2023年02月13日

鳥の学校「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」に参加しました

中島京也(日本ワシタカ研究センター)


 日本鳥学会2022年度大会は新型コロナウイルス対策に配慮しながら3年ぶりの現地開催となり、13回目となるテーマ別講習会「鳥の学校」も「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」として実施されました。2014年に日本鳥学会大会と同時に開催された国際鳥類学会議ではRound Table DiscussionでDr. David BirdとDr. Juan José Negroから鳥類調査への無人航空機の利用例が紹介されましたが、その後国内でも高画質の映像が撮影できるマルチコプター型ドローンの普及が進み、鳥類の調査や研究に空撮画像やそれらの解析データが利用されるようになってきました。近年はドローンが小型化して携帯性が向上し、機体の価格も下がってきましたので、撮影用機材として利用される機会はさらに増えると思われます。このような状況の中で「鳥の学校」としてドローンに関する講座が企画され、酪農学園大学環境共生学類環境空間情報学研究室の小川健太先生から専門的な内容を学べる機会が得られたのは効果的だと感じました。

 講座ではドローンを飛行させる際の注意点や関連する法律などの基本的な事項から撮影した画像の処理方法などの具体的な事項まで紹介され、これからドローンを使用する事を検討している参加者にとっては大変参考になったと思います。また、大きさの異なる3種類のドローンの実機も用意され、参加者による屋外での操縦体験の他に事前に設定した範囲を自動で飛行するドローンが地上の画像を連続撮影する様子やその撮影画像をデータ解析に利用する過程も確認することができ、座学だけではない「鳥の学校」の特色が活かされていました。既にドローンを調査等で使用している経験者の方も参加者に含まれていたため、冬期にドローンを使用する際のバッテリー保温方法など製品のマニュアルには載っていない具体的な対策例が参加者側から紹介されたのも参考になったと思います。

 講座で使用する参考資料のご準備の他にドローンの実機展示と多数の参加者による操縦体験にもご対応いただいたので、機体の運搬や複数の予備バッテリーの準備など小川先生と環境空間情報学研究室の皆様には通常の講義よりもお手数をおかけしたと思います。そのご協力に対しまして改めて厚く御礼申し上げます。また、「鳥の学校」の開催にご尽力いただいた日本鳥学会企画委員会の森口紗千子様をはじめとした関係者の皆様、講座終了後に路線バスを利用して公開シンポジウム会場へ向うと開始時間に間に合わないのでご自身の車両に関係者を乗せて移動していただいた参加者の皆様にも感謝申し上げます。
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鳥の学校第13回「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」体験記

中村晴歌(北海道大学)


 空撮や農薬散布、荷物運搬まで幅広い分野で活躍するドローンを、鳥類研究に応用するための入門講座となる「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」が、鳥学会2022年度の鳥の学校で開催されました。私自身は特にドローンを使った研究をしているわけではなく、ドローンの操縦体験に惹かれて参加を決めました。
 
 今回講座を担当してくださったのは、酪農学園大学農食環境学群環境共生類准教授の小川健太先生です。先生のご専門はリモートセンシングによる環境モニタリングで、北海道ドローン協会会長も務めておられます。

 講座は室内での講義パートと屋外での操縦体験パートがあり、午前中の方が天気が良いとのことでまずは操縦体験から始まりました。

ドローン操縦体験
 経験者と初心者に分かれ、東京農業大学網走キャンパスの広大な学生用駐車場で操縦体験を行いました。私はもちろん初心者チームに入り、PHANTOM RRO V2(図1)という白くて比較的小型の機体を数分間操縦させていただきました。短時間ではありましたが、参加者全員がドローン操縦を体験できました。

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図1 PHANTOM RRO V2 右が機体で左がコントローラー。コントローラーについた液晶でドローンが撮影している動画を確認できます。


操縦した率直な感想としましては、

・スティックの操作が複雑で慣れるまで時間がかかる
 私が操作したモードでは、右スティックで上昇・下降・横移動、左スティックで前進・後退・回転ができるのですが、これを正確に把握して操作するのは初心者だとかなり難しかったです(逆に、普段からシューティングゲームなどでゲーム機のコントローラーを握っているような人はかなり得意かもしれません)。

・奥行きの正確な感覚が必要
 地面に置かれた直径1mほどのシートから離発着をしたのですが、このシートの中に着陸させるのが難しかったです。左右のブレはそこまで出ないのですが、シートよりだいぶ手前や奥に着陸させてしまう方が私含め多い印象でした。

