2016年10月13日

ポスター賞を受賞して

2016年10月13日
東邦大学生物学科 松下浩也


(1)受賞時の心境
 人生初の学会参加ということもあり、学会がどのような場所なのかわからず、私のように形態学を学んでいる人間が果たして受け入れてもらえるのか不安だった。そのため、学会ではポスター賞のことは何も考えず、学会を楽しむことに専念しようと思っていた。最初にポスター賞の受賞を知った時には、「本当に僕でいいんですか?」と審査委員の方々に聞きたくなった。しかし、今となっては、自身の研究をこれだけ評価していただけたことは光栄であり、人生で最もうれしい出来事の一つであったと実感している。そして、今まで苦手であった人前での発表に対して自信がついた。これを励みにして、これからも新たな発見ができるように日々精進したいと思う。

(2)ポスターの概略
 鳥類の特徴といえば、嘴や翼、羽毛などの形態を想像する人が多いと思う。しかし、鳥類の特徴は足にも見られる。鳥類の足は生息環境や行動に対応して多様な形態が見られるが、多くの水鳥の足は水かきをもち、それは蹼足や全蹼足、弁足などに分類される。蹼足や全蹼足は水かきが趾どうしをつなぐ構造をもつ。一方で、弁足は独立した各趾の縁に弁膜と呼ばれる葉状の膜構造をもつ。弁足は現生鳥類のうちツル目クイナ科のオオバン属(Fulica)の全種、ツル目のヒレアシ科(Heliornithidae)の全種、カイツブリ目(Podicipediformes)の全種、チドリ目シギ科のヒレアシシギ属(Phalaropus)の全種の4系統のみで見られる珍しい形態である。しかし、弁足が形成される仕組みは未だ解明されていない。今回、私は弁足を持つツル目クイナ科のオオバン(Fulica atra)と、その近縁種で弁足を持たないツル目クイナ科のバン(Gallinula chloropus)の胚発生を調べた。趾の外部形態と内部形態を2種で比較し、オオバンの弁足形成で観察された新発見について報告した。

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弁足をもつオオバン

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ポスター賞を受賞した感想

2016年10月13日
総合研究大学院大学 加藤貴大


 この度は日本鳥学会のポスター賞を頂くことができ、嬉しく思います.私は研究を始めた2010年から鳥学会に参加しており,今大会で7回目の参加となります.その間に,鳥学会での発表を通して色々な方からアドバイスを頂き,お手伝いをして頂きました.学会の皆様のご助力があっての受賞だと思います.

 他の学会にも実質的に学生を対象としたポスター賞などがありますが,鳥学会が公式に執り行うポスター賞はこれまでにありませんでした.今回,鳥学会の変化に立ち会うとともに,第一回の受賞者となれたことが大変ありがたいです.今後,若手の鳥類研究者にとっては,鳥学会のポスター賞こそが最も身近な目標の1つとなるのではないかと思います.さらに,副賞として学会スタッフTシャツを,mont-bellさんからサンダーパスジャケットを頂きました!(写真1)。これほど豪華なポスター賞は鳥学会にしかないと思います.早く寒くならないかと,いつにも増して天気予報を気にするこの頃です.

 嬉しさがある一方で,少し戸惑うこともあります.もちろん賞を頂いたことは大変ありがたいのですが,ややプレッシャーでもあります.今回が第一回ということもあるので,より一層精進しなければと,身の引き締まる思いです.

 最後になりますが,ポスター賞を創設して下さった評議員の方々,2016年度大会を運営された方々,ポスター賞審査員の方々,そして研究協力して下さった方々にお礼申し上げます.ありがとうございました.

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写真1. mont-bellさんから頂いたレインジャケットを着て野外観察している様子.

発表内容
 スズメ Passer montanusの♂胚死亡率が繁殖条件とホルモンレベルに応じて変化する,という研究を発表しました.スズメの孵化率が6割程度であり,他の鳥類よりも孵化率が低いことが知られています(写真2).この孵化率の低さはイエスズメやスペインスズメなどのスズメ属鳥類でも報告されています.「なぜ,孵化率が低いのだろうか?」という単純な疑問が本研究の出発点です.

