴でつついたり。つがい相手と喧嘩したり、つがい相手以外と喧嘩したりと、喧嘩の程度や相手はさまざまでした。

喧嘩のあとの行動
ある日、喧嘩のあとでセキセイインコがつがい相手のところへすぐにとんでいくことに気がつきました。喧嘩のあとではつがい相手とどんな行動をしているのだろう。もしかしてなかなおりやなぐさめといった行動が見られるかもしれない。

そこで、セキセイインコの様子をしばらく録画して観察してみることに。録画した映像を見ながら「いつ」「どの個体が」「どの個体に対して」「どのような行動をしていたか」を時系列に沿って書き出してみることにしました。

時系列に書き出してみただけでは何が起こっているのかはまだ分かりません。「喧嘩のあとになかなおりやなぐさめがおこるのか」ということを調べるには、書き起こしたデータの集計や統計を通して仮説を検証する作業が必要です。

ところで、なかなおりやなぐさめで見られるやりとりを親和(しんわ)交渉と言います。ヒトなら握手やハグなど、トリなら羽づくろいや、嘴を近づけるというやりとりが親和交渉です。

喧嘩のあとでは親和交渉が起こりやすい。つまり、喧嘩のあとでは親和交渉が起こるまでの時間が短くなるとの予測をもとに、実際のデータをつかって喧嘩から親和交渉までの時間を測定していきました。そして、シミュレーションによって(喧嘩が起きていない)平常時と比較しました。

その結果、喧嘩のあとでは親和交渉がおこるまでの時間が短くなっていたことが分かりました(図2)。

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具体的に言えば、

(1)つがい相手と喧嘩するとそのあとつがい相手となかなおりをする

(2)つがい相手以外と喧嘩するとそのあとつがい相手と親和交渉をする

ことが分かりました(ちなみに(2)の一部のやりとりがなぐさめに該当します)。

ただし、すべてのつがいがこのような行動をしたわけではありませんでした。その理由はまだよく分かっていませんが、もしかしたらつがいの「絆」の違いによって、喧嘩のあとのフォローの仕方も違ってくるのかも?

カラスでの報告
調べてみると、カラス科のトリでも同じような報告があることが分かりました。ミヤマガラスは、つがい相手以外と喧嘩したあとつがい相手と親和交渉を行っていました [5]。コクマルガラスでも同じような報告がありました [6]。でもカラス科のトリのつがいでは、なかなおりは報告されていないのです。セキセイインコのつがいとは違って、カラス科のトリのつがいではめったに喧嘩がおこらないそうです。このことが、なかなおりがみられない理由のひとつ、と考えられています。

つまり、セキセイインコもカラスも喧嘩のあとに同じようなやりとりをします。でもその方法はちょっとずつ違うのです。

実験室での研究のすすめ
さて、私はこれまで実験室で飼育下のセキセイインコを対象に研究を行ってきました。「トリの研究をしています」と言うと、野外に出て野鳥を追いかけるイメージを持たれることが多くあります。

野外で鳥類の研究をしている研究者はたくさんいます。実験室で鳥類の研究をしている研究者もたくさんいます。野外と実験室の両方で研究をしている研究者もたくさんいます。実験室の研究の利点とはなんでしょうか。例えば、個体数、個体の年齢、観察時間など、野外ではコントロールできない様々な条件をコントロールして観察・実験できるということがあります(そして楽しい)。

大学や大学院に進学して鳥類の研究をしたいと思っている人がいたら、ぜひ実験室での研究も視野に入れて研究テーマを探してみてください。実験室ならではの、面白いテーマが見つかるかも!