 経験者チームはINSPIRE2 X5S(図2)という黒くて大きな機体を使って駐車場側の畑の撮影を行っていました。途中カラスがそばを飛んだりしていましたが、目立ったモビング行動などは取らず。操縦体験前にはオオワシが2羽上空を飛ぶところを観察できるという嬉しいサプライズもありました。

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図2 INSPIRE2 X5S 経験者チームが操縦体験をしていた機体。機体が大きい分、近づかれた時の威圧感や飛行中の音がPHANTOM4より大きいような気がしました。調査環境や対象種によって適した機体は違ってきそうですね。


ドローンについての講義
 午後からは北海道ドローン協会が作成したドローン教科書基礎編を用いた講義をしていただきました。操縦する際の天候や機体の管理方法から2021年航空法の改正、操縦に国家資格が必要になったことなどまで幅広く学ぶことができました。

 印象に残ったのは実際の研究への応用例です。以下興味深かった部分を簡単に紹介します。

・広大な面積をもつ湖沼などでの水鳥のモニタリング
水鳥のドローンへの反応は種によって、また水面か陸上かで反応性が異なり、例えば水面での垂直接近の下限高度はカモ類>ハクチョウ>マガンの順で大きく、単純に鳥の大きさで決まるわけではない。
(詳しくは2019年に公益財団法人宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団より発行されたドローンを活用したガンカモ類調査ガイドラインhttp://izunuma.org/pdf/drone_gideline.pdfを参照)

・鳥の捕獲に使用できるかもしれない
 実際にドローンに捕虫網を取り付けて昆虫を捕獲して調査研究を行った例がある(Madden et al. 2022)。飛行能力が高い種では難しそうですが、地上性で長距離を飛べないような種では可能だったりするのでしょうか。

・送電線鉄塔の鳥の巣モニタリング
 ディープラーニングを用いて自動的に鳥の巣を発見できる(Dong et al. 2022)。送電線鉄塔だけでなく、人が直接アクセスしづらいような場所で繫殖する種のモニタリングがドローンによってどんどん可能になっていくのでしょう。すごく楽しみです。

全体を通しての感想
 今回の鳥の学校でドローンについて事前に学習したおかげで、鳥学会を聴講する際ドローンを用いた多くの研究発表をより深く理解することができました。そしてとても便利なように思えるドローンですが、実際はバッテリーの持続時間や天候の問題、高度な操作技術の必要性など鳥の研究に応用する上でまだまだ難しい点がたくさんあることを初めて知りました。発想次第ではまだまだ新しい応用方法がこれからいくらでも出てきそうなので、今回のようなそれまでドローンに触れたことのない人でも気楽に操縦体験ができる機会が今後もっと増えていくことを願います。

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2023年02月10日

鳥の学校(第13回テーマ別講習会)「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」報告

企画委員会 森口紗千子

 
 鳥の学校−テーマ別講習会−では,専門家を講師として迎え,会員のレベルアップに役立つ講演や実習を行っている.第13回は,2年ぶりに対面で開催された2022年度大会と連結して,大会初日の11月3日に大会会場である東京農業大学網走オホーツクキャンパスで行われた.近年,鳥類の野外調査でも使用され始めたドローンを使う上で,ドローンを鳥類調査に用いるために必要な知識と技術を養ってもらうため,機種,法令,安全管理,データ解析,鳥類への影響等に関する座学と,操縦実習まで,小川健太氏(酪農学園大学)を講師にお迎えし,26名の会員が参加した.

 天候が午後から悪化する予報であったため,講師の紹介と簡単な説明の後,さっそくドローンの野外実習を大会会場の駐車場で行った.講師らによる2種類のドローンの操縦や撮影の実演に加え,経験者と初心者にグループ分けされた参加者も操縦を体験した.
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図1_座学風景

 後半は座学で,ドローンの一般的な知識や使用方法,国家資格化の動向などの最新情報に加え,鳥類の調査研究のための水鳥類の自動カウントなどの実践的な手法を学んだ.さらに,野外実習で撮影した画像データを用いた解析のデモンストレーションへと続いた.座学では,ドローンの使用経験のある参加者と講師の間をはじめ,活発な情報交換が行われ,低温下でのバッテリーの保管方法など,使用時のポイントが議論された.
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図2_参加者のドローン操縦体験

 事後アンケートによると,参加者のうちドローン経験者からは,悩みの共有や新しい知見の情報交換ができた,ドローン初心者からは,操縦体験だけでなく新しい技術にも触れられた,ドローンを用いた研究発表への理解が深まったなどの感想が寄せられ,質問できる機会が多くてよかったなど,参加者の満足度も高かった.ドローンの準備から始まり,幅広い内容にわたる座学と,参加者との相互のやり取りを重視して講義を進めてくださった講師,野外実習を補助していただいた助手の方々,コロナ禍の大会開催という困難の中,会場準備にご尽力いただいた大会実行委員会の方々,そして円滑な進行にご協力いただいた参加者の方々に,深くお礼申し上げる.
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図3_ドローンからの撮影