 研究を進めていくうちに,多くの未孵化卵は受精卵であり発生初期段階で死亡していること,また,死亡する胚のほとんどが♂であることが分かりました(性特異的死亡).そして,繁殖密度が高い場所や,巣場所競争が激しい場所で繁殖する場合,性特異的死亡が多く見られました.さらに、性特異的死亡の生理的な要因も調べました.性特異的死亡は,♀親や卵黄のステロイドホルモンレベルとの関連が報告されています.そこで,雛の糞中ホルモンなどからコルチコステロン量を測定し,性特異的死亡の関連を示唆しました(前後しますが,繁殖密度などに注目した理由はこれです).

 鳥類では発生段階の他に,巣内雛,巣立ち後段階などでも性特異的死亡が報告されていますが,どのような状況下で死亡率が高まるかについては不明でした.本研究は,繁殖条件に応じて性特異的死亡が起こることを明らかにしました.今後は性特異的死亡の生態学的機能についても調べたいと考えています.

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写真2. スズメの孵化雛と未孵化卵.多くの巣で,孵化しない卵(胚発生初期に死亡する卵)が見られる.

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日本鳥学会ポスター賞 初代受賞者は加藤さんと松下さんに

2016年10月13日
日本鳥学会企画委員会


 2016年度大会より学会が表彰する「日本鳥学会ポスター賞」が始まりました。これまでにも各大会の実行委員会が主催したポスター賞が不定期に開催されてきましたが,今年からは学会が毎年,若手(30才以下)の優秀ポスターを表彰することになりました。

 そして初代の受賞者が総研大の加藤さんと東邦大の松下さんに決まりました。おめでとうございました。受賞者の今後の活躍が「ポスター賞」の価値を決めていきます。プレッシャーをかけるわけではありませんが,今後も良い研究をつづけていってください。

 最後になりましたが,審査をしていただいた6名の方,副賞をご提供いただいたモンベル,そして副賞のTシャツとともに,いろいろな事務手間をおかけした大会実行委員会の皆さま,ありがとうございました。
 初めての審査ということもあり,審査員の皆さんに多大な負担をかけてしまいましたが,今回の反省をもとに,負担が軽くなるようにして来年以降実施していこうと思います。ポスター関係者,指導教官などを除くと,審査をお願いする人が限られていしまうことが賞実施の上の悩みどころでした。来年以降,審査員のお願いがいきましたら,学会を盛り上げるためにもぜひ,快くお引き受けいただけたらありがたいです。よろしくお願いします。

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初代受賞者 加藤貴大さん(左)と松下浩也さん(右)。上に着ているのはモンベルから副賞としていただいたジャケット

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2016年10月12日

日本鳥学会2016年度大会自由集会報告:チュウヒ研究の今

2016年10月11日

企画者:多田英行(日本野鳥の会・岡山)、先崎理之(北大院・農)、高橋佑亮(伊豆沼・内沼環境保全財団)
(文責:多田英行)


チュウヒはヨシ原を代表するタカの仲間で、生態系の豊かさを象徴する生き物です。しかし、繁殖地が限定的であることなどから、これまであまり生態研究が行われてきませんでした。一方で、近年はメガソーラー開発などの新たな課題が発生しており、チュウヒの保全のためにも生態の解明が急がれています。
今大会は国内最大級のチュウヒの繁殖地である北海道での開催ということで、チュウヒの自由集会を開催するには最適な機会となりました。当日は60名を超える参加者に訪れていただき、みなさんのチュウヒへの関心の高さを感じることができました。

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【各講演の概要】
1.日本のチュウヒの生態〜地域や季節による多様性〜(多田英行)
 これまでに報告されている文献を基に、チュウヒの採餌環境や餌動物などが季節によって異なることや、行動圏の広さや営巣環境などが生息地によって異なることなどが紹介されました。

2.勇払原野のチュウヒ(先崎理之・河村和洋)
北海道勇払原野での営巣環境や繁殖成功率について発表されました。営巣地周辺の採食地や人工構造物の多さが、チュウヒのペア数や巣立ち雛数に影響するとの研究内容も紹介されました。

3.北海道のチュウヒの営巣環境について(一北民郎)
北海道で見られる営巣環境について、ササ環境の事例も含め、営巣地の植生や水深などのデータが発表されました。また、これまでの観察経験からチュウヒの営巣環境の選択に関する考察も紹介されました。