【引用文献】
[1] Ikkatai, Y., Watanabe, S., & Izawa, E. I. (2016). Reconciliation and third-party affiliation in pair-bond budgerigars (Melopsittacus undulatus). 153, 1173 – 1193.
[2] Gallup, A. C., Swartwood, L., Militello, J., & Sackett, S. (2015). Experimental evidence of contagious yawning in budgerigars (Melopsittacus undulatus). Animal cognition, 18(5), 1051-1058.
[3] Farabaugh, S. M., Linzenbold, A., & Dooling, R. J. (1994). Vocal plasticity in budgerigars (Melopsittacus undulatus): evidence for social factors in the learning of contact calls. Journal of Comparative Psychology, 108(1), 81-92.
[4] Hile, A. G., Plummer, T. K., & Striedter, G. F. (2000). Male vocal imitation produces call convergence during pair bonding in budgerigars, Melopsittacus undulatus. Animal Behaviour, 59(6), 1209-1218.
[5] Seed, A. M., Clayton, N. S., & Emery, N. J. (2007). Postconflict third-party affiliation in rooks, Corvus frugilegus. Current Biology, 17(2), 152-158.
[6] Logan, C. J., Emery, N. J., & Clayton, N. S. (2013). Alternative behavioral measures of postconflict affiliation. Behavioral Ecology, 24(1),98-112.
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2016年09月06日

相関行列(距離行列)を用いた音声の分類・判別手法について

2016年9月6日
(国)農研機構 中央農業研究センター 虫・鳥獣害研究領域
百瀬 浩


あなたが、野外で見知らぬ鳥のさえずりを録音したとします。それが既知の種のさえずりのどれに近いのか、知りたい場合などがあると思います。あるいは、ある種類の鳥が色々なさえずりのパターンを持っていたとして、それを分類(タイプ分け)したい場合とかがあるかもしれません。本稿では、そんな時に使える手法として、異なる音声どうしの相関(Cross Correlation)を用いて分類や判別を行う手法を解説します。

※ブログ形式ですと表現しきれないところがありますので、続きは添付ファイルをご覧ください。

鳥学通信原稿百瀬_160906.pdf
サンプルデータ.zip
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2016年08月17日

86年ぶりに小笠原諸島のメジロの起源を調べた

2016年8月9日
独立行政法人 国立科学博物館
植物研究部多様性解析・保全グループ
杉田典正


小笠原諸島は、東京から南に約1000 kmから1200 kmの南の海上に浮かぶ小さな島々の集まりである(図1)。小笠原諸島は、父島、母島などを有する小笠原群島と北硫黄島、硫黄島、南硫黄島の3島から成る硫黄列島の2つの群島から構成される。小笠原諸島へは、およそ週に一度東京から出港するおがさわら丸に乗って24時間かけて行く方法しかない。母島へ行くには、父島で船を乗り換えてさらに2時間半かかる。もっと南の硫黄列島へは旅行で行くことはできない。小笠原諸島は日本で一番遠い場所のひとつかもしれない。

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小笠原諸島は、海洋島である。海洋島は、島が出来てからほかの地域と一度も繋がったことがない島のことをいう。海洋島は、独自の生態系がつくられる。小笠原諸島も、他の地域では見られない独特の海洋島生態系ができている。例えば、オガサワラオオコウモリは小笠原諸島唯一の固有哺乳類で、小笠原で独特な行動と生態を進化させてきた。小笠原は、独自の生態系と進化を観察できることが評価され、2011年には世界自然遺産に登録された。

小笠原群島と硫黄列島は、どちらも海底火山に由来する。しかし、島の形成時期が全く異なる。小笠原群島は、約4500万年前の海底火山を起源にする古い島である。一方、硫黄列島は、数万年内に噴火した海底火山と隆起により形成された新しい島である。小笠原群島は、伊豆諸島やマリアナ諸島など周辺の島嶼地域の中でもっとも古い。

小笠原諸島で繁殖する陸鳥の数は少ない。10種の陸鳥が繁殖するのみである。過去にはオガサワラマシコやオガサワラガビチョウ、オガサワラカラスバトなど小笠原諸島固有の陸鳥が生息していたが、絶滅した。メグロは、母島列島で生き残っているが、父島列島と聟島列島で絶滅した。現在、小笠原群島と硫黄列島の両群島に共通して繁殖する陸鳥は、カラスバト、ヒヨドリ、ウグイス、カワラヒワ、トラツグミ、イソヒヨドリの7種類に過ぎない。カラスバトとカワラヒワは、本州の個体群と大きな遺伝的差異があり、ミトコンドリアDNAで別種レベルの深い分岐がある。ヒヨドリとウグイスは、日本列島の個体群のミトコンドリアDNAと比べて数塩置換の違いである。これら5種の小笠原諸島個体群は、亜種に分類されている。トラツグミは、1930年に初めて小笠原諸島で発見され、1960年代頃から増え始めた。ミトコンドリアDNAのCOI領域では、遺伝的差異は見つからなかった。モズは父島で1980年代から繁殖していたが、2000年代の中頃に絶滅したとみられる。