 鳥の学校−テーマ別講習会−は,今後も大会に接続した日程で,さまざまなテーマで開催する予定である.鳥の学校の案内は,大会ホームページや学会誌に掲載する.
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2021年10月18日

鳥の学校(2019年):第11回テーマ別講習会「高病原性鳥インフルエンザと野鳥〜最近の情勢と野鳥調査者のための基礎知識」の報告

吉田保志子(企画委員会)

 
 鳥の学校−テーマ別講習会−は、大会に接続した日程で、さまざまなテーマで開催しています。今年度は「鳥類調査のための法律講座〜知っておきたい基礎知識」を、初めてのオンライン開催で行いました。 この報告は今後、和文誌学会記事や鳥学通信でお届けすることとし、今回は一昨年(2019年)のテーマ別講習会「高病原性鳥インフルエンザと野鳥〜最近の情勢と野鳥調査者のための基礎知識」について報告します。
 
 2020年度冬シーズン(2020-2021)の国内では、2018年1月以来となる家きんでの高病原性鳥インフルエンザ発生がみられました。世界的にも発生が相次ぎ、ウイルスを保有する野鳥が多く、環境中のウイルス濃度が高い状況にあると考えられました。冬鳥の渡来時期を迎え、今年の状況が心配されるところです。
 
 今回の報告では、当日の配布資料もご覧いただけます。高病原性鳥インフルエンザと野鳥に関わる情報がコンパクトにまとめられており、感染を広げないために鳥類調査や野鳥観察においてとるべき具体的な消毒方法も知ることができますので、ぜひご一読ください。
 
 2019年のテーマ別講習会は、大会と連結して、大会初日の9月13日に帝京科学大学千住キャンパスで行われました。鳥インフルエンザウイルスはもともと野生の水鳥類を宿主とする病原性の低いウイルスですが、近年は高病原性に変異して野鳥や家きんに感染する例が増加しており、野外に高病原性鳥インフルエンザウイルスが存在することを前提とした対応が求められる状況となっています。この講習会では、野鳥と鳥インフルエンザに関わる最近の情勢や対策状況、野鳥観察や捕獲調査の際に気を付けるべき点など、野鳥と接触する機会の多い鳥学会会員として知っておきたいことを解説していただきました。


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講義の様子

 
 講師は講演順に、金井 裕(日本野鳥の会)、森口紗千子(日本獣医生命科学大学)、安齊友巳(自然環境研究センター)、大沼 学(国立環境研究所)、牛根奈々(日本獣医生命科学大学)、原口優子(出水市ツル博物館クレインパークいずみ)の6氏をお迎えし、森口氏には講師代表として全体の構成や内容の相互調整などのとりまとめも担当いただきました。参加者は43名で、若手からベテランまでさまざまな立場の方々がおられました。
 
 最初の講演は金井氏による「拡散!! H5Nx高病原性鳥インフルエンザ」で、鳥インフルエンザとはどのような感染症なのか、野外でのウイルス拡散、北半球における野鳥の感染状況、養鶏業や野鳥の保全との関係などについて、幅広い視点から解説されました。昼食休憩を挟んで、午後から森口氏による「国内の高病原性鳥インフルエンザ検査体制における現状と課題 −野鳥から動物園まで−」で、自治体や地方環境事務所がとっている検査体制とその課題についての解説があり、安齊氏による「鳥インフルエンザに対する野鳥の緊急調査 −調査の現場から−」で、国内で高病原性鳥インフルエンザウイルスが確認された場合に行われる緊急調査の実際を紹介されました。大沼氏による「高病原性鳥インフルエンザウイルスの感受性種差を培養細胞で評価できるか?」では、希少鳥類への影響を評価するための培養細胞を用いた試験が紹介されました。
 
 つづいての実習では、7つの班に机を移動して分かれ、牛根氏による「フィールドでの注意点 −病原体に感染しないため、そして運び屋にならないために−」が行われました。消毒薬の種類別の特性と適用対象についての解説の後、各班に「観察時の携行品」として渡されたナップザック内の物品を使って、野外観察の後に何をどのように消毒するかを班メンバーで考えて発表するという実践的な課題が出されました。「観察時の携行品」は班によって異なっており、参加者は熱心に話し合って、適切な消毒について理解を深めました。最後に、原口氏による講演「出水市でツル類に発生した高病原性鳥インフルエンザの状況報告」があり、希少鳥類の集団越冬地と養鶏業が隣り合う立地における対応状況を解説されました。