4.秋田県八郎潟干拓地のチュウヒ(高橋佑亮)
本州以南最大の繁殖地である八郎潟干拓地での繁殖状況や営巣環境、採食生態などが発表されました。また、遷移の進行によるヨシ原の衰退がチュウヒの繁殖を脅かしていることが紹介されました。

【まとめ】
 本集会では主に繁殖期のチュウヒについて最新の知見が報告され、チュウヒの生態を参加者と共有することができました。一方で、チュウヒの生息個体数や繁殖成功率などの基礎的な情報が未だに把握されていないことを再認識しました。チュウヒの生息地の減少要因として自然開発以外にも遷移の進行が課題であることが指摘され、チュウヒの保全のためには生息に適した代替環境を創出していく必要も議論されました。
各地のチュウヒについてまとまった形で情報交換がされる機会はまだまだ少ないので、本集会が今後のチュウヒの研究と保全に繋がる一助になれば幸いです。

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2016年10月11日

写真好きの研究者に朗報  自分の論文の掲載された学会誌の表紙を自分の写真で飾りませんか?

2016年10月11日
日本鳥学会誌編集委員会 植田睦之


デジカメで手軽に写真が撮れるようになり,研究の合間に鳥の撮影を楽しんでいる方も多いのではないのでしょうか? そんな写真で学会誌の表紙を飾りませんか?

最近の和文誌は,表紙写真を掲載論文に関係するものにしよう,と,編集サイドで表紙写真を探して掲載することが多くなっています。でも,自分の論文が掲載された学会誌の表紙写真も自分の写真だったら,ちょっとうれしいですよね。
そこで,論文の投稿時に表紙写真もあわせて投稿できるようにしました。

いい写真をお持ちで,論文をどこに投稿しようか迷っている方,ぜひ表紙写真とともに日本鳥学会誌へ投稿ください。投稿お待ちしています。
 
ただ,1つの号にはたくさんの論文が掲載されますが,表紙は1つ。複数の表紙写真希望者がいた場合は,希望されても表紙写真として掲載できない可能性があります。表紙掲載の可否については,入稿時に印刷幹事から連絡させていただきますので,その点はご了承ください。

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2016年10月06日

日本鳥学会2016年度大会自由集会報告「鳥の巣昆虫:10年の総括と今後の展望」

2016年10月6日
世話人:上田恵介・那須義次


鳥学会の自由集会で今まで我々が取り組んできた、鳥の巣と昆虫との研究について、何がどこまでわかったのか、何がわかっていないのか、今後の課題等について紹介しました。当日は午後6時30分の開始にも関わらず、28名もの方に参加いただきました。感謝申し上げます。以下に発表内容等について簡単に紹介します。
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1.鳥の巣と昆虫:これまでのまとめ 
那須義次・村濱史郎・松室裕之・上田恵介

この10年、我々が取り組んできた鳥の巣と昆虫について、昆虫は鳥の巣を繁殖、越冬および蛹化の場に利用していることを、フクロウ類、カラ類、カワウ、ブッポウソウ、コウノトリなどの巣の事例を紹介した。鳥と昆虫との関係では、昆虫は巣内の糞やペリット、食べ残し、巣材を摂食しており、巣内清掃に一定の役割を果たしていると考えられること、鱗翅類では非常に珍しい幼虫産出性(卵胎生)が見られ、その進化と鳥の巣に生息することとの関係が示唆されること、巣内温度は抱卵・育雛中に外気温よりも高く、このことが巣内共生者に有利に働いていることなどを紹介した。今後は鳥と巣、巣内共生者との相互関係の詳しい解明、幼虫産出性の進化、巣内共生者の適応行動の解明等および共同研究を進める必要性について述べた。


2.先島諸島の巣内昆虫 
村濱史郎・那須義次・上田恵介・松室裕之

石垣島・西表島など八重山諸島には樹上に球型や紡錘型のコロニーを形成するタカサゴシロアリが生息している。コロニーには長径で1メートルを超えるような巨大なものもある。同諸島に分布する亜種リュウキュウアカショウビンiはこのシロアリの巣に穴を穿って営巣する習性がある。一方、珊瑚隆起礁である宮古島にはタカサゴシロアリは生息せず、同島に分布しているリュウキュウアカショウビンは枯木に穴を穿って営巣している。