小笠原諸島の陸鳥は、大陸から遠く離れた島であるため個体群間の交流が少なく遺伝的に分岐が進んだ。一方、面積の小さい海洋島では、環境が不安定であり、人口学的要因などによって定着しにくいという特徴もある。小笠原諸島の陸鳥の鳥類相の変遷は、海洋島の特徴をよく表している。

問題のメジロである。日本鳥類目録第7版(2012)によると、小笠原諸島のメジロの分布は、硫黄列島のみresident breederとなっている。父島や母島に行ったことのある方は、「おや?」と思うかも知れない。小笠原諸島の父島や母島でメジロをたくさん見たはずだと。確かにメジロは、現在の小笠原群島にたくさん生息している。もっとも目に付きやすい鳥だ。しかし、今から約百数年前、1900年以前には小笠原群島にはメジロは生息しなかった(図2)。過去の記録でも明らかである。1827年イギリス軍艦ブロッサム号で父島に上陸したBeechey艦長は、ヒトを恐れない黄色いカナリアの様な鳥(おそらくメグロ)を観察したが、メジロは記録していない。1890年の研究でも、小笠原群島でメジロは採集されなかった。ところが1930年になると、メジロは父島で最もよく見られる鳥になっていた。籾山徳太郎は、1930年に発表した論文で、島民に聞き取り調査を行い、1900–1910年頃に硫黄列島と伊豆諸島からメジロが持ち込まれたと考えた。同時に、彼は、小笠原群島のメジロの形態形質に亜種イオウトウメジロとシチトウメジロの中間的特徴があることから、小笠原群島個体群は両亜種の交雑個体群であると示唆した。日本鳥類目録第7版では、小笠原群島のメジロはintroduced breederとされている。しかし、小笠原群島のメジロが本当に硫黄列島と伊豆諸島から持ち込まれたのか、DNA分析による証拠はまだ無かった。

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DNA分析に使える血液サンプルが硫黄列島のメジロで採られていなかった。硫黄列島は、北硫黄島と南硫黄島は無人島、硫黄島は自衛隊基地のために上陸調査が難しい。特に、南硫黄島は、原生自然環境保全地域に指定されていること、島の全周が切り立った崖で出来ており上陸しにくいことから、学術調査隊が長い間立ち寄っていなかった。だが、一連の硫黄列島の学術調査に参加してきた川上和人博士(森林総合研究所)によって、硫黄3島すべてからメジロ個体群の血液サンプルが得られた。小笠原諸島のメジロの遺伝分析と他の地域との比較が可能になった。

この記事では、小笠原諸島のメジロのミトコンドリアDNAを分析してその起源を調べた研究を紹介する。この記事は、Zoological Scienceで発表された小笠原諸島のメジロとヒヨドリのミトコンドリアDNA分析を行った研究内容にもとづく(Sugita et al. [2016] Zoological Science 33: 146–153)。小笠原諸島のヒヨドリのDNA分析の解説については、BIRDER 2016年7月号(文一総合出版)と森林総研プレスリリース資料をご覧頂きたい。本研究のすべての分子実験は、国立科学博物館の実験室で行った。


独自に進化した硫黄列島のメジロ

硫黄列島のメジロの解析のために、ミトコンドリアDNAのチトクロームオキシターゼcサブユニット1(COI)遺伝子のDNA配列を使用した。ミトコンドリアDNA多型をハプロタイプという(異なるハプロタイプ同士は配列が異なるということ)。図3に赤色で示されている部分が硫黄列島のメジロ個体群のハプロタイプで、4種類見つかった。硫黄列島のメジロ個体群のハプロタイプは、小笠原群島のメジロ個体群を除いて(後述)、他の地域から見つからなかった。硫黄列島の3島を詳しく見ると、南硫黄島の個体群のハプロタイプは他のどの島からも見つからない南硫黄島固有のハプロタイプであった(図4)。