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実習(班ごとの結果発表)の様子

 
 参加者からは、鳥インフルエンザの全体像を短時間で理解することができて良かった、幅広い話題が提供され、どれもわかりやすかった、実習の設定が身近で印象に残った、といった感想が寄せられ、有意義な機会となったことがうかがわれました。最新の情報をまとめた講義や、興味のわく実習を準備してくださった講師の方々、会場の確保や当日の進行を支えてくださった全ての方々に深く感謝申し上げます。
posted by 日本鳥学会 at 13:47| 鳥の学校

2019鳥の学校「高病原性インフルエンザと野鳥」に参加して

松井 晋(東海大学)

 この10数年で、渡り鳥が飛来する時期になると「高病原性鳥インフルエンザ」のニュースがたびたび取りあげられるようになりました。防護服を着た数百人以上の作業員が、養鶏場で大量のニワトリを殺処分して消毒作業を進めているニュースをみると誰しもが不安になります。これほど社会的にも経済的にも大きなインパクトを与えている高病原性鳥インフルエンザウイルスですが、インターネットで調べた情報だけでは、なかなかその全容を理解することができず、「今いったい何が起こっているのか?」、「どのような対策が進められているのか?」ということが気になっていました。今回の鳥の学校は、まさにこのような疑問に応えてくれる内容で、高病原性鳥インフルエンザの最近の情勢や対策、野鳥と接触する機会の多い私たちが気を付けるべきことなどを6名の分野の異なる講師陣から多角的に学ぶことができました。


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班に分かれて実習

 
 最初に、人と動物およびそれを取り巻く生態系をひとつとみなして包括的に問題を解決していくことを目指した「One World-One Health」の考え方が紹介されました。人と動物の両方がかかわる感染症の対策は、生態学でいう複雑な生物間相互作用の中に人や家畜も組み入れたようなマクロな視点をもちながら、病原体が伝播する特定の感染経路を絞りこんで適切に対処しなければいけないので、とても難しい課題だなと感じました。そしてこのような課題だからこそ、さまざまな関係者が分野横断的に連携する必要があるということを理解することができました。またH5N1亜型のウイルスがこの20年間で変異を繰り返して北半球に広がっていった状況などの説明を聞いて、高病原性の鳥インフルエンザの対策には国際協力が不可欠だということもよくわかりました。

 国内では高病原性鳥インフルエンザウイルスに対してどのように対応しているのか?ということいついても、その対応の流れや出水市の具体例について大変興味深い話を聞くことができました。まず野鳥については野鳥マニュアル(環境省2018)、飼養鳥については飼養鳥指針(環境省2017)に沿って行われる鳥インフルエンザの簡易検査、遺伝子検査、確定検査などの対応フローについて説明がありました。また早期警戒や飼養鳥の安楽殺等の重要な判断をする情報として確定検査結果を利用するためには検査時間の短縮が大きな課題であるという指摘も演者からありました。そして、いざ高病原性鳥インフルエンザウイルスが確認された場合に、発生地点を中心とする半径10qの範囲で実施される緊急調査についても解説がありました。また高病原性鳥インフルエンザが過去に発生している出水市で環境省・鹿児島県・出水市・鹿児島県ツル保護会が合同で実施している監視活動についての説明もありました。出水市の一連の活動の中で最も印象に残ったのは、基幹産業となっている養鶏業者が高病原性鳥インフルエンザの発生を未然に防ぐ活動を自衛のために積極的に進めているという点でした。これはまさにワンヘルスのアプローチで様々な関係者が積極的に対策しているモデルケースのように感じました。

 高病原性鳥インフルエンザウイルスの各種鳥類に対する病原性に関する最新の研究も紹介されました。鳥インフルエンザウイルスの病原性はニワトリをもとに高病原性と低病原性が決定されているそうで、高病原性鳥インフルエンザウイルスに感染した際の死亡率は鳥類種によって異なるようです。そのため各種絶滅危惧種の細胞を活用して、さまざまな鳥類の高病原性鳥インフルエンザウイルスの感受性を評価するための手法が考案されているそうです。今後の研究成果が気になります。