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筆者らは西表島および石垣島のタカサゴシロアリ巣に営巣するリュウキュウアカショウビンと宮古島の枯木に営巣するリュウキュウアカショウビンの繁殖済の巣の、巣内に生息する昆虫相に違いが見られるか調査を実施した。また宮古島では同じく枯木に営巣するリュウキュウコノハズクと樹上に開放巣をつくり営巣する亜種リュウキュウハシブトガラスの繁殖済巣の調査も実施した。さらに西表島と宮古島の林内に羽毛トラップとウールトラップを設置し両島および鳥類の巣、内外に生息するガ類の分布の違いについても調査を行った。

調査の結果、西表島でタカサゴシロアリの巣43巣を発見しそのうち16箇所でリュウキュウアカショウビンの利用痕跡を確認した。石垣島では17のタカサゴシロアリの巣から2箇所でリュウキュウアカショウビンの利用痕跡を確認できた。宮古島では枯木に穴を穿ってつくられたリュウキュウアカショウビン巣9巣、リュウキュウコノハズク巣5巣、リュウキュウマツに架巣されたリュウキュウハシブトガラス巣、1巣の調査を実施している。

これらの巣およびトラップからはガ類に限定して言えば、本州でも広く確認されている、フタモンヒロズコガ、マエモンクロヒロズコガなどのほか、Tinea subalbidella 、Ceratophaga sp.、Erechthias sp.など10種の蛾を確認し、そのうち6種は日本未記録種または新種と考えられるものであった。
今後継続して調査を進めサンプル数を増やし、宮古、八重山両諸島間、そして鳥類の巣の内外の昆虫相の相違を明らかにして行きたい。


3.ルリカケスとオオトラツグミの巣にすむ昆虫
上田恵介・石田健・水田拓

奄美大島には固有種のルリカケスと、固有亜種のオオトラツグミが生息しているが、これらの鳥の巣の昆虫相を調査した。
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オオトラツグミの自然巣は、コケ、土を主体にした清潔な巣で、ミミズ(餌のミミズの生き残り?)が生息していたものの、昆虫は少なかった。また鱗翅類幼虫はいたが、羽化しなかったので、同定できなかった。

ルリカケスの巣箱は,石田が系統的に調査をしている巣箱を調べた。ルリカケスが使用した巣箱の中には大量の枯れ枝が持ち込まれていて、比較的、乾燥した印象であった。出て来た昆虫は鱗翅目では、枯葉食・腐植食のヒロズコガ類、シマメイガ類、シマチビツマオレガ、キチン食もおこなうマダラマルハヒロズコガとキチン食性が考えられるアトボシメンコガなどであった。

鞘翅目昆虫ではリュウキュウオオハナムグリが特筆できる。この種は2005年にルリカケスの巣箱から採集され、本種と確認されたのが最初である。2014年9月の調査では3つの巣箱で50匹もの幼虫が採集され,本種がルリカケスの人工巣箱巣をよく利用していることがわかった。巣箱によって幼虫の大きさが異なり,同じ巣箱では大きさはそろっていたことから、同時期に産卵されたものと考えられた。このときは他に自然巣1個を調査したが幼虫はいなかった。

リュウキュウオオハナムグリがルリカケスの自然巣ではなく、巣箱を利用する理由は観察例数が少ないので断定は出来ないが、自然巣は湿度が高いことが原因している可能性がある。またリュウキュウオオハナムグリの生活史については、成虫は7月に巣箱に飛来し、産卵、幼虫は越冬後6-7月に羽化すると推定された。
ほかに、猛禽類やカラスの巣からはアカマダラハナムグリ、フクロウの天然巣や巣箱からはコブナシコブスジコガネとシラホシハナムグリ、リュウキュウコノハズクの自然巣からはミヤコオオハナムグリが見つかっている。

こうした調査から見えて来たものは、鳥の巣にはコガネムシ類(とくに数が少なく珍しいハナムグリ類)が多く生息していることが分かってきた。これらのハナムグリ類などは、鳥の樹洞巣を好む傾向があると考えられる。これまで鳥の樹洞巣の昆虫相については非常に情報が乏しかったので、これらコガネムシ類は希少と思われて来たのであろう。沖縄本島には樹洞性巣の環境エンジニアとして、ノグチゲラやリュウキュウアカショウビンが生息している。絶滅が危惧されているヤンバルテナガコガネもこうした樹洞を利用している可能性は高い。