鳥学通信図3.png

鳥学通信図4杉田.png


これらの結果は、硫黄列島のメジロ個体群は、伊豆諸島や琉球諸島のメジロと近縁の関係であることを示している。硫黄列島のメジロは、独自のハプロタイプをもった遺伝的に分化した個体群であることも示している。南硫黄島の個体群は、他のどの島とも遺伝的な交流のないもっとも孤立した個体群であることがわかった。硫黄列島のメジロは、祖先集団が硫黄列島に定着した後、それぞれの島で移動性を低下させて、交流のない独立した集団になったと考えられる。生物進化の見本として、小笠原諸島の世界自然遺産としての価値をさらに高める研究成果となった。

生物多様性は、外来種と在来種との交配などによって容易に低下する。硫黄列島で独自に進化したメジロ個体群は、小笠原諸島の海洋島生態系における取り替えの効かない重要な要素である。特に南硫黄島のメジロ個体群は、他のどの島とも遺伝的に異なる。硫黄列島のメジロの保全は、島単位で考えるべきだ。


連れてこられた小笠原群島のメジロ

小笠原群島のメジロ個体群に固有のハプロタイプは無かった(図3)。小笠原群島のメジロ個体群から3つのハプロタイプが発見されたが、これらは琉球諸島と伊豆諸島、硫黄列島の個体群と共通のハプロタイプであった(図5)。硫黄諸島では、固有ハプロタイプが見つかったことと対照的である。この結果は、メジロが小笠原群島に自然分布していたのではなく、近年外部からメジロが小笠原群島に移入されたことを示唆している。自然分布していたのなら、小笠原群島にも硫黄列島のメジロのように固有ハプロタイプが発見されるはずだ。この見方は、過去の記録とも一致する。

鳥学通信図5杉田.png

伊豆諸島のメジロ個体群は琉球諸島個体群の一部と同じハプロタイプを共有していたものの、籾山の聞き取り調査の結果などを考慮すると、籾山が1930年に発表した仮説の通り、小笠原群島のメジロ個体群は硫黄列島と伊豆諸島から来たと考えるのが妥当だろう。ただし琉球諸島のメジロの関与も否定できない。今回、籾山の仮説以来86年間謎であった、小笠原群島のメジロの起源を現代のDNA分析技術により検証することができた。籾山は、小笠原群島のメジロがシチトウメジロとイオウトウメジロの交雑個体群であるという仮説も提唱した。これについては、今後、核DNAによる詳細な研究が必要である。


様々なルートでやって来た小笠原の陸鳥

小笠原諸島の陸鳥の起源や島間の遺伝的関係性は種ごとに異なる。いくつかの種で小笠原群島と硫黄列島間の遺伝的関係が知れられている。ヒヨドリは、小笠原群島と硫黄列島の個体群でそれぞれ異なる起源をもつ(図6)。ウグイスは、琉球と伊豆諸島以北の個体群から小笠原群島に進出した。その個体群の一部が、さらに南の硫黄列島に進出したようだ。アカガシラカラスバトは、カラスバトと別種レベルの遺伝的差異がある。しかし、小笠原諸島内では、アカガシラカラスバトは、小笠原群島と硫黄列島を行き来している。小笠原群島のヒヨドリは八重山諸島を起源にする。一方、硫黄列島のヒヨドリは本州などの個体群を起源にする。それぞれ時間的にずれて小笠原諸島に定着した。その後互いに交流しなかったようだ。これらの研究結果は、島の形成時期、定着時期、生態的特性、島の群集構造などの違いにより、島によって異なる生物相が成立することを示している。

鳥学通信図6杉田.png


小笠原諸島の世界自然遺産への登録以来、自然再生事業が行われている。小笠原諸島では、鳥のような飛べる動物であっても、島や列島ごとに鳥類相や遺伝構造が異なることがわかった。この結果から、島や列島を単位とした保全計画が必要と言える。