 講演の間には、「フィールドでの注意点」と題する楽しいグループワークもありました。ここでは講師から「バードウォッチャーが病原体の運び屋になる可能性がある」という鳥好きの私たちにとっては衝撃的!?な事実が指摘されました。そしてフィールドで動物由来の病原体に感染しないためは、節度ある行動(むやみに生体・死体・痕跡に触れない)と昆虫対策(例:マダニ)が重要だという注意がありました。さらに私たちが病原体の運び屋にならないために、各グループに配られた持ち物を使って、フィールドに出かけた際に現地で靴、機材、皮膚などを消毒する方法や手順をグループのメンバーで話しあいました。このグループワークでは持ち物に含まれていたウィスキーを消毒のために使用するべきか、これは講師が仕組んだ引っ掛けではないのかということなどをメンバーであれこれ楽しく議論することができました。


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バードウォッチング後の消毒として出された「お題」

 
 今回の鳥の学校で鳥インフルエンザについて総合的に学ぶための貴重な機会を提供していただいた鳥学会企画委員会の皆様、会場となった帝京科学大学の方々、そして興味深い話題を提供していただいた講師の皆様に感謝申し上げます。
posted by 日本鳥学会 at 13:45| 鳥の学校

2018年11月18日

鳥の学校(2018年)「鳥類研究のためのバイオロギング野外実習」の報告(3人目)

伊藤加奈(公益財団法人 日本野鳥の会)

 ジオロケーター、データロガー、衛星発信機。これまで何度か見聞きしたけど、自分で使ったことがないし、違いがどうもよく分からない。どの調査にどの手法が適しているのか?今回、実習付きの講習会に参加することで、色々学ぶことができました。
 今回の講習で良かった点は、2泊3日と時間が十分に確保されていたので、講義でバイオロギングとは何ぞやということから、それぞれの機器の仕組み、使用(研究)事例まで、一から解説してもらえたことでした。例えば、位置の記録というと一般的にGPSがよく知られていますが、照度や加速度、水深等の情報による記録方法があることや、データの取得方法は、ロガーに蓄積され、回収が必要なタイプとデータは発信されるので回収する必要がないタイプ(発信機)があること。また、ロガーの装着方法として、ハーネスと防水性テープがあり、それぞれの長所・短所など。今まで断片的だった情報がつながり、バイオロギングの全体像が見えてきました。このほか、機器の重さやバッテリーの持ち、価格等にも違いもあるので、実際にどの機器を使うかは、実施例や経験者に尋ねながら検討するのが良さそうでした。

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図1.今回使用したデータロガー。防水仕様になっているタイプ(消しゴムではない)

 もう一つ、良かった点は、実習で実際にロガーの装着ができたことでした。学ぶには、やっぱり実践が一番です。付け方としては、図2のように特別難しいわけではないのですが、実際にやってみると、私は羽の取りだしが不十分だったせいか、ロガーがぐらついていて、固定が甘いという結果に。もう1、2回練習すれば上手くできる気がしますが、それはこれまでの研究者の試行錯誤によって方法や資材が確立しているのであって、装着する鳥や機器が違うと、自分で別途工夫が必要だろうと思いました。ロガーの装着は参加者12人全員が経験することができました。オオミズナギドリの営巣地にも直接入り、巣穴を見たり、ヒナの計測をしたりできたこともなかなか出来ない経験で、講師陣の参加者に出来るだけ経験させてあげたいという思いを感じました。
 バイオロギングは、大型の海洋動物での研究が主流と思っていましたが、今ではそれに限らずに活用の場が広がっているようです。当会でも昨年よりアカコッコの利用地域を把握する調査で利用しています。今回、バイオロギングが調査手法の一つとして少し身近なものになったので、機会があれば積極的に使ってみたいと思います。

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図2.a)ロガーの装着方法:装着したい場所にガイドライン(ここでは枠を使用)をおく。その内側の羽毛をピンセットを使って取り出す。b)防水テープの粘着面を上にして羽毛の下に付ける。c)ロガーを羽の上において、テープを巻く d)完成。ロガーがしっかり装着されているか触って確認。

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図3. 計測のために巣穴からヒナを出す講師

posted by 日本鳥学会 at 12:00| 鳥の学校

2018年10月23日

鳥の学校「バイオロギング野外実習」に参加して

細田凜(日本獣医生命科学大学)

・はじめに
 ドラえもんの秘密道具とも言われるバイオロギング。その専門家に直接ご教授いただけることは大変貴重な機会であるため、この度参加することに決めた。

・バイオロギングとは 
 動物に小型の記録計(データロガー)をとりつけ、「動物自身に」行動や周囲の環境などを測定・記録させる画期的な技術だ。移動の記録に加え、様々なパラメータ(環境温度や、心拍数、採餌行動など)を同時に測定することも可能だ。これにより、生息域の特定や、渡り鳥のメカニズムの解明、環境モニタリングや生息海域の環境変化など種や生物多様性の保全に寄与することができる。
 ロガーには、防水機能付きものや再回収する必要のないもの、設定条件が揃うと自動で記録が開始されるものなど様々なタイプのものがある。また、パラメータの一つである「動き」を記録する加速度計は、XYZ軸の震えによって、その場所でどんな行動をしていたのかが分かる優れものだ。