4.虫のすみかとしての鳥の巣−まだわかっていないこと 
濱尾章二

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近年、いろいろな鳥の巣から多くの昆虫が見つかり記録されてきた。しかし、生態に関わる情報は不足している。鳥の巣をめぐる生物のネットワークを解明し、生態系における鳥の役割を明らかにするためには、巣から見いだされる昆虫の記録にとどまらない研究が必要だ。濱尾ら(2016,日鳥学誌 65: 37-42)は、シジュウカラの巣箱を用いた調査から、ヒナが巣立った巣で蛾類の発生が多いこと、巣立ち後巣材を採取するまでの日数が長いとケラチン食の蛾が発生しやすいことを明らかにし、昆虫が積極的に鳥の古巣に侵入し繁殖することを示唆した。今後は、鳥の巣が昆虫の繁殖場所としてどれほど重要であるのか(例えば、他の場所と鳥の巣を利用する割合)、また、鳥の巣を利用する昆虫の利益とコスト(例えば、湿度・温度の影響、捕食者・寄生者の影響)を明らかにしていくことが重要だろう。
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日本鳥学会2016年度大会自由集会報告「漁業による海鳥混獲の削減をめぐる国際動向と国内での取り組み」

企画者:越智大介・井上裕紀子 (水産研究・教育機構 国際水産資源研究所) ・佐藤真弓(バードライフ・インターナショナル)
2016年10月6日
文責:越智大介


皆さんは「混獲」という言葉をご存知でしょうか。「混獲」とは漁業で本来の漁獲対象生物以外のものが意図せず漁獲されてしまうことを意味します。一部の漁業では、海鳥が混獲されることがあり、しかもその中には絶滅が懸念される種が含まれるため、希少海鳥類の個体群保護の観点から大きなリスク因子となっています。本自由集会では鳥学会員にはあまりなじみがないと思われる「漁業による海鳥混獲」をテーマに、海鳥混獲削減対策に関する国際的な動向や混獲削減のための研究状況を紹介し、さらに現在日本国内で行われている海鳥混獲削減に向けた取り組みについて紹介し、海鳥混獲対策の今後について議論を行いました。

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【発表の概要】
1.最近の海鳥混獲をめぐる国内外の動向
越智大介(水産機構・国際水研)

越智からは、漁業による海鳥混獲問題についてこれまでの経緯と現在取られている対策について簡単な解説を行いました。海鳥混獲問題は1980年代ごろからまぐろはえ縄漁業による混獲を起因とする南半球のアホウドリ類繁殖個体群の減少という形で顕在し始め、その後も同様の問題が次々報告されるようになりました。こうした状況を受け、国連総会やFAOの場で規制や対策が打ち出され、その後現在に至るまでは地域漁業管理機関(国際条約により定められた、公海上の漁業を管理・規制する国際機関)や各漁業国において現状調査・混獲削減技術開発・混獲削減措置の順守などの海鳥混獲対策が取られるようになりました。また、希少海鳥の個体群保護については、海鳥混獲対策のみならず、繁殖地の保全・環境整備や、生態情報の調査研究も同様に重要であり、これらの分野と連携し、海鳥個体群保護を目指した包括的なアプローチをとる重要性についても説明を行いました。

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図 希少海鳥保護のための包括的アプローチのイメージ。青は漁業、緑は調査研究、赤は保全関連分野を示す


2.近年導入された混獲削減措置とその評価方法
井上裕紀子(水産機構・国際水研)

井上さんからは、国際海域で行われているまぐろはえ縄漁業における海鳥混獲削減措置について具体的な説明がありました。まぐろはえ縄漁業で用いられている主な混獲回避手法としてトリライン(海に投入されるはえ縄の上に吹き流し付きロープを渡して海鳥の釣り餌へのアクセスを防ぐ)、加重枝縄(釣り糸(枝縄)におもりを付け、釣り餌を海鳥の潜水深度より深い水深に早く沈める)、夜間投縄(海鳥の採餌活動が低下する夜間に操業する)の3種があげられ、この3種から2つの回避措置を選択して使用する規制が新たに導入されたことが紹介されました。また、その評価方法として、混獲率と総混獲数の推定が使用されることが説明されました。さらに、実際の漁船から得られた混獲情報を用いて、夜間投縄、加重枝縄に効果があったことが紹介されました。


3.まぐろはえ縄漁業における海鳥混獲削減手法の研究紹介
勝又信博(水産機構・国際水研)