参考文献
Ando H, Ogawa H, Kaneko S, Takano H, Seki S, Suzuki H, Horikoshi K, Isagi Y (2014) Ibis 156: 153–164.
Beechey F (1832) Narrative of a Voyage to the Pacific and Beering’s Strait, to Co-operate with the Polar Expenditions: Performed in His Majesty's Ship Blossom, under the Command of Captain F. W. Beechey, R. N. in the Years 1825, 26, 27, 28. Carey & Lea, Philadelphia, USA.
Emura N, Ando H, Kawakami K, Isagi Y (2013) Pacific Science 67: 187–196.
籾山徳太郎 (1930) 日本生物地理学会会報 1: 89–186.
日本鳥学会(2012)日本鳥類目録第7版, 日本鳥学会, 三田.
Seebohm H (1890) Ibis 32: 95–108.
Seki SI, Takano H, Kawakami K, Kotaka N, Endo A, Takehara K (2007) Conservation Genetics 8: 1109–1121.
森林総合研究所(2016)絶海の孤島、小笠原の鳥はどこから来たのか?2016. Apr. 7. URL: www.ffpri.affrc.go.jp/press/2016/20160407/
杉田典正(2016)BIRDER 30(7): 34–35.
Sugita N, Kawakami K, Nishiumi I (2016) Zoological Science 33: 146–153.
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2016年08月02日

海鳥の体の大きさの種内地理変異

2016年7月11日
名古屋大学大学院環境学研究科
日本学術振興会特別研究員PD
山本誉士


はじめに、私は主にバイオロギングという手法を用いて動物の行動・生態を研究しています。バイオロギングでは、動物に小さな記録計(データロガー)を取り付けることにより、その個体の行動や周囲の環境などを測定・記録します(詳しくは、高橋 & 依田 2010 日本鳥学会誌 59, 3–19「総説・バイオロギングによる鳥類研究」をご覧ください)。大学院ではオオミズナギドリCalonectris leucomelas(写真1)という海鳥の渡り行動を調べるため、北は岩手から南は西表島まで、日本各地の繁殖地で野外調査をおこないました。その過程において、なんだか繁殖地によってオオミズナギドリの体の大きさが違うような気がする、、、ということを感覚的に思っていました。データロガーを装着するため鳥を捕まえるのですが、北に位置する繁殖地では両手でしっかりと鳥を持ちますが、南に位置する繁殖地では片手で楽々持つことができました。

一般的に、動物の体の大きさは寒い高緯度域では大きく、暖かい低緯度域では小さいことが知られており、このような地理変異をベルクマンの法則と呼びます(種内変異はネオ・ベルクマンの法則、Renschの法則、ジェームスの法則などと呼ばれます: Meiri 2011 Global Ecology and Biogeography 20, 203–207)。ベルクマンの法則やジェームスの法則は体温維持に関わる適応であり(体が大きいほど体重あたりの体表面積が小さくなるため熱を逃がしにくい)、多くは陸上動物で検証されてきました。一方、海洋動物、特に海鳥類や海棲哺乳類の繁殖地の多くはアクセスが困難な僻地や断崖に形成されるため、繁殖地間で体の大きさが異なることは経験的に知られていましたが、繁殖分布域を縦断して種内変異傾向を調べた研究はありませんでした。

そこで、2006〜2013年にかけてメイン調査の合間に成鳥の外部形態を測り(写真2)、8箇所の繁殖地(図1)から合計454羽の計測データを集めました(苦節8年!)。そして、主成分分析により体の大きさの総合的指標(PC1)を算出し、オオミズナギドリの体サイズと繁殖地が位置する緯度・経度・気温(1981〜2010年の7〜9月の平均気温:本種の抱卵・育雛期)との相関を調べました。


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写真1. オオミズナギドリは日本や朝鮮半島、台湾などの東アジア周辺の海域で繁殖する海鳥で、平均的な大きさはカラスより少し小さいくらいです。繁殖期には地中に掘った長さ数メートルの巣穴で営巣し、一夫一妻で1羽の雛を育てます。主な餌はカタクチイワシなどの魚で、洋上では多くの時間を滑空(羽ばたかずに飛ぶ)して移動します。非繁殖期にはパプアニューギニア北方海域、アラフラ海、南シナ海まで移動・滞在します(Yamamoto et al. 2010 Auk 127, 871–881; 2014 Behaviour 151, 683–701)。