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図1. 野外実習前にバイオロギングの基礎を学ぶ。

・実習
 舞台は、粟島。オオミズナギドリ有数の繁殖地だ。
オオミズナギドリの成鳥は、昼間沖合いで魚を捕り、夜になると巣に戻ってくるため、ロガーの装着・回収は真夜中に行われる。オオミズナギドリの営巣地では、オスの「ピーピー」、メスの「グワッ」という声が呼応し、月明かりに照らされた夜空を悠然と舞う姿は、神秘的なものであった。

1)ロガー装着
 実習一日目の夜は、成鳥にロガーを装着した。
ロガーの装着は、羽毛の上に直接接着材を付けて装着しているのかと思っていたが、実際はしっかりとテープで固定されていた。ロガーの装着方法は、背中の羽毛をめくってテサテープを敷き、同様に数枚並べていったら、その上にロガーを置いて丈夫なテサテープを巻き固定する。初めてのロガー装着は、テープから羽がはみ出てしまったが、良い体験だった。

2)ヒナの測定
 実習2日目の午後は、親鳥たちが海へ狩りに出かけている昼間に、巣穴にいるヒナの身体計測を行った。オオミズナギドリの巣穴は、海岸の急斜面にあるため、巣穴に行くのもかなりスリルがあった。巣穴からヒナを出すと、まだ灰色の綿毛に覆われてもふもふだった。ヒナを鳥袋に入れ、頭長や自然翼長など5項目と体重を計測した。

3)ロガー回収・解析
 実習2日目の夜は、装着したロガーの回収と解析を行った。
ちなみにもし再捕獲できなかったり、再捕獲する必要のないロガーの場合でも、羽に取り付けているロガーは換羽と共に外れるので、装着個体の永久的なストレスはないと考えられる。
 回収したロガーをPCにつなぎ、ロガー解析専用ソフトでデータをダウンロードした。地図に示されたオオミズナギドリが飛んだ軌跡を見たときには、こんなに飛んでいるのかと感心した。

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図2. 繁殖地内で捕獲した個体を計測する。

・まとめ
 バイオロギングは、その動物を通して様々なことを明らかにでき、それらを根拠に種や生物多様性の保全にも寄与することができる魅力的で興味深い技術だ。いつか鳥の研究ができる日が来たときには、ぜひともバイオロギングを使ってみたい。

・謝辞
 山本さま、松本さま、大学のみなさま、この度は大変お世話になりました。ご多忙の中、バイオロギングについて丁寧なご教授をいただき、誠に感謝申し上げます。
 川上さま、鳥の学校関係者の皆さま、このような貴重な実習の機会を与えていただき、誠に感謝申し上げます。

posted by 日本鳥学会 at 15:42| 鳥の学校

2018年09月25日

鳥の学校(2018年):第10回テーマ別講習会「鳥類研究のためのバイオロギング野外実習」の報告

川上和人(企画委員会)

 今回の鳥の学校は、鳥学会2018年度大会と連結して、9月17日〜19日に新潟県の粟島にて実施された。講習会のテーマであるバイオロギングは、動物にGPSや加速度計、照度計、ビデオカメラなどのデータロガーを装着することにより、観察のみでは得られない情報を得る夢のような技術である。安楽椅子研究者を目標とする私は、この技術の習得という私利私欲を満たすため、講習会の企画を進めたのである。
 この講習会では、バイオロギングを用いて精力的に研究を進める統計数理研究所の山本誉士さんと名古屋大学の松本祥子さんを講師としてお迎えした。実習を行った粟島は、約4万つがいが利用するオオミズナギドリ繁殖地を擁し、名古屋大学や長岡技術科学大学が研究を進めているフィールドだ。講習会ではまさに現場で調査中の5名の名大生にサポートをいただいた。学会大会会場から電車と船に揺られての遠足企画というハードルにも関わらず、定員12名を超える参加申し込みがあり、バイオロギング研究への期待感がうかがわれた。参加者は5名の学生を含む10代から60代までの幅広い年齢層から集まった。