勝又さんからは、まぐろはえ縄漁業で使われている海鳥混獲回避手法の研究及び実験結果の紹介をしていただきました。まず、海鳥がはえ縄に混獲される経路として、海に投入したはえ縄についた餌を表層や潜水により直接採餌して鈎に掛かる場合とその餌を横取りしようとして鈎に掛かる場合の二つのケースがあることが説明されました.これらの混獲を防ぐ方法として,上記のトリラインと加重枝縄を北半球のまぐろはえ縄漁業に適した形に改善した混獲回避装置を開発し、その効果を検証するために実際に操業を行うはえ縄漁船での実証実験の方法と、その結果が報告されました。


4.刺し網・流し網混獲の国際的な研究動向とバードライフの取り組み
佐藤真弓(バードライフ・インターナショナル)

佐藤さんからは、刺し網・流し網漁業で混獲される海鳥の問題について解説がありました。先に述べたとおり、北太平洋では公海流し網による海鳥混獲が90年代に全面禁止となった一方で、ロシア経済水域内では日本漁船も参加するサケ・マス流し網がその後も続いており、相当数の海鳥(ウミスズメ類・ミズナギドリ類)の混獲が報告されていましたが、昨年操業が全面禁止となったことが紹介されました。さらに沿岸で行われる固定型刺し網でも海鳥の混獲が懸念事項となっており、近年これに対して海鳥の視覚に訴える海鳥混獲回避手法が開発され、その有効性について実験が行われていることについて解説がありました。


5.北海道・天売島における刺し網混獲対策事業の紹介
山本 裕(日本野鳥の会)

山本さんからは、昨年より開始された刺し網海鳥混獲の削減手法に関する実験について紹介がありました。ウミガラスやウトウ、ウミウなどの海鳥の繁殖地となっている北海道の天売島において実施された、先に佐藤さんが紹介した海鳥の視覚を利用した混獲防止網の実証実験に関する説明がありました。実験では、混獲防止網と通常の網を同時に用いて混獲数や漁獲量などのデータ収集が行われており、混獲削減効果についてはまだ十分に情報が集積していないものの、漁獲量や漁業者の使い勝手の問題があるため、さらなる改善が必要であるという説明がありました。


6.総合討論

総合討論では、海鳥混獲の現在の状況や、国内漁業における混獲問題など様々なコメント、意見、情報提供など活発な議論が行われました。特に国内の沿岸漁業での混獲に関しては利害関係者の間で合意形成を根気強く行っていく必要があるという意見が印象的でした。


7.終わりに

本自由集会は初日の早い時間帯での開催であったにもかかわらず、多くの人に参加いただき、終了間際には廊下に人が立つほどとなりました。正直私としましては、比較的マイナーな「海鳥混獲」の話なのでそこまでの人の集まりは予測しておらず、関心のある人の多さに驚き、またうれしく思いました。今後もまたどこかで、海鳥混獲問題を議論する場ができればと思っています。私の発表パートの部分にも書きましたが、海鳥の個体群保護のためには漁業サイドで海鳥混獲対策をとるだけでは片手落ちで、調査研究に基づいた海鳥種の生活史情報をもとに、繁殖地での保護対策と同時に行うことでより有効な対策となるはずですので、今後はこういった包括的な連携をどう形成していくかということも重要になってくるのかな、と個人的には考えています。
最後に、海鳥混獲に興味を持たれた方への参考資料を紹介してレポートを終わりたいと思います。

8.参考資料

FAO (1999) International Plan of Action: Seabirds ftp://ftp.fao.org/docrep/fao/006/x3170e/X3170E00.pdf
水産庁 (2007) はえ縄漁業における海鳥の偶発的捕獲を削減するための日本の国内行動計画 http://www.jfa.maff.go.jp/j/koho/bunyabetsu/pdf/umidori_keikaku160315_a.pdf
Žydelis, R., Small, C., & French, G. (2013). The incidental catch of seabirds in gillnet fisheries: A global review. Biological Conservation, 162, 76-88.
Clarke, S., Sato, M., Small, C., Sullivan, B., Inoue, Y., & Ochi, D. (2014). Bycatch in longline fisheries for tuna and tuna-like species: a global review of status and mitigation measures. FAO fisheries and aquaculture technical paper, 588.
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