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写真2. 繁殖地での調査風景(『生物時計の生態学〜リズムを刻む生物の世界〜(文一総合出版)』に海鳥の野外調査の様子を書いておりますので、よろしければご覧ください)。露出嘴峰長、鼻孔前端嘴高、全頭長、翼長、ふしょ長を計測。成鳥の体重は雛への給餌前後および採餌トリップに費やした時間で大きく変動するため、体重は主成分分析から除きました。

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図1. 調査を実施した繁殖地の位置。オオミズナギドリの主要繁殖地の北限から南限にかけて網羅的に調査を実施しました(北緯24¬–39°、東経123–142°)。


データを解析した結果、オオミズナギドリの体サイズは緯度と正の相関を示し(図2)、北の繁殖個体群ほど体が大きいという「感覚」が支持されました。なお、気温は緯度および経度と負の相関を示しました。つまり、北に位置する繁殖地ほど気温が低いため体が大きいという、ベルクマン(ジェームス)の法則に従うということです。全体的にみると高緯度ほどオオミズナギドリの体サイズは大きくなる傾向がある一方、いくつかの個体群間では、低緯度に位置する繁殖地の方が大きいという逆の傾向も見られました(例えば、御蔵島MIと男女群島DA、宇和島UWと冠島KA:図2)。

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図2. 各繁殖地のオオミズナギドリの体サイズと緯度の関係。青はオス、赤はメス。実線は一般化線形モデルで推定した回帰直線、破線は個体群の中で特に小さい仲ノ神島個体群NAを除いた場合(極端に小さい値に回帰が影響されている可能性を考慮)。北から、FO岩手県船越大島、SA岩手県三貫島、AW新潟県粟島、KA京都府冠島、MI伊豆諸島御蔵島、UW瀬戸内海宇和島、DA長崎県男女群島、NA南西諸島仲ノ神島。


海鳥では、形態的特徴が採餌行動と関連していることが報告されています。例えば、翼面荷重(つまり、翼の面積に対する体重の割合)が小さいと、長距離もしくは広範囲を移動する場合にエネルギー消費が少なくてすむと考えられています。相似の場合、体の大きさがa倍に拡大されると、体積はa3倍になるのに対し、表面積はa2倍になります。つまり、体が大きくなるほど、表面積に対する体積の割合(翼面荷重)が大きくなるということになります。先行研究により、御蔵島(MI)のオオミズナギドリは繁殖地から採餌域まで数百〜千kmも移動し、宇和島(UW)のオオミズナギドリは主に瀬戸内海内の狭い範囲で採餌することが知られています。この仮説に従えば、あまり移動しない宇和島の個体はより大きく、長距離移動する御蔵島の個体はより小さくなることになります。このことから、各繁殖地が位置する海洋環境と関連した採餌行動の特徴が、彼らの体サイズに影響している可能性が示唆されます。

本研究の結果は、体の大きさの地理変異傾向は海洋動物にもあてはまることを示しました。一方、形態的特徴の地理変異において、生息環境に適応した(採餌)行動的特徴を考慮する必要性を新たに提唱しました。野外調査では作業とデータまとめに追われる日々ですが、その合間に対象種やその生息環境をよく観察することで、研究アイデア(科学の芽)はフィールドに沢山転がっていることを実感しました。

【論文】Yamamoto T, Kohno H, Mizutani A, Yoda K, Matsumoto S, Kawabe R, Watanabe S, Oka N, Sato K, Yamamoto M, Sugawa H, Karino K, Shiomi K, Yonehara Y, Takahashi A (2015) Geographical variation in body size of a pelagic seabird, the streaked shearwater Calonectris leucomelas. Journal of Biogeography 43, 801–808.