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図1. オオミズナギドリ繁殖地の環境。

 初日の集合時には雨がそぼ降る悪条件であったが、いつしか雨も上がりいよいよ講習が開始された。まずは山本さんによりバイオロギングを用いたオオミズナギドリ研究の概要についてのレクチャーを受ける。最近の技術発展により、様々な知見が得られていることが披露される。次に、松本さんによりデータロガーの解説が行われる。ロガーは小型高性能化されているが、精密機器ゆえに取り扱いには細心の注意が必要だ。海鳥に装着するということは、水中に叩き込まれることを意味する。万が一浸水すれば高価なロガーは壊れ、何よりも貴重なデータが失われる。ロガーの防水性を担保するため、時にはグリスとブチルテープで保護し、時にはサランラップと熱圧縮チューブで被覆する。実践により蓄積された実用的技術が、この分野の発展を支えているのだ。
 そしていよいよ夜間調査が始まる。夜間に繁殖地に飛来するオオミズナギドリが、講師により捕獲される。エキスパートの手ほどきを受けながら、全参加者がオオミズナギドリの背にロガーを装着する体験をさせていただいた。もちろん参加者には初めての体験であり、講師らのようにうまくはいかない。「俺はまだ本気出してないだけ」と臍をかみつつ、手際よく捕獲・装着する講師らに感心するばかりであった。

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図2. 講師によるロガー装着。

 24時まで続く実習明けに寝不足を漲らせた二日目、バイオロギング研究の発展についてのレクチャーを受ける。興味は疲れを上回り、参加者は脱落することなく講義を吸収する。講義の次は、繁殖地にて雛の計測実習を行う。ロガーから得られたデータのみでは、研究の面白さは半減する。繁殖地での雛の成長や親鳥のコンディションなどと組み合わせることで、情報の価値は高まるのだ。グニャグニャと動く雛の計測は初心者には難しいが、講師の粘り強い指導により全員がこれをマスターすることができた。

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図3. 繁殖地での雛の計測実習。

 二日目の夜間には再び繁殖地に向かう。足を滑らさぬよう、繁殖個体を撹乱しないよう、慎重に歩を進めて夜の繁殖地を経験する。講師は以前にロガーをつけた個体を再捕獲し、丁寧に機器を取り外す。これでようやくデータが得られるのだ。回収したロガーからデータを抽出し、結果がパソコン上で披露される。そこには、観察からは得られない海上の軌跡が美しく描かれていた。
 最終日には、サポート役を務めてくれた院生たちの研究成果が紹介される。バイオロギングにより得られる情報の利用方法は無限だ。知られざる移動軌跡、巣立ち後の死亡状況、年齢による行動変化、ビデオが捉える未知の採食生態。ロガーをつければデータは得られる。しかし、大切なのはそこからどのような情報を引き出すかという点だ。それぞれに工夫された視点で行動を解釈し、海鳥という特殊な生物の行動に新たな理解が加わる。
 さて、活字にすると簡単なように見えるが、バイオロギングでデータを得るのは大変なことである。暗い夜中に急斜面の繁殖地に通い、鳥を探して捕獲する。ロガーの電池はせいぜい数週間しかもたないため、1度つければ終わりというわけではない。多数の個体の行動を把握するため、夜の繁殖地に日参し、泥まみれになりながら捕獲、装着、計測を繰り返す。結果だけを見るとデータ解析が主要な仕事のようにも見えるが、そのデータを得るために調査者は何ヶ月も島に留まり、汗を額にフィールドワークをこなす。私たちが学んだのは、一方でバイオロギング研究の技術であり、一方で研究を支える地道な研鑽の必要性だった。安楽椅子研究などと口にしていた自分に恥ずかしさを覚えながら、講習は無事に終了した。
 参加者にとって、今回の講習は忘れがたいものになっただろう。綿密な計画と臨機応変な対処で講習を進めてくれた講師の山本さんと松本さん、そして名大の皆さん。現地での移動から名物わっぱ煮まで、あらゆる面で便宜を図っていただいた民宿松太屋さん。暖かい笑顔で出迎えてくれた粟島の方々。今回の講習を支えてくれた全ての方のホスピタリティに、心からお礼を申し上げたい。

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図4. 焼き石で煮立てた名物わっぱ煮。

*バイオロギングに興味のある方へ
日本バイオロギング研究会編「バイオロギング−最新科学で解明する動物生態学」(京都通信社)
http://www.kyoto-info.com/kyoto/books/wakuscience/biologging.html
日本バイオロギング研究会編「バイオロギング2−動物たちの知られざる世界を探る」(京都通信社)
http://www.kyoto-info.com/kyoto/books/wakuscience/biologging2.html