論文の中では外部形態の性差強度(Sexual Size Difference)についても議論しております。その他の研究についてはhttps://sites.google.com/site/takasocegle/1をご覧頂ければ幸いです。
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2016年04月06日

海外のジャーナルに投稿して


2016年4月6日
北海道大学大学院環境科学院
生物圏科学専攻動物生態学コース
博士課程3年 乃美大佑


北海道大学環境科学院所属の乃美(のうみ)といいます。北大苫小牧研究林でシジュウカラの繁殖を研究しています。今回このような機会をいただきうれしく思っています。先日海外のジャーナルに投稿した論文が掲載されたのでその報告をします。

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脚立をのぼって雛を捕獲する作業の様子です。

僕が修士課程に入った当時、研究室にはシジュウカラの婚外交尾(浮気)の研究をされていた油田さん(現新潟大)がおり、共同で研究をすることになりました。油田さんの研究に触発されて動物の行動や進化に興味を持ち修士論文のテーマを探したところ、鳥類では雌雄の産み分けを行うらしいことを知りました。

性比の問題は進化生物学における魅力的なテーマで今日までに数多くの生物で研究がなされています。特に鳥類の場合、性染色体が雌ヘテロ型であるため、雄ヘテロ型の哺乳類などと比べると、雌親が雌雄の産み分けをしやすいといわれています。分子生物学の技術の進歩により、浮気の研究と時を同じくして、鳥類の性比調節に関する研究も盛んに行われるようになりました。中でも縄張りの質により子の性比を調節するセーシェルヨシキリの例は有名ですね。

油田さんのこれまでの調査で苫小牧のシジュウカラは複数回繁殖率が高く、繁殖シーズンが長い(5〜8月)という特徴がありました。4年分の調査で得た、合計191巣1500羽の雛を性判別した結果、1回目の繁殖でのみ、一腹卵数が多くなるほど雄の割合が低くなるという傾向を発見しました。

シジュウカラの1回目繁殖における一腹卵数とオスの割合の関係
シジュウカラの1回目繁殖における一腹卵数とオスの割合の関係。


これまで性比の研究は数多くされてきましたが、「繁殖の一時期だけ性比調節を行う」という例はありませんでした。これには雛の性的二型と巣立ち雛の生存率が関係していると考えています。巣立ち雛の生存率は巣立ち日が早いほど高いことが知られているので早い時期に多くの雛の育てるのが適応的です。しかし、餌要求量の大きい雄の雛が多くなると繁殖のコストが増すため一腹卵数の大きい巣で性比が雌に偏っていたのではないかと考えています。一方で繁殖の後期に巣立った雛は生存率が低く、繁殖の価値は低いため多くの雛を育てる利点は少ないと考えられます。雛数が少ないと餌要求量に応じた性比調節は必要なくなるため、この傾向が見られなかったのではないかと考えています。

孵化して13日目のシジュウカラの雛。.jpg
孵化して13日目のシジュウカラの雛。

せっかくやってきた修士論文の研究を残る形にしたいという思いから国際誌に投稿することにしました。そこで、鳥類を研究対象としたジャーナルを探しました。その時目にとまったのがポーランドのジャーナル、Acta Ornithologicaでした。このジャーナルはいろいろな分野を扱っており、過去にも性比を扱った研究が載っていたので、ひょっとするとチャンスがあるかもと思い投稿してみました。

DNAサンプルケースの山。調査が終わった後もデータ収集は続きました。.jpg
DNAサンプルケースの山。調査が終わった後もデータ収集は続きました。

初投稿から約1年半、Editorが何度も丁寧に見てくれたおかげで時間はかかりましたがなんとかアクセプトされました。しかし、過去の他の論文を見てみてもほとんどの論文が投稿日から採択日まで1年以上かかっていました。なので、急ぐ場合にはこのジャーナルは正直オススメしません。とはいえ、特に時間は問わないという方や、自分の研究分野を扱ったジャーナルが少ない、でもなんとか載せたいという方にはいいかもしれません。補足をすると、Acta Ornithologicaでは特に巣材を扱った研究が多いように思います。この手の研究を行っている方、オススメしますよ(笑)。

論文についての詳しい内容は原著をご覧下さい。
Nomi D., Yuta T., Koizumi I. 2015. Offspring sex ratio of Japanese Tits Parus minor is related to laying date and clutch size only in the first clutches. Acta Ornithologica. 50: 213–220.
posted by 日本鳥学会 at 18:11| Comment(0) | 研究紹介