posted by 日本鳥学会 at 21:39| 鳥の学校

2017年11月21日

鳥の学校「鳥類研究のためのDNAバーコーディング」に参加して

水村春香

 DNAバーコーディングは羽一枚、肉片一かけら、血液一滴からその持ち主を特定できる、夢のような種同定方法です。私は猛禽類のペリットや食痕からその食性を調べることがあるので、このDNAによる方法が使えれば、より精度高く餌の種同定ができるのではないかと考え、今回の鳥の学校に参加させていただきました。
 講習では講師の方々の説明を聞きながら、用意された謎の肉片の種同定を試みました。タンパク質の溶解、PCR、電気泳動、シーケンス反応、解析配列の決定を経て、世界中の生物のDNA配列がデータベース化されているBOLDシステムを用いて種同定するという一連の過程を体感することができました。実験過程は上記のように書くと短く感じられますが、これらの中にはさらに細かい過程がいくつもあり、DNA解析の苦労を実感しました。機械の問題で配列の解読ができないアクシデントもありましたが、用意されていた配列から無事に種同定できました。
 各種反応の待ち時間にはDNAバーコーディングの原理と応用、BOLDシステムの使い方を勉強しました。DNAバーコーディングにより形態では判別が難しい隠蔽種が発見され、バードストライクにおいては衝突を起こした種を血痕から同定し対策に役立てられているそうです。また、糞中の種子から種子散布する種を特定できるなど、様々な分野でこの技術が応用されていることがわかりました。そして全世界の鳥類のDNA解析を目標とし、世界中の研究者、研究機関が協力してBOLDシステムに標本とDNA配列を登録していることも初めて知りました。現在鳥類では4261種がBOLDシステムに登録されているそうです。今後さらに充実し、多様な分野で応用されていくのではないかと思います。
 DNAバーコーディングは設備や費用の問題もあり、誰でも今すぐに解析できるというわけではないと思います。しかしこの講習を受けて、手順を踏めば誰でも解析できること、そして何より分析の現場を体感することができました。時間の制約もあった中、数多くの実験内容をわかりやすく解説してくださった講師のみなさま、そして企画していただいた方々にこの場を借りて感謝申し上げます。

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各自のパソコンでBOLDシステムを参照

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「未知の肉片」の種同定の答え合わせ
posted by 日本鳥学会 at 19:07| 鳥の学校

鳥の学校2017:DNAバーコーディング

黒沢令子

 2017年の鳥の学校は、筑波大学開催の鳥学会大会とシンポジウムが終わった9月18日から2日間、国立科学博物館の実験室で実習が行なわれた。受講生16人と聴講生6人に対して、講師4人と企画委員会から1人がついてくれるという恵まれた環境だった。
 まず、講師の齋藤さんから原理の説明があり、種名のわからない生物の体部からDNAを抽出して、種の同定をすることで、バンディングを含めて鳥類学、バードストライク対策、種子散布、また多くの人間活動の幅広い分野で応用が利く手法であるという話があった。
 実習では受講生は2つのテーブルに分かれて2〜4人のチームを組み、サンプルからPCR、DNAの抽出、シークエンシング、完成した配列をBOLD systemsを使って種同定をする工程を行なった。
 受講生は2日目の昼食時に自己紹介をした。その後親睦を図る時間をとる予定だったが、自己紹介が熱心だったので時間が満ちるほどだった。年齢層は思ったよりも幅が広く、若い人は大学2年生から、年配の人は退職後、野外研究を続けている人まで、老若男女がいた。目的も野外で拾った羽を種同定したい、糞や胃内容物から食物同定したい、個体識別をしたい等々、多岐にわたっていた。
 実験の各過程でうまくいかない場合もあったが、講師陣が事前にそうした事態を見越して必要な資料を準備しておいてくれたので、最後まで作業を続けることができた。通常なら、3日ほどかかる工程を、2日間の計16時間で駆け足で行なったことになるが、配布資料が充実していたので、ついていくことができた。
 個人的に役に立ったと思う点は、分子生物学の手法について全く経験がないと、翻訳など一般の人向けに説明するときにうまく伝えられないが、今回のように一通りの過程を実物に触れて体験したことで、自信が付いた。今後、新しい用語や技術に出会ったときにも、この経験を元にすれば、自力で勉強することができるのではないかと思う。
 一方、機材や試薬が高価なので、一般人が簡単に自力で実験を行なえるものではないこともわかった。少数のサンプルならば、外注するという方法があることも学んだ。
 年齢がいってから新しい技術に接したわけだが、実体験できたことで、たいそうな充実感を覚えている。企画・主催してくれた鳥学会企画委員会、共催と場所提供をしてくれた国立科学博物館、および講師の皆さまにくれぐれもお礼を申し上げたい。

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慣れないサンプル操作に真剣

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シーケンサーの設定を見守っています

posted by 日本鳥学会 at 19:06| 鳥の